34 ダンジョンを攻略してみた⑧

 結局、奥へと続く道を見つけるまでにほとんどのゴーレムを起動させる羽目になった。

 突き当りの壁に近い方からやっていったのだが、正解のゴーレムはその正反対側にあり、あと残り2つといったところでやっと引き当てることができた。

 それまでにおよそ20体弱のゴーレムと戦ったのだから、体はそうでなくても精神の方が少し疲れてしまった。

 面倒くさいことが嫌いなメイスイは途中で諦めそうになったが、リリアが何とか説得して最後まで付き合ってもらうことができた。

 そんな感じで運がなかったのだが、一方で幸運なこともあった。

 宝箱を見つけたのだ。

 割と最初の方でゴーレムの壁の向こう側に見つけた宝箱の中には剣が入っていた。

 初めての宝箱だしもしかしたら金銀財宝がたくさん入っているのではと期待していたリリアからすると、なんだ剣ですか、という結果に終わってしまった。

 しかし、メイスイの言うところによると、それはどうやら魔法が付与された魔法剣のようで、それなりに価値があるらしい。

 とはいえ、リリアもメイスイも剣は使えない。そのため、どうするかは後で考えることにして取り敢えずアイテムバッグにしまっておくことにした。

 そして、少し休憩をはさんだ後、リリアたちはそうやって見つけた道を進んでいた。

 周りを石で囲まれた圧迫感のある空間。しかし、道は一本なので迷うことなく奥へと進んでいく。

 しばらくすると開けた空間に出た。

 これまでの経験からするとここがこの階層のボスがいる場所に違いない。

 そう思い、少し中へと進み奥の方を見ると、案の定ボスのようなものがいた。

 片膝を地面に着く形でしゃがんでいる、人型のゴツゴツとしたモンスター。ゴーレムであろう。

 ただ、今までこの階層で見てきたものとは違いがあった。

 まず、大きさが違う。今までのゴーレムはリリアの1.5倍くらいであったのに対して、目の前のゴーレムはしゃがんだ状態で2倍くらいある。

 また、見た目も違う。さっきまでのは石だったのだが、目の前のは光沢がある。恐らく石ではなく金属でできているんじゃないかと思う。


「これも魔石を入れないといけないんでしょうか?」


「んー、どうだろう」


 そんな話をしながらゴーレムの方へ歩いていく。

 近づいてみるとやはり大きい。見上げなければてっぺんが見えない程である。


「それにしてもこれは何でできているんでしょうか」


 そう言ってリリアがゴーレムに触る。

 突如、ゴーレムの目が光った。

 目の光ったゴーレムは顔を上げるとこちらを見る。そして動き出したのだ。

 リリアとメイスイは慌てて後ろに下がりゴーレムから離れた。

 ゴーレムが立ち上がる。とても大きい。高さだけで言えばメイスイを優に超えている。

 ゴーレムはこちらを再度見ると、敵認定したのか走り出してきた。

 さっきまでのゴーレムの鈍足さと比べるとはるかに速い。

 何とか間一髪で体当たりを避ける。

 見ると、ゴーレムはそのまま壁に激突し、しばらく止まっている様子であった。


「リア!支援をお願い!」


 メイスイからの言葉でリリアは支援魔法をかけた。

 ついでに自分にも身体能力向上と防御力上昇の魔法をかけておく。思ったより素早いのだ。いつ攻撃が飛んできても避けられるようにしなければならない。

 再度動き出したゴーレムはくるりとこちらを向くと、走り出そうとする。

 しかし、その前にメイスイが横から体をぶつけた。

 しかし、あまりの重さゆえなのか飛んで行って壁に激突することはなく、少し移動したのみとなった。それに傷も一つもついていない。


「うわあ、さらに面倒くさいゴーレムじゃん。体を壊せないならどうやって魔石を壊そう」


 メイスイが言う。

 確かにその通りだ。

体の表面には魔石が見当たらない。だから、きっと体内にあるのだろう。しかし、今までのゴーレムみたいに体当たりで体を壊せないとなると、どうやってその魔石を外に出せばよいのだろうか。


「魔法での攻撃はどうですか?」


 リリアがそう提案する。

 魔法攻撃力上昇の支援魔法をかけているのだ。もしかしたら、魔法でなら壊せるかもしれない。

 それを聞いた、メイスイが風魔法で斬撃を飛ばす。

 しかし、それでも少し壊れただけであり、その傷は周りの物質を吸収してすぐにふさがってしまった。

 攻撃を受け切ったゴーレムはまた体当たりをしようとこちらに走ってくる。

 リリアとメイスイは横に跳んでそれを躱す。

 あちらの攻撃はこうやって避けられるから、ダメージを負うことはない。しかし、それは向こうも同じである。

 これではお互いに膠着状態になってしまう。いや、ゴーレムの魔石の魔力がなくなるよりこちらの体力がなくなる方がきっと先であるから、長引けば長引くほど不利になるのはこちらであろう。

 そう考えつつも現状を打破するいい案は思いつかず、ゴーレムの攻撃を避けてはメイスイが魔法で攻撃するという流れが何度も続いた。


「ああー、もう!イライラするなあ!」


 メイスイが突如叫んだかと思うと、口を開けて火の玉を作り出す。しかし、それを飛ばすことなく魔力を込め続け、その大きさはどんどん大きくなっていった。

 今まではリリアを巻き込まないよう威力を抑えてくれていたようだが、イライラしたことによりそのタガが外れたようだ。

 リリアはとっさに結界を張る。

 メイスイが火の玉をゴーレムに向かって放った。

 大きな音と激しい爆風が吹きあふれる。

 結界があったから無事であったが、そうでなければ命はなかっただろう。


「メイスイさん!私まで死んじゃうところでしたよ!」


 辺りがある程度落ち着いて結界を解いたリリアが若干怒ったようにメイスイに言う。

 しかし、メイスイは反省する様子もなく、


「だって仕方ないじゃん。あいつ全然倒せなかったし」


 と言った。

 煙が晴れてきて段々と状況が見えてくる。

 どうなったのだろうと思い見ると、そこには体の半分が溶けたゴーレムがいた。

 ゴーレムは動けないようであったが、溶けた物質が固まり始めると徐々に体がつくられていき、また元の状態に戻ったのであった。

そこでリリアはピンっと来る。

そういえば、さっき触れたときの感触がやっぱり金属のようだったのだ。それならば今みたいに溶かしてしまえばいいのかもしれない。

その結論にたどり着いたリリアはメイスイに言う。


「メイスイさん、あれの倒し方が分かりました。今みたいに溶かして魔石を外に出せばいいんです!」


「!それはいい考えだね」


 倒し方が分かれば後は簡単である。

 リリアはメイスイに向かって魔法攻撃力上昇の支援魔法をさらにかける。これでより強い攻撃をすることができるだろう。


「よしっ!じゃあいくよ」


 倒し方が分かり、さらに魔法を放ってストレス解消ができるとわかったメイスイが嬉々として攻撃を始める。

 さっきと同じ火の玉を作り当てていく。今回はリリアに影響が及ばない大きさに留める代わりに、何回も火の玉を作り攻撃をし続ける。

 ゴーレムはこちらに突進して来ようとするが、火の玉が当たった衝撃でなかなか前に進めずにいた。

 そうしているうちにどんどんその体は溶けていく。そして、遂に魔石が外に出てきた。


「メイスイさん、見えました!あれが魔石です!」


「りょーかい!」


 メイスイが魔石に向かって風魔法を放つ。

 魔法は魔石にぶつかると真っ二つにした。

 魔石が壊れたゴーレムは少しの間鈍く動いた後、遂に動きを止めたのであった。


「やっと終わったー」


 メイスイが息をついた。

 リリアも同じように一息をつく。

 決して強いとは言えなかったが、かなり厄介な相手であった。しかし、何とか倒しきることができた。

 今までと同じように、ゴゴゴゴゴという音がして向こうの壁の扉が開く。

 あそこからまた下に降りることができるのだろう。

 とはいえ、一回休憩したい。

 この階層はどちらかというと精神的な消耗が大きかった。


「メイスイさん、一休みしてから先に進みましょうか」


「そうだね」


 リリアとメイスイはそう言葉を交わすと、しばしの休憩に入るのであった。

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