第2話
世界が見える……。
どこまでも澄み切った青空。
風がそよぎ、太い大樹の枝葉が揺れる。小鳥は歌い、動物たちは野山を駆け巡る。
おそらくは幸せな世界。そして俺のオリジナルたちが求める世界。
それを、俺は空から眺めている。
果たして何度目だろうか。最近の俺は頻繁にこの夢を見る。
映像でしか見た事のない地球の風景なのに、それが妙なリアリティを持って俺に迫ってくる。
中には映像で見た事のないものまである。それは想像から来るものなのか、それとも俺の遺伝子に刻み込まれた記憶なのか……。
俺はいつも通り、この空の青を揺蕩った。そして流れるままに移り変わる景色をただ眺めた。
そうしている内に目が覚めるはずだった。いつもならば。
ふと、視界が不鮮明になった。
今まで目に映っていた鮮やかな色彩はその色味を失っていき、ざぁっと細かな粒子へと崩れ乱れていく。それはもはやモノクロの砂嵐と言って良い。俺はその砂嵐がまるで自分に襲い掛かってくるように見えてしまって思わず顔をしかめた。
やがて砂嵐は去り、再び視界がひらけて行く。世界が色を取り戻していく。
するとそこには、人間の社会があった。
さきほどの青や緑とは打って変わった、灰色の世界。
空にはガスが染み込み、海には人工のチリが漂っている。雲へと届かんばかりの建物が乱立し、けたたましいノイズが不機嫌そうにあちこちから上がっている。
文明が発達し、誰もが苦しそうに顔をゆがめて歩きながら、それでいてどこか満足しているようにも見える。
その光景を見ていて、不意に胸がチクリと痛む思いがした。
(なんだ今のは……?)
思わず胸をおさえる。
初めての痛みだった。今まで船の中で生きてきて味わった事のない痛み。しかもそれが夢の中でとは。
俺は思わず周囲を見回した。警戒心と恥ずかしさとがごちゃ混ぜになっていた。
すると今度は、別の人間たちの姿が視界に入り込んできた。
あれは……家の中だ。数人の大人や子供たちが食卓を囲んでいる。
これは多分、家族というやつなのだろう。子供たちが手を振りながら何かを言っては、両親が声を上げて笑っているように見えた。
胸がまたもチクリと痛んだ。先ほどのよりも、もっと強い痛み。
彼らの姿を見続けていたら痛みが止まらない気がして、俺はたまらず顔を背けた。しかし痛みは弱まらない。
(心が苦しいのか?まさか……。)
俺はクローンとして、遺伝子操作によって感情を制御された状態で生まれた。マザーコンピューターが言うには、使命を果たすために不必要な要素は取り除いてあるらしい。そんな俺がいくら夢の中でとは言え、こんな体験をするとは考えにくかった。
(いったい、なぜ?)
考えても考えても分からない。
そして胸の痛みは一向に止む気配がない。
(俺は……おかしくなってしまったのか……?)
しばらくすると、再びあの砂嵐が現れた。そして未だ混乱しているこちらの事などお構いなしに、目に映るものすべてをまた埋め尽くしていった……。
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