1-8
一年生の
センターの彼は、今年唯一の推薦入学者である。
昨年の金田とは違い、誰もが予想外の獲得というほどではなかった。ただ、総合先端未来創生高校が求めているのは前線だと思われていたので、話が来た時に安生は驚いた。
実際には、フォワードの有力選手は他校に抑えられていたのである。
誰も、「なんとか高校」が全国大会に行くとは思っていなかった。また、昨年の推薦選手である金田がチームにフィットするとも思っていなかった。
「物足りないチーム」それが、かつての東嶺高校ラグビー部の印象だった。高校の名前が変わり、弱くなることはあっても強くなることはないと思われていた。絶対的フルバックのけが。推薦で入ったのは、部の雰囲気を悪くすると言われていた金田。監督とコーチの解雇。誰が、このチームの躍進を予想しただろうか。
安生は、全国大会に、花園の舞台に憧れていた。県外の強豪校からも声を掛けられていた。もしも総合先端未来創生の優勝が偶然だったならば。全国でもっと上を目指すならば。いろいろなことを考えて、考え抜いて、総合先端未来創生を選んだ。
安生の前で、独特のステップで金田が突破していく。そして、ちらりと振り返った金田は安生にパスを出した。
少し位置がずれている、多くの者ががそう思った。だが、二人は理解していたのだ。
安生の速度が、一気に上がる。空白に落ちると思われたボールが、腕の中にすっぽりと収まった。ゴールラインに向かってさらに加速する。一年生チームの得点か、と思われたが、大きな影が安生の前に現れた。
「安生ちゃーん、通さないよー」
二年生フランカー、西木。彼は、昨年はレギュラーと呼べる存在ではなかった。甲、松上という先輩たちの壁が厚かったのである。同級生の金田や犬伏は、部に欠かせない存在となった。西木は、内心悔しくて仕方がなかったのである。
二年生になり、西木はレギュラーになった。勝ち取ったというよりは、転がり込んできた形である。前線の選手が、5人卒業した。フランカーを専門とする一年生は入ってこなかった。期待されてではなく、とにかく西木が出ないとしょうがないという状況なのである。
安生の動きは、前半ずっと観察していた。金田よりも速いが、その分ステップは甘い。加速してくることを予測して、タックルをする。勝ちたい思いもあるが、これは安生の成長のためでもある。自分よりもうまい選手たちも、抜けるようになってもらわないと困る。
体格に勝る西木のタックルを受け、安生は完全にな動きを止められてしまった。レギュラーチームの面々が駆け寄り、ボールを奪う。テイラーが、大きくパスを放り出した。受け取ったのはセンターバックの佐藤である。
「いっけえ、
西木の声がこだました。佐藤望夢は、泣きそうな顔で走り出した。
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