1-4

「廉次。どういうつもり」

 今岡が駅の階段を下りてくると、そこには道田がいた。

「なんだよ音衣紗。ここで何してんの」

「私さ、ラグビー部のマネージャするから」

「はあ?」

「廉次、高校では頑張るって言ってたじゃん。信じてるから、監視する」

「間違ってるぞ、その日本語」

「ええい、覚悟せい! サボり続けて生きてくつもりなの?」

「別に入部する義務とかねえし。ラグビー続けなきゃいけないわけでもないから」

「じゃあなんでなんとか高校に入ったの?」

「……」

「強いとこで活躍するんでしょ? みんなを見返すんでしょ? 駄目だった自分と決別するんでしょ?」

「いやそこまで卑下してねーし! だいたい音衣紗には関係ないだろ」

「あー言った! 男がよく言うやつ! そんなのにへこたれないから私。とにかくマネージャやるから。来なかったら幼稚園の時から一日一個秘密ばらしてくから!」

 そう言うと道田は、走り去ってしまった。

「いや、秘密ばらしたらもっと行きにくくなるだろ」



「ハイ、イギリス出身、日本育ち、サイラス・ホールです」

 一年生歓迎対抗戦前日に部室を訪れたのは、金髪の青年だった。ちょうどそこにいたのは、二年生の犬伏カルアであった。

「イギリスかー。ラグビー盛んだもんね」

「いや、ボクはやったことがないです」

「そうなんだ。他のスポーツは?」

「ないです」

「おお。まあ、練習していくうちに筋肉ついていくし、誰でもできるようになるよ。ただ、明日さっそく試合なんだよね」

「ボクも見学できますか?」

「いや、出るんだよ。一年生歓迎対抗戦。一年中心チーム対三年生中心チームで対戦するんだ」

「え、いきなりですね」

「まあ、100%真剣ってわけでもなくて、あくまで歓迎だから。でも、基本的なルールはちょっとだけでも覚えておこうか」

「わかりました」

 カルアは、紙に書きながらラグビーのルールを話し始めた。ホールはうなずきながらそれを聞いている。

「あ、そういえば入部の動機を聞いてなかった」

「Ah、実は」

「うん」

「『お前、ラグビーできそうな顔だな』って言われて」

「え」

「それで気になって来てみました」

 まじめな顔でそう言うホールに対して、「むしろ学者が似合いそうな顔だ」と思ったがカルアはそれを口にしなかった。

「うれしいよ。一年生がいっぱい入ってくれたなあ」

「そうなんですか」

「君で十人目だ」

「すごいですね」

「いろんな人がいるよ」

「楽しみです。どんなrugby playersがいるのか」

 カルアはすでに、この独特な後輩のことを気に入っていた。クラブ出身の後輩たちは、どこか圧が強くて怖いと感じていたのである。また、スポーツ特有の上下関係自体がカルアは苦手だった。先輩らしく振舞えないのである。

 誰か来いよお、と思いながら、カルアはルールの説明を続けた。


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