38 編集者を雇ってみた①
アバスさんにダンジョン攻略の報告をした日の夜、リリアはベッドで旅動を見ていた。
ベッドの上でゴロゴロしながら動画を探しては見てを繰り返す。
昨日はダンジョンから帰った後、夕食を食べてすぐに寝てしまった。案外さらっと攻略が終わったとはいえ、体に疲れがたまっていたのだろう。
しかし、すぐに寝たせいで日課にしている旅動の鑑賞ができなかった。
そのため、昨日見るはずだった分を消化しながらいろいろな動画を見ているのだ。
旅動と言えば撮影したダンジョンの攻略動画だが、まだ投稿できていない。
今日、投稿しようとギルドを訪れたのだが、魔物の残党狩りとダンジョンの件も含めた事後調査等でみんな忙しそうにしていた。
お願いすれば対応してくれそうではあったのだが、邪魔をしては申し訳ないと思って落ち着いてからもう一度投稿しに行こうということにしたのだ。
「リリアが見ているそれって面白いの?」
隣のベッドでゴロゴロしているメイスイが聞いてくる。
今日はここで一日中ゴロゴロしていたらしい。すっかり人間の生活に影響されているようだ。
「旅動ですか?すごく面白いですよ!」
「へえ、そうなんだ。どんなところが面白いの?」
「そうですね、まずいろいろな動画を無料で見られると言ったところですかね。ただでたくさん見れますから自分が好きな動画も見つかりますし、次々に新しいものが投稿されますから全然飽きることもないです。それにどの動画も見てるだけで色々な所に行った気持ちになれたりするんですよ。たとえば、この動画はですね――」
リリアがペラペラと旅動について語り始める。
やはり自分の好きなことについて話すのは楽しい。
それに今までこんな話を出来る人がいなかったのだ。旅動を見ているなんて言ったら聖女のイメージが崩れてしまうだろうから聖女の頃には口が裂けても言えなかった。
そんな感じでずっと抑制されていたから止まることなくじゃべり続けてしまう。
そんなこんなで夢中に話していたのだが、我に返ってメイスイを見るとうんざりした顔をしていた。
そろそろ止まった方がいいかもしれない。
「まあ、ということで、旅動はとても面白いんですよ」
やっと解放されたとメイスイが安堵した顔をした。
でも途中で寝るでもなく最後まで聞こうとしていてくれたのは優しいと思う。
ふとメイスイが何かを思い出した顔をする。
「そういえばさ、リリアもそこに投稿しているんだよね」
「はい」
「じゃあさ、僕の動画ってどれくらいの人に見られてるの?」
そうメイスイに問われて、そう言えば確かにそうだとリリアは思う。
チャンネルを作成するときにした魔導リングとの連携。あれによって自分の動画の情報が見られるとのことであった。
しかし、どちらかというと旅をして動画を投稿するということ自体を楽しんでいたから、その結果はあまり気にしていなかった。だから、投稿した動画がどうなっているのか一度も見たことがなかったのだ。
「たしかにそうですね」
「あれっ、もしかしてリリアも知らないの?」
「はい。じゃあ折角ですし今見てみましょうか」
そう言うとリリアは今見ている動画を停止して自分のチャンネルにアクセスする。
上部に“リア”というチャンネルの名前が出たかと思うと、その下にいくつかの動画が現れた。
今までにあげてきた動画だ。
動画の名前とその横に数字が書いてある。
「この数字って何?」
メイスイが名前の横の数字を指さしながら聞いてくる。
「この数字は再生数ですね」
これはその動画が見られた回数――再生数である。
見ると、薬草採取とメイスイを紹介する動画の2つだけ再生数が500回に到達している。
そのほかの動画はそんなに再生数は多くないが、それでもすべての動画の再生数は1以上になっていた。つまり、誰かに一回は見られているということだ。
まあ、投稿されたのを確かめるために自分でも再生したことが何回かあるから、もしかしたら自分しか見ていない動画もあるかもしれないが。
とはいえども、自分の動画が知らない人に見られているということである。なんだか嬉しくなってしまう。
しかし、再生数を覗く横のメイスイを見ると、どうやら不服そうであった。
「どうしたんですか、メイスイさん?」
「いや、だってさ、僕が出てる動画これしか見られてないんだよ。これじゃあ、妖狐のことをたくさんの人に知ってもらうっていう目的が果たせてないじゃん。まさかリリア、僕のことを騙したの!?」
恨むような眼でメイスイがことらを見てくる。
しかし、騙してなんていない。確かにどれくらいの人が見てくれるかということは最初に言ってはいなかったけど。
「騙してなんかいませんよ」
「じゃあなんでこんなに見てくれる人が少ないのさ」
そう言われても困ってしまう。
なぜなら、当然のことだからだ。
旅動にはとても多くの動画が上がっている。それに毎日その数が増えているのだ。たとえ毎日一日中見ていようともすべての動画を見ることはかなわないだろうという程である。
だからこそ、その中から自分の動画が見られるというのは言ってしまえば奇跡だと思う。薬草採取とメイスイの紹介動画が500回再生を超えたのはたまたま幸運が重なっただけなのだ。
そうやって説明するも、メイスイはまだ納得しない様子であった。
多くの人に妖狐を知ってもらえるということで動画に出てもらっているのだから、不服に思うのも当然であろう。
「じゃあさ、どうにかして見てくれる人増やしてよ」
「そうは言われましても…」
リリアは見ることにはプロと言ってもいいほど慣れている。しかし、つくることは始めたばかりでまだ不慣れな部分がたくさんある。
そのため、どうすればたくさんの人に自分の動画を見てもらえるかなんてわからないのだ。
「とりあえず明日ギルドの方に聞いてみますから」
そう言って何とか今は気持ちを鎮めてもらった。
次の日、リリアは早速ギルドを訪れていた。
冒険者ギルド動画配信サービスと書かれたカウンターに行き、そこにいるギルド員のお姉さんに話しかける。
「すみません、相談なのですが」
「はい、どのようなご用件でしょうか?」
「動画の再生数ってどうしたら伸びるんでしょうか?」
率直に相談する。
「すみませんが、動画を見せて頂いてもよろしいですか?」
そう言われリリアはチャンネル名を教える。
しばらくリリアのチャンネルを見ていたお姉さんは動画を止める。そして、少しの間悩んだ後、口を開いた。
「私は動画を作ったことがない完全な素人なのでしっかりとした助言はできないのですが、私個人の意見としては編集をしてみると良いのではないかと思います」
編集と言われて確かにそうだとリリアは思う。
人気の動画はテンポよく進んだり見やすいよう字幕がつけられたりと編集がされていたのだ。
しかし、自分の動画はただ撮ったまま投稿しているだけである。
それもそれでいいのかもしれないが、編集をすることで再生数が伸びる可能性は十分にあるだろう。
「ところで編集ってどうやればいいのですか」
そう聞いたところ、お姉さんは親切に教えてくれた。
動画の編集とは正確に言えば魔法式の編集らしい。撮影された動画は魔導石に魔法式として記録されており、その魔法式をいじることで動画を編集することができるようだ。
しかし、魔法式をいじるには高い魔力と高い魔法の知識が必要となる。
そのため、編集ができる人は少ないらしい。
「編集ができる方も冒険者ギルドに何人かは在籍しているのですが、そういった方たちはたいてい高ランクのパーティーに引き抜かれてしまいます。そのため、編集をしてくれる方を探すのは大変難しいかと思います」
そう言われてリリアは肩を落とす。
折角動画を伸ばす方法を教えてもらったのに、それを実践することは今のところ出来ないらしい。
「教えてくれてありがとうございました!」
そうお姉さんにお礼を言ってリリアはギルドを後にする。
取り敢えずダンジョン攻略の動画の投稿は保留にしておこう。折角いい動画が撮れたのだ。面白くなるよう編集してから投稿したい。
そう思いリリアは孤児院へと帰るのであった。
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