五感をくすぐる愛の歌

生永祥

五感をくすぐる愛の歌

今もまだ鼻をくすぐる君のがくすぐったくて洗えぬパジャマ 


頬紅が色づく朝はとびきりの魔法戦士になれる無敵ね


ケヤキより映えているから綺麗ねと君が摘まんだ新緑のシャツ


初恋の匂い薫りて誤魔化せぬ 瓶に友の隠していたのに


靴裏に画鋲が刺さる日に話す恋は動かぬパワポに似ている


ライラックの花束抱え行く人の目元の皺は深く刻まれ


五年ぶり開いた辞書に添えられた色褪せ欠けた菫の栞


水色のレンズ入りしサングラス掛けているはラムネ玉


少年が忍び足して手渡した薔薇はあのの帽子と似た赤


ビリビリと破いて捨てたクローバー 四掛よんかけ無限の剥片はくへんとなる


告白と愛の誓いがごちゃまぜのアオハルじみたあのプロポーズ


メンターム、リップ、口紅、グロスへと進化を遂げる乙女のポーチ


カメラワーク不要な恋をしてみたい 写真におさまる愛はつまらぬ


白皙はくせきのコートがふわり風に舞い見上げた枝に落つ桜雨


海水に悴む脚を浸したら骨まで溶けて人魚に還る


春空に貸し出しカード翳しては名前のみ知る君 想いけり 


懸命に腕を伸ばして肩に手を置きてつめたい距離感があり


太ももに花弁が触れる川に今 両足浸すの日焼け痕


平群氏郎女へぐりうじのいらつめ詠んだ歌が在り我が胸震え志乃備しのびかねつも


手折らずにそっと白百合なぞる手の細さ白さに高まる胸よ

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