36 ダンジョンを攻略してみた⑩
ボスの部屋に新しくできた扉をくぐると、そこには一つの宝箱があった。
「何が入ってるんでしょうか」
ワクワクしながらリリアが宝箱のふたを開ける。
中に入っていたのはネックレスであった。ネックレスは金色の金属のチェーンに、赤く輝く大きな宝石が一つ付いているものである。
「珍しい魔導具じゃん」
リリアの手の中にあるそのネックレスを見てメイスイが言う。
「魔導具ですか?」
「そうそう。この宝石の部分に変化の魔法石が組み込まれているから、使うときっと違う姿になれるよ」
そう言われてリリアはネックレスを首にかけてみる。そして聖力を込めてみた。
しかし何も起こらない。
リリアは首をかしげる。
「何も起こりませんね」
「きっとダンジョン産の魔導具だからだね。人間たちが作る魔導具は魔石がついていたりしてだれでも使えるようになってるでしょ。でも、ダンジョンで手に入った魔導具は使う人を選ぶんだ。この魔導具にも魔石はついていないから使用者の魔力を使うんだけど、リアは魔力は十分だと思うから単純に合わなかったんだね」
メイスイがそう説明してくれる。
ダンジョンで手に入った魔導具にそんな効果があるなんて知らなかった。
そもそもダンジョン産の魔導具は少ないこともあり、ほとんど市場には出回らないからリリア自身も実際に見るのは初めてであったのだ。
「メイスイさん、これいりますか?」
「いらないよ。だって僕変化の魔法使えるし」
そうなるとこの中には誰も使う人がいない。
とはいえ、珍しいものではあるから持ち帰ろう。
そう思い取り敢えず鞄にしまっておくことにした。
突如リリアとメイスイの立っている場所に魔法陣が浮かび上がる。そして、空気中の魔力がそこに集まると魔法が発動した。
魔法が発動するとともに発せられた光がまぶしくてリリアは目を閉じる。
しばらくして光が収まったのが分かり目を開ける。
周りを見渡すとそこはダンジョンの入り口であった。
「帰ってきたようですね」
そう呟きダンジョンの方を見ると、入り口は消えそこには始めから何もなかったようになっていた。
これでダンジョン攻略完了といったところだろう。
疲れました、とその場に寝転がろうとして思い出す。
そう言えば動画撮影をしていたのだった。すっかり忘れていた。
慌てて周りを見回すとそばにちゃんと魔導撮影機が浮いているのを見つけられた。
攻略が終わったのだ。ということは動画をしめなければならないだろう。
そう思いリリアは魔導撮影機の方を向く。
「えっと、ということでね、ダンジョン攻略完了しました!」
やったーと拍手をする。
「大変なこともありましたが、最後はボスを、まあ思ったより楽でしたが、倒すことができました!」
なんだか最後だけ拍子抜けになってしまったような気がするが、まあいいだろう。
「皆さん、楽しんでもらえましたか?今回も見てくれてありがとうございました!では、皆さん、またお会いしましょう」
最後は笑顔で魔導撮影機に向かって手を振って、撮影を終了する。
顔に付けたねこのお面を外すと魔導撮影機をそのままにその場に寝転がった。
初めてのダンジョン攻略、とても楽しかった。
確かに途中大変なことがあり、まあ最後だけはなんかさらっと終わってしまったけど、それでも初めてのことだらけであった。
本当にまだまだ知らないことが多いんだなあと感じさせられる一日になった。
そんないい気持ちのまま空を見上げる。
そこには月が浮かんでいた。
夜である。
リリアは慌てて魔導リングを起動して時間を確認する。
夕食時をとっくに過ぎていた。むしろ、孤児院の子供たちは寝る準備を始めている頃だろう。
さあっと少し血の気が引いた。
ロキアに怒られる。
ダンジョンに行くことを伝えていなかったが、早く帰ればばれないだろうと思いそのまま攻略を始めてしまったのだ。
結局こんなに遅くなってしまったから帰ったら怒られることは確実だろう。
リリアは勢いよく起き上がる。
「メイスイさん、早く帰りましょう!」
「ええーもう少しだけ休んでこうよ」
「いいから早く行きましょう」
まだ休みたいと言うメイスイをどうにか起き上がらせて背中に乗せてもらう。そしてそのままソクルに向けて走り出したのであった。
孤児院の入り口に着いたリリアは小さくなったメイスイを抱えながらそおっと扉を開ける。
ばれないうちに自分が寝泊まりさせてもらっている部屋に行こう。そうすれば、寝てましたと言い訳ができるかもしれない。
足音を立てないように廊下を奥へと進む。抜き足差し足であるためゆっくりではあるが、着実に進んでいく。
「リリア!」
突然後ろから声をかけられてリリアはびくっとなる。
振り向くとそこにはロキアが立っていた。
「こんな遅くまでどこに行っていたのですか」
「いえ、ちょっと遠くまで散歩をしていまして…」
ロキアがリリアの服装を見る。
そういえばダンジョン攻略をしてから着替えていないからかなり汚れたままであった。
「まさか、危険なことをしていたんじゃないでしょうね」
「ええっと…」
「やはりそうでしたか。あなたが十分強いことは知っています。それにメイスイ様もついてくださっていますから大丈夫だとはわかっています。でも、そういうことをするならちゃんと説明してから行きなさいとこの前言ったばかりじゃないですか」
ロキアにやっぱり怒られてしまったとリリアは思った。
心配をしてくれるのはとても嬉しいし、心配をかけてしまったのはとても申し訳ない。
でも、少しは自分の自由にしてもいいじゃないかとも思う。
リリアももう17歳である。子供ではないのだしちょっとくらいいいではないか。
そう思いつつもまだまだロキアにはかなわないようで、リリアはしばらく怒られ続けるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます