40 編集者を雇ってみた③
「いや、なんで閉まってるわけー!」
メイスイが叫ぶ。
リリアたちは予想通りその日のうちにクラケスに着いた。
しかし、思ったより遅く着いたため、町をぐるりと囲む壁の門が閉まっていたのだ。この門を通らなければ街の中へは入れないため、明日の開門を待つしかなくなってしまったのである。
つまり、野営が決定したのだ。
「仕方ありませんよ、メイスイさん。こういうことがあるのも旅の醍醐味ですから」
門の前から離れ野営ができる場所を探しながら、リリアがそうメイスイを慰める。
おそらくここに来るまでにおやつ休憩をはさんだのがいけなかったのだろう。それがなければきっと今頃はクラケスの街の中であった。
しかし、いくら嘆いても街へは入れないのだ。それならば今からの野営を楽しんだ方がいいだろう。
クラケスから少し離れた森の近くに来たリリアたちは荷物を下ろす。
ここを今日の野営場所としよう。
そう思い、取り敢えず前回の要領で準備を始める。
暗い状況ではあったがテントは何とか張ることができた。暗くてちゃんとは見えないが前回よりはうまくできたのではないだろうか。
メイスイはというと、集めてきた枝を自分で組んで焚火を作ってくれていた。
とても器用である。
そんな感じで手際よく野営の準備を終えたリリアとメイスイは焚火の周りに腰を下ろした。
準備は終わったのである。それならばお楽しみの夜ご飯の時間だ。
ワクワクしながらリリアは鞄の中から夕食を出す。
今日はソクルの町で買ってきたキッシュとスープである。
キッシュを乗っけたお皿とスープの入った容器をとリリアはメイスイに渡す。そして、自分も食べ始めた。
スープの容器のふたを開けると湯気が立ち上がる。
まだ温かいままである。
こういうときにアイテムバッグがあってよかったなと本当に思う。だって、こうやって温かいスープを温かいまま、こぼすことなく運ぶことができるのだから。
一口食べて、ん~!、と唸る。
やはりおいしい。
程よい塩加減のスープとそこに入った良く味が染みている野菜に舌が躍る。どんどん口に運んでしまう味である。
続いてキッシュを口に含む。
これもおいしい。
サクサクした食感とチーズの滑らかさが楽しい。
ソクルの食べ物は昔から本当においしい。
リリアはそうして夜ご飯を楽しんでいた。
突如強い風が吹く。
リリアは手に持つ食べ物が飛ばないように抑えて耐える。
しかし、あまりの強さにテントが飛んでいってしまった。
「すみません、メイスイさんお願いします」
すごい勢いで飛ばされていくテントをメイスイに追いかけて捕まえてもらう。
「ありがとうございます」
リリアは持ってきてくれたテントをお礼を言って受け取る。
何とか回収することができてよかった。これがないと外にそのまま寝ることになってしまうところであった。それでもいいのだが、やはり雨風をしのげることからテントは欲しい。
テントを持ってさっき張っていた場所に行く。
杭が抜けてしまっているから、刺すのが浅かったのであろう。
メイスイにも手伝ってもらってさっきよりもしっかりとテントを張る。
これで次同じような風が来ても大丈夫だろう。
「ふう、何とかなりました。メイスイさんも手伝ってくれてありがとうございます」
メイスイに再度お礼を言い焚火の周りに戻る。
さて、楽しい夜ご飯に戻ろう。
そう思って座ろうとするとメイスイが叫んだ。
「あれっ、僕のご飯減っているんだけど!?もしかしてリリア食べた?」
リリアは首を振って否定する。自分の分があるのに他の人の分を食べるほど食い意地は張っていない。
どうやらご飯が減っているらしいが、きっとメイスイが自分で食べたのであろう。
そう思い自分のお皿を見ると、なんだか減っているような気がした。
「もしかして、メイスイさん私の夜ごはん食べましたか?」
今度は逆にリリアが同じ質問をする。
しかし、メイスイは、そんなことするわけないじゃん、と否定する。
では一体どういうことだろう。
周りを見ても風に飛ばされた形跡はないし、お互いに疲れているのであろうか。
そう思っていると近くでジャリっと砂を踏むような音がした。
「誰かいるの!?」
メイスイが立ちあがり言う。
しかし、周りを見渡そうとも誰もいない。
また、ジャリっという音が聞こえた。
「そこか!」
メイスイが叫ぶとそこに向かって魔法を打とうとする。
「ちょちょちょ、ちょっと待っ――」
誰かのそう言う声が聞こえると同時に小さな雷が天から落ちた。
雷の落ちた場所に行くとやはり誰もいない。
しかし、しばらくすると人の姿が現れる。
まさかの透明魔法を使っていたらしい。
フードを深くかぶっており顔は見えないが、気を失っているのかピクリとも動かない。
「透明魔法を使ってまで僕のご飯を食べるなんて、一体どんな奴なんだ」
怒った様子のメイスイがその人のフードを取る。
現れたのは女の子であった。見た感じリリアと同じくらいの歳である。
しかし、その頭には見慣れないものがついていた。
頭の左右から2本の角が生えているのである。
「もしかして、魔族ですか?」
リリアがそう言ったのであった。
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