第2話 尋問

 父親が死んでから、十年ほどが経った。

 あの頃、十四であった僕は、二四となった。


 中部地方から、東北地方へ逃げる為に大学に入学した僕は、彼女は出来ることがなかったが、友達は出来た。

 それに、父親の呪縛のせいで、楽しむことが出来なかった青春も謳歌する事もできた。


「卒業してからもう四年か。あいつらは今どうしてるかな?」

 僕は楽しかった大学のことを思い出しながら、ふと呟く。


 そう言えば、今年はまだあいつらと飲みに行ってなかったな、どうにかして時間捻出できない物かな。

 そこそこの給料を貰う代わりに、多少ブラックな企業に勤めることになってしまった僕は、時間を捻出する方法を考えながら呟く。


『新興主教”ひかりの世界”にご注意を』

 握ったスマホに映る注意勧告を見ながら、

「どうにかして有給休暇をもらうか」

 と考えつくと、大きな欠伸をして、

「さて、明日の仕事のためにも、さっさと眠りますか」

 言葉を漏らしながら、ベッドに歩いて行く。


 すると、そのタイミングを見計らっていたかのように、

『ピンポーン』

 家のチャイムが声を上げた。


「今、0時だろ。誰だ?」

 訝しげに思いながら、僕は扉に近づいて行くと、

『ピンポーン』

 と再度チャイムが声を上げた。


「はい、今行きます」

 僕はチャイムに声を返し、急いで走って行き、扉を開く。

 すると、第一声に、

田宮たみや遥人はるとさんですか?」

 と問いかけられた。


 僕に問いかけてきたのは、二人組の警察官の片割れだった。


「はい。そうですけど」

 警察官が家に来るような心当たりはない僕は、怪しむように彼らに返すと、

「田宮遥人さん。署までご同行願います」

 と突然言い出してきた。


「えっ、どうして?」

 咄嗟に聞き返す。

 すると、

「田宮遥人さん。貴方には逮捕状が出されています。ご同行願います」

 と無情な無機質な声で言われ、僕は彼らに体を掴まれ、マンションから引きずり出され、パトカーの中に入れられてしまった。


「ちょっ、どうして」

 僕が彼らに問いかける。

 だが、彼らは聞こえていなかったかのように、僕の発言を無視して、パトカーを走行させた。

 そして僕は、いつの間にか、眠りに落ちてしまっていた。


 次に僕が起きたとき、そこは薄暗く狭い部屋で、机の上に一つのチカチカするほどに明るい照明が置いてあり、僕の座っている椅子、それと向かい合うように、椅子に座った厳格そうな男がいた。


「田宮遥人さーん。貴方、何をしたのか分かってるんですか?」

 僕が起きたのを見るやいなや、男は問いかけてきた。

「いや、何のことですか」

 すぐに問いを返すと、

「はあ」

 溜息をつき、

「しらばっくれるんじゃねぇ!お前がやったのは分かってるんだ!」

 と机を叩きながら、怒鳴り声を上げた。


「なっ、何のことですか?」

 僕は彼に条件反射で返す。

「ほう。まだしらばっくれるか」

 彼は感心したように声を出すと、椅子を立ち上がり、拳を作り、無情にもそれを僕の頬に落とした。

 辺りには無機質な音が響いた。


「クッ」

 小さく声を漏らす。

 男は微笑を浮かべながら、馬乗りになり、

「お前がやった事は分かってるんだよ。さぞ気持ちよかっただろうな。連続殺人鬼」

 と言い再度、僕に拳を振り下ろした。


「はっ、なっ、何を言って───」

 僕が反論を述べようとしたところで、彼は再度拳を振り下ろし、

「なんだって、言ってみろよ。クソ野郎」

 と再度、拳を振り下ろした。


「やっ、やめっ」

 僕は声を出し、必死に顔を守った、すると抵抗が実を結んだのか、男は下がり。

 と言うより、他の警察官に引き剥がされ、椅子に座らされていた。


 そして僕も、彼と同じように椅子に座らされ、椅子の肘掛けと腕で手錠を掛けられてしまった。


「話は戻すが、さっさと白状したらどうなんだ?」

 彼は諭すような声で言ってきた。

 その為、

「僕は知らない」

 正直に答えると、

「嘘を言っちゃあいけませんよ。田宮遥人さん。あんたが殺ったってぇ報告は、山ほど来ているんですから」

 彼は貧乏揺すりをしながら言ってきた。


「ほっ、本当に何も知らないんです」

 僕が縋るように声を出す、

「田宮健介、朝倉雅之、荒木徹、村木宗司。これを聞いて、分かりませんかね?」

 久しく聞くことのなかった忌々しい父親の名前、それと知らない複数の名前が出された。


「だっ、誰なんですか?」

 僕がすぐに返事をすると、

「全部、お前が殺した奴らだ!知らないとは言わせないぞ!ドブネズミやろう」

 彼は罵るように言い、机を拳で叩いた。


「ほっ、本当に知らないんです」

 僕が言うと、

「そうか、そうか。お前はそうだったな。通り魔殺人鬼のクソ野郎だったな。誰彼構わず襲って殺す。そんな異常者だったな」

 嘲るように言い、

「ふざけるのもいい加減にしろよ」

 机を叩き、叫んだ。


「お前が殺ったって言うのは、分かってるんだ」

 と再度叫んだ。

「僕が殺したって、誰がそんな事を」

 彼に問いかけるように言う。


 すると、

「お前の父親の友人その他諸々だ」

 と言い、嘲笑するかのように顔を歪め、

「お前のオヤジさんが死んだのは、確かお前が中学二年生の頃だったよな。その時のお前は、どうだっただろうな?母親は死に、唯一残っていた親類が死んだ。それなのにも関わらず、お前はどうだっただろうな?涙一つ見せることがなければ、嘲笑をしていたらしいじゃあーねーか」

 捲し立てるように言い、

「お前が自分のオヤジさんを殺したんじゃねーか?」

 と問いかけてきた。


「そっ、それは」

 反論をしようとする。

 だが、彼は、

「おっ、言い訳か?言ってみろよ。さぞ崇高な理由なんだろうな。なあ!さっさと言えよ!それとも、お前が父親を殺したって図星だったのか!はっ、親殺しのクソ野郎が」

 取り合おうとせず、声を荒げた。


「ぼっ、僕はやってない!父親も殺してないし、あんたがあげた人も殺してない」

 僕が掻き消されぬように、声を張り上げると、

「クックックック」

 気味の悪い笑い声を上げ、

「ふざけたこと言ってんじゃねーぞ!クソガキ!てめぇが、やった事は分かってんだよ。父親の死に喜ぶテメエーが無実なわけがあるか!」

 と叫ばれ、僕の頭に拳が振り下ろされた。


「クハッ」

 僕は声を出し、意識を暗い泥濘に落としていった。



 そして、次に僕が起きた頃には、僕は沢山の照明に照らされ、沢山の記者の様な人々に囲まれた、ステージの椅子の上にいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る