1-2
「あーあ。結局どうすっかねえ」
下駄箱でそう吐き捨てたのは今岡
入学式を終え、今から下校である。校門までの道では、様々な部が勧誘していた。
大柄でいかにも筋肉質な今岡は、どう考えても運動部から勧誘される。彼にはその自覚があったが、ある部に対しては複雑な思いがあったのである。
「けっ。俺を推薦にしなかった時点で、終わってるぜ」
とりあえず吐き捨てる。そして彼は、まっすぐに前を見て歩き出した。
「あっ、あの子でかくないですか?」
「確かに。声をかけよう」
聞こえていないふりをしていたが、今岡の頬が少し緩んでいた。推薦の話はなかったけど、見る目はあるじゃん、まあ、これだけオーラのある人間だから……
「……今岡じゃん」
「げ、星野先輩」
二人の間に、気まずい空気が流れていた。横にいた西木は、首をかしげる。
「知り合いなんですか?」
「クラブの後輩。サボり魔今岡」
「いやあ先輩、俺は効率よくやってただけですよ」
「おお、クラブ出身! そりゃもう入部決定だね、今岡ちゃん!」
「えっ、今岡ちゃ……」
「あ、俺西木ね。二年生のフッカー。君はポジションどこ?」
「……ロック」
「やっぱり! 鍛えてるよね! いやあ、いい子が来てくれたなあ」
「まだ入るとは一言も……」
「星野先輩、後輩くんを部室に案内しますね!」
「いやあの」
西木は今岡の腕をつかんで、引きずるようにして部室に連れて行った。
「江里口和之介です!」
大きな体から、大きな声が飛び出てきた。向かいに座っている松上は、目を丸くした。
「お、おお。部長の松上だ。よく来てくれたなあ。お兄さんには似てないね」
「はい、兄貴とは違います!」
太い眉。大きな耳。少し毛深い手。いろんなものが強そうだなあ、と松上は思った。
そして、二か月前の戦いを思い出していた。和之介の兄、才之助は新口高校の二年生である。新人戦の一回戦では、上手いことやられてしまった。才之助はどちらかというと小柄で、「うまい選手」というのが松上の印象だった。
「はーい、一年生一名様ご案内」
「ういっす。今岡で……和之介」
「おお、廉次!」
「おお、今岡ちゃんまたまた知り合いなの?」
「同じ桐屋の」
「です! 星野先輩や金田先輩にはお世話になりました!」
新年度一日目から騒がしいことだなあ、と松上は微笑みながらため息をついた。
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