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「あーあ。結局どうすっかねえ」

 下駄箱でそう吐き捨てたのは今岡廉次れんじ、一年生だった。

 入学式を終え、今から下校である。校門までの道では、様々な部が勧誘していた。

 大柄でいかにも筋肉質な今岡は、どう考えても運動部から勧誘される。彼にはその自覚があったが、ある部に対しては複雑な思いがあったのである。

「けっ。俺を推薦にしなかった時点で、終わってるぜ」

 とりあえず吐き捨てる。そして彼は、まっすぐに前を見て歩き出した。

「あっ、あの子でかくないですか?」

「確かに。声をかけよう」

 聞こえていないふりをしていたが、今岡の頬が少し緩んでいた。推薦の話はなかったけど、見る目はあるじゃん、まあ、これだけオーラのある人間だから……

「……今岡じゃん」

「げ、星野先輩」

 二人の間に、気まずい空気が流れていた。横にいた西木は、首をかしげる。

「知り合いなんですか?」

「クラブの後輩。サボり魔今岡」

「いやあ先輩、俺は効率よくやってただけですよ」

「おお、クラブ出身! そりゃもう入部決定だね、今岡ちゃん!」

「えっ、今岡ちゃ……」

「あ、俺西木ね。二年生のフッカー。君はポジションどこ?」

「……ロック」

「やっぱり! 鍛えてるよね! いやあ、いい子が来てくれたなあ」

「まだ入るとは一言も……」

「星野先輩、後輩くんを部室に案内しますね!」

「いやあの」

 西木は今岡の腕をつかんで、引きずるようにして部室に連れて行った。



「江里口和之介です!」

 大きな体から、大きな声が飛び出てきた。向かいに座っている松上は、目を丸くした。

「お、おお。部長の松上だ。よく来てくれたなあ。お兄さんには似てないね」

「はい、兄貴とは違います!」

 太い眉。大きな耳。少し毛深い手。いろんなものが強そうだなあ、と松上は思った。

 そして、二か月前の戦いを思い出していた。和之介の兄、才之助は新口高校の二年生である。新人戦の一回戦では、上手いことやられてしまった。才之助はどちらかというと小柄で、「うまい選手」というのが松上の印象だった。

「はーい、一年生一名様ご案内」

「ういっす。今岡で……和之介」

「おお、廉次!」

「おお、今岡ちゃんまたまた知り合いなの?」

「同じ桐屋の」

「です! 星野先輩や金田先輩にはお世話になりました!」

 新年度一日目から騒がしいことだなあ、と松上は微笑みながらため息をついた。


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