1-3

 総合先端未来創世高校ラグビー部は、昨年初めて花園に行った。それまでいつも県内ベスト4止まりだったのが、一気に優勝へと突き進んだのである。

 全国大会でも一勝を挙げ、周囲の評価は大きく変わった。県内は二強から三強になる……と思われたのだが。二月の新人戦では一回戦負け。「三年生が抜けて相当きついのでは」と噂された。

 実際、三年生たちの抜けた穴は大きい。県内屈指と言われたスクラムハーフとフルバックを始め、九人のメンバーが卒業したのである。残ったメンバーの中にはほとんど試合に出たことのない者もおり、新入生が入らなければ相当に厳しい一年間になることは必至だった。

「いやあ、よかった」

 そんな中、新部長の松上はやわらかい目で部員たちの練習を眺めていた。

「おいおい、人数だけでほっとするなよ」

 そんな彼の両肩をつかんだのは監督の鹿沢である。

「そんなそんな。やる気がありそうなんで」

「まあ、一気に増えるとかではないな」

 優勝によって入部希望者が殺到する、ということにはならなかった。また、ほとんどの有力選手は推薦で他校に入っている。

「やっぱ速いなあ」

 松上の視線の先には、細身で背の高い部員がいた。ゆっくりと歩いていたかと思うと、ボールを受け取るなり一気にトップスピードになって駆けて行った。

「金田が抜かれた」

 鹿沢は、松上の肩をトントンと叩く。

「推薦組いいっすね。……二年続けて後ろですけど」

「まあ、いろいろとなあ。ただ、前も希望はある」

 監督が指さした先にいるのは、江里口である。相変わらず大きな声を出しながら、タックルの練習をしている。

此村このむらもでかいんですけどねえ」

「直の後輩だもんな」

「桐屋組に負けてるなあ」

「で、今岡はどこだ」

「あー……」

 松上は、頬をかいた。事前に星野や金田から、聞いてはいた。「今岡は、さぼりますよ」と。そして、さっそく連絡なしでいないのである。



「私がマネージャーになります! だから廉次のことは許してください!」

 水を飲むカルアとテイラーの前で、一人の少女がぺこぺこと頭を下げていた。

「ええと、許すって言われても」

 カルアは目を泳がせた。

「廉次って今岡君だよね。星野先輩がよく知ってたよな」

 テイラーは落ち着いていた。星野の姿を探したが、見当たらなかった。

「はい、今岡廉次は本当に駄目な奴で、私がいないとどうしようもないんです」

「君がいたらどうにかなるの?」

「なります」

「自信家だなあ。とりあえず名前は?」

「道田音衣紗ねいさです。一年B組、道田音衣紗です」

「ねいささんね。とりあえずマネージャーを断ることはないと思うけど……好きなの?」

「えっ、ちょっ、そんなんじゃないっていうかその」

「ラグビー嫌いなのにマネージャーするの?」

「えっ、ラグビー? 好き! 大好きです!」

 テイラーとカルアは顔を見合わせた。

「とりあえず監督のところ行こうか。話はそれからだなあ」

「ありがとうございます!」

 再び少女は、頭をぺこぺこと下げた。


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