1-7

 荒山健吾。昨年まで総合先端未来創生高校ラグビー部のスクラムハーフを務めていた者の名前である。

 推薦で入った彼は、一年時からレギュラーだった。一学年下の星野真帆徒まほとにとって、憧れの対象ではあってもライバルではなかった。荒山は県下ナンバー1スクラムハーフと言われ続けており、星野が出場するときには何らかの事情があるのだった。

 そして、星野の後輩としてテイラーそらが入ってきた。経験は浅いものの、テイラーはめきめきと成長している。テイラーは星野のライバルになったのである。

 さらには、一年生に里吏流気りるけが入ってきた。北岡中出身の彼は、瀬上や鷲川の後輩にあたる。まだ力弱いところはあるものの、なかなかセンスのいい動きをしている。

 今日、レギュラーチームのスクラムハーフはテイラーが、そして一年生チーㇺは里が務めている。星野は、ウイングの位置にいる。

 バックスが手薄い、という事情は分かっている。ウイングのレギュラーは原院と金田で、ここは不動だろう。一年生ではホールがウイング候補だが、スポーツ経験自体がないということでレギュラーには程遠い。となれば、スクラムハーフの誰かが、ウイングの控えに回されるのは確かにあることなのだ。実際、昨年荒山がウイングで出ることもあった。

 試合には出たい。だが、星野にはスクラムハーフとしての誇りもあった。高校の二年間以外、ずっと不動のレギュラーとして、チームの真ん中を支えてきた。荒山以外には、負けるわけにはいかないのだ。

 荒山には負けても仕方ないと思っていた結果が、今なのかもしれない。

 テイラーから、ボールが飛んできた。絶妙なタイミングだった。

 星野は、ボールを抱えて走った。ぽっかりと空いた相手守備のラインを越えて、トライまで走り切った。



「よーし、よくやってる方だ。食らいついているぞ」

 新人チームの監督、松上は手をたたいた。前半を終了して、21-0。レギュラーチームが勝っている。当然の結果ではあったが、不満を表情に出す者もいた。

「逆転はできますか!」

 大きな声を上げたのは江里口である。

「まあ、頑張り次第かな」

「むりじゃん。ま、俺が1トライぐらい決めてやるよ」

 そう言って笑ったのは今岡である。

「やるからには最後まであきらめんなよ!」

「今日はそういう試合じゃないし」

 松上は黙って二人のやり取りを見ていた。桐屋スクール出身の二人はいつもこんな調子で、すでに一年生の中で目立つ二人となっている。

「本気で逆転を狙うなら、もっと協力的になれよ」

 冷たくそう言ったのは、金田だった。一年生フォワードたちは動きを止め、顔を見合わせた後黙り込んだ。

「まあ、みんな動きはいいぞ。先輩たちに一泡吹かせてやれ」

 明るい声を心掛けたが、松上の声は少し低くなっていた。金田の目は、まったく笑っていない。中学時代の直接の先輩ということもあるだろうが、「先輩としての金田」は基本的に怖い。三年生の松上が少し震えるほどである。

 チーム作りって色々あるんだなあ。松上は選手たちを見送った後、深いため息をついた。


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