37 ダンジョンを攻略してみた⑪

翌朝、リリアはソクルの衛兵の詰所に来ていた。

 ダンジョンの攻略と魔物の襲撃がもうないことを伝えておいた方がいいと思ったのだ。

 ちなみにメイスイはベッドの上でゴロゴロしている。

 ベッドの上に毛布や布団を重ねてあげたらその上がすごく気に入ったようで、今日も朝ご飯を食べるとすぐにベッドに戻ってしまった。

 コンコンと詰所の扉をたたくと中から一般の衛兵の方が出てきた。

 アバスさんはいますか、と聞くと、ああ、いるよ、と答えて衛兵長室に通してくれた。

 ノックをして中から返事があってから室内に入る。


「失礼します、アバスさん」


「ああ、リリアちゃんか。今日はどうしたんだい?」


「魔物の襲撃のことで話がありまして」


「襲撃の話か。気にしないでくれって言ったのに、また来てくれたのか。ありがとうな。取り敢えずそこに座ってくれ」


 そう言ってアバスが椅子を指さす。

 リリアは、この前少しは片付けたはずなのにもう埋まっている床を書類を踏まないように慎重に進み、椅子に座った。

 アバスさんも向かいの椅子に座る。


「で、襲撃話だったよな」


 アバスが話を切り出す。


「はい。魔物の襲撃の話なのですが、原因はダンジョンの出現でした」


「ダンジョンか。そりゃまた厄介なものができちまったな。ちなみにその場所ってどこだったかわかるか」


 アバスが広げた地図を見て、リリアはダンジョンがあった場所を指さす。


「ここか。思ったよりも近場にあったな。それにしてもダンジョンか。となるとこの町のやつらだけじゃどうしようもできないな…。情報提供ありがとな、リリアちゃん」


 アバスがお礼を言ってくる。

 これからどうしようかとアバスがぶつぶつ言っているが、話はこれだけではない。


「実はもう一つ話がありまして」


「おう、なんだい」


「そのダンジョンなんですが、もう攻略してきちゃいました!」


 リリアがそう言った。

 しかし、返答は何もない。

 見ると目の前でアバスさんが固まっていた。その口は開いたままである。

 しばらく、アバスさん、アバスさん、と声をかけていると、息を吹き返したようにして再び動き出す。

 頭を振るようにしながらアバスが聞いてくる。


「今ダンジョンを攻略してきたって言ったか?」


「はい」


「やっぱり俺の聞き間違いじゃなかったのか」


 しっかりと正気に戻ったアバスはその場で姿勢を正す。そして、


「改めてリリアちゃん、この町を、ソクルを救ってくれてありがとう」


 と言って深々と頭を下げた。

 それを見てリリアはあたふたしだす。


「いえ、そんなお礼なんていいですよ。私が好きでやったことですから。頭をあげてください」


 本当に好きでやったのだ。

確かに町を救いたいという気持ちもあったが、半分くらいはダンジョン攻略の動画を撮りたいという理由だったのだし。

 それに、昔からかわいがってくれた人にこうしっかりとお礼をされるのはなんかこそばゆいのだ。

 そうやってリリアがあたふたしていると、アバスはやっと頭をあげた。


「いや、リリアちゃんは本当にすごいことをやったんだ。もっと誇っていいんだぞ」


 いつも通りになったアバスが笑顔でそう言ってくる。

 いつもの感じに戻ってくれたようで良かった、とリリアが内心胸をなでおろす。


「ところで、怪我はなかったか」


「はい。一緒に潜ったメイスイさんが強かったので問題なく攻略することができました」


「それは良かった。怪我がなくて何よりだ。それにしてもあの狐そんなに強かったんだな」


 そう話をしていて、リリアは試してもらおうと思っていたことをふと思い出した。


「そうだアバスさん。これ持ってみてくれませんか」


 リリアはそう言って鞄の中から一本の剣を取り出す。

 昨日ゴーレムの階層で見つけた魔法剣だ。

 リリアは剣を使わないのだが、魔導具の一種だからということで昨日の夜試しに魔力を込めてみたのだ。しかし、やはりこれも合わないらしく、何の魔法も発動することはなかった。

 それならば売ってしまってもいいのだが、どうせならちゃんと使える人の所に渡したい。

 そう思ってこの魔法剣と合う人を探そうと思っていたのだ。

 魔法剣をアバスに渡す。


「これに魔力を流してもらえませんか?」


「魔力か?うまくできるかわからんがちょっと待ってな」


 魔法剣を受け取ったアバスはそう言うと魔力をこめ始めた。

 突如魔法剣から火が出る。


「うわっ!」


 アバスが驚いて火のついた魔法剣を落としてしまい、床に転がった書類に火が付いた。

 慌てて消火をし、なんとか被害を出すことは抑えられた。

 しかし、これで分かった。

 アバスはこの魔法剣に合う人である。


「アバスさん、この魔法剣もらってください」


「いやいやいや、もらえねえよこんないいもの。だってこれダンジョンでしか手に入らないっていう魔導具だろう」


 リリアがそう言うもアバスが全力で遠慮をしてくる。

 しかし、早くも見つけることができた適合者なのである。よく知らないコレクターの人の手に渡るよりはちゃんと使ってくれる人に持っていてもらいたいのだ。


「いえ、私が持っていても使わないですし、ぜひもらってください。いらないのなら売って町の復興に役立ててもらってもいいですし」


 リリアがそう半ば強引に押し付けるようにしてもらってもらおうと説得していると、最後には、


「ああ、わかった。じゃあありがたくいただくとするよ」


 と、受け取ってくれた。

 きっとアバスさんなら使うにしろ売るにしろちゃんと町のために役立ててくれると思うので、これで魔法剣の件に関しては満足である。

 ということは、これで今日伝えたいことは終わった。

 それならば、アバスさんはまだ忙しいだろうし、もう帰った方がいいだろう。

 そう思い別れの言葉を告げて部屋を出ようとすると、詰所の前でちょっと待っていてくれと言われた。

 何だろうと思い詰所の前で待っていると、大勢の衛兵が外に出てきてリリアの前に一列に並ぶ。

 何事かと思いあたふたしていると、アバスが前に出て叫んだ。


「リリア嬢に向かって敬礼!!」


 並ぶ衛兵たちがそれに続き敬礼をする。

 とてもかっこいいが、自分に向かってされていると思うとちょっと恥ずかしい。

 取り敢えずリリアもそれに向かって敬礼を返しておいた。


「本当にありがとな、リリアちゃん。また何かあったら訪ねてきてくれ」


 敬礼を解きにかっと笑ったアバスが言う。


「はい!」


 リリアはそう返すと、敬礼をしてくれている衛兵たちに手を振り孤児院へと帰るのであった。

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