第1話

「今日も新天地は見つからず、と。」


 俺は操縦パネルから手を離すと、軽く伸びをした。目の前のスクリーンにはたった今、住環境をチェックしたばかりの星の全景とそのステータスが映っている。

 赤々と燃え盛っているように見える星である。パッと見るだけでも生物が住むには適さないように思えたが、案の定というやつだった。

 

「マザー。」

 と、俺は誰ともなく声をかけた。

 すると、天井部にあるドーム型のパネルが光を帯び始めた。


『どうしました?』


「地球が滅んで、もう何年になる?」


『352年です。』


「じゃあ俺の寿命はあとどれくらいだ。」


『約120年です。』


「そうか。長いな。」


『クローンの寿命はオリジナルの寿命のおおよそ倍に設定されています。あなたのオリジナルは80歳で亡くなりましたので、クローンであるあなたの寿命は約160歳と推定されます。ですが、この寿命は環境や個体差によって誤差が生じます。先代のクローンが……』


「もういいよ。分かった。」


 放っておくとマザーコンピューターは求めてもいない解説を延々と垂れ流してしまう。俺はぶっきらぼうに言って、これでおしまいとばかりに話を切り上げようとした。

 しかしそんな俺を、珍しくマザーコンピューターが引き留めてきた。


『教育メッセージ。

 なぜ、そのような質問を?』


「なぜって?……うーん。」

 俺は手をあごに当てがって考えてみた。

 言われてみれば、確かにどうして俺はあんな質問をしたのだろう?


「気になったから、と言ってしまえばそれまでなんだけどな。……変か?」


『人間として、その理由に不自然さはありません。しかし、地球が滅亡してからの年月をあなたが質問するのは、これで2度目です。1度目はあなたが5歳の頃でした。寿命の質問に至ってはこれが初めてです。』


「そうか。じゃあ、先代や先々代の俺は同じような質問をした事があるか?特に寿命について。」


『ありません。死期が近づけば、定期検査の時にこちらから通達しますので。』 


 と言う事は、先代たちは自分たちの寿命についてまるで気にしていなかったって事だ。 

 ……じゃあ、なんで俺はそんな質問をしたんだ?

 分からない。分からないが、なんだか胸のあたりがざわざわする感覚がする。


『……交感神経の緊張が見られます。休息を取る事を推奨します。』


「あ、あぁ……。そうだな、そうするよ。ありがとう、マザー。」


 俺はマザーコンピューターに礼を言うとメインルームを出て寝室へと向かい、ベッドに横になった。

 室内に、静かなピアノの音が流れ始める。マザーコンピューターの仕業だ。

 俺はさっきの事についてもう少し考えたいと思っていたが、思考を整理するよりも先に目蓋が重くなってきてしまう。

 柔らかな旋律に包まれて、俺はそれからしばらくも経たない内に眠りへと落ちて行ったのだった。

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