1-9

 大事なところで、いつもボールを落としてしまう。

 佐藤は、アメフトと間違ってラグビー部に入ってきた。アメフトに詳しかったわけでもない。

 レギュラーにほど遠いのはわかっていた。それなりに頑張っているつもりだったが、みんなとの差は痛感していた。ただ、三年生が卒業して、突然レギュラー候補になった。

 一年生の安生が推薦で入ってくると聞いて、正直ほっとした。自分が出るようなチームじゃ、全国大会なんて目指せない。彼は冷静にそう考えた後、情けなくなった。

 もし、一年生の園川にまで負けてしまったら。そう考えると怖くなって、佐藤は必死に走った。

「おい、パス!」

 ウイングの原院が叫んだ。佐藤の前には、守備がそろっている。彼の技術で抜ききるのは無理だ。

「わっわっ」

 パスを出そうとしたところ、ボールが腕の中で暴れた。また落としてしまうのか、佐藤の視界の中で、スローモーションのようにボールが揺れていた。

 なんとか手に乗せてパスを出す。近づいてきた原院が、もぎ取るようにしてボールを受け取った。

「オーケー!」

 走り去っていく先輩を見て、佐藤は切なくなった。



「今のはトライだから5点ね。覚えた?」

「はいっ」

 鹿沢は、レギュラーチームの監督をしていたが、特に指示は出していなかった。主な仕事は新人マネージャーの道田にラグビーのもろもろを教えることだった。

「はい、キックも決まった。何点?」

「2点ですっ」

「よろしい」

「あの……」

「なんだ」

「なんでこんなに差がついているんですか?」

 試合はもうすぐ終了の時間である。点数は40-0。

「ラグビーは、実力差がはっきり点数に現れやすいんだ。奇跡の勝利みたいなことは起こりにくい。新人チームはいい選手もいるけど、今日初めてっていう選手もいるからどうしても守り切れない」

「1点も取れないものなんですか?」

「それはどうかな。惜しいのもあったしね。ただ今日は、犬伏と金田にはワンマンプレーを禁止してる。あいつらは個人で点を取る力があるけど」

「そうなんですか! でも確かに、犬伏先輩のキック力はすごいですね」

「ああ。去年優勝できたのは確実にあいつのおかげだ。ただ、それだけじゃ勝てない」

 試合終了のホイッスルが鳴った。今年の新人チームは、得点を挙げることができなかった。


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