33 ダンジョンを攻略してみた⑦

「ここはまた違う雰囲気になりましたね」


 リリアが言う。

 昼食を食べて休憩をしたリリアとメイスイは下の階へと下りてきていた。

 3つ目の階層は2つ目の階層の自然とは正反対の人工物的な雰囲気であった。

四角く切られた石を組み合わせて作られた床、壁、天井に四方を囲われている。さっきとは違いとても圧迫感のある空間だ。

壁には誰がつけたのかもわからない松明が一定間隔で付けられているが、薄暗く少し不気味な感じを醸し出している。

動画のことも考え腰につけていたランプに明かりを灯すと、その不気味さは幾分か和らいだ。


「ここの階層はどんな魔物がいるのでしょうね」


「そりゃあやっぱあれでしょ。こういう雰囲気の所って言ったらゴーレムじゃない」


 ゴーレムはその体が石や土で構成された人型の魔物である。

ダンジョンのみで見られること、人型をしていることから、ダンジョンが古代の遺物であるということを裏付ける根拠の一つとなっている。

そんな話をしながら曲がり角を曲がる。


「痛い!」


 何かにぶつかっておでこをぶつけてしまった。

 おでこをさすりながらぶつかったものを見る。

 壁だ。

 どうやら行き止まりだったようである。

 そう思いリリアは後ろに引き返そうとする。しかし、周りを見渡そうとも別の道がないのだ。

 これでダンジョンは終わりなのだろうか。いや、それはないだろう。

だって今まで旅動で見てきたダンジョン攻略動画では、最後のボスを倒すとダンジョン自体が消えていたのだから。

まだ消えていないのならこれで終わりではない。

そう思い、さっきの行き止まりを調べる。

よく見ると作りが他とは違う。同じ石ではあるのだが、加工が不十分な不揃いな石で作られているといった感じだ。


「あれっ、これは何でしょう?」


 その行き止まりの壁に周りとは違う部分を見つける。

 丸く掘られた窪み。まるで何かをはめるために作られたようである。そう、それこそ――


「魔石をはめるところに似てますね」


 魔導具で魔石をはめる穴と似ているのだ。

 まさかそんなことはないだろうが、魔石をはめ込んだらもしかしたら何かが起こるかもしれない。

 そう考えたリリアはここに来るまでに取ってきた魔石を片っ端からはめていき、ぴったりとはまるものを探し始めた。

 あれこれ試していると、小さいアシッドスライムの魔石がぴったりとはまる。まるで本当にそれをはめるように存在していたかのように。

 突如としてその壁が動き出した。

 横の壁に移動するのではなく、まとまるように動き出した石は何かを形作っていく。そして、しばらくするとリリアの身長の1.5倍くらいありそうな人型が出来上がった。


「これ多分ゴーレムだよね。まさか動き出すとか言わないよね」


 メイスイがそう言うが、そのまさかであった。

人型の目にあたる部分が光る。そして、動き出したのだ。


「動きましたね…」


「動きましたねじゃないよ。まったく、リア何やってるの!?」


 まさか本当にゴーレムが出てくるとは思わなかった。しかも、魔石をはめた壁からできるとは全く思っていなかった。

 目の前に立つゴーレムが腕を振り上げる。

 そしてふり下ろそうとしたときに、間一髪でメイスイが体当たりをした。

 思いっきり飛ばされたゴーレムは奥の壁にぶつかるとばらばらに砕けて魔石と石の残骸になってしまった。


「助けてくれてありがとうございます、メイスイさん」

リリアがお礼を言う。

しかし、安心したのも束の間、それらは魔石を中心にしてすぐに集まると、また同じゴーレムができあがったのだ。


「うわっ、そうだったゴーレムって復活するんだった。また面倒くさい敵だよ、嫌だなあ」


 メイスイが心底嫌そうに言う。

 ゴーレムはその体を破壊してしまえば倒せるというように勘違いしやすい。しかし、魔石を壊さないと何回でも復活するのだ。だから狙うのは魔石でなくてはならない。

 と言ってもリリアは実際には戦ったことがないから、本と旅動で見ただけの知識ではあるが。

 メイスイは再度ゴーレムにぶつかると、その体をばらばらにする。そして復活する前に近づくと、魔石を踏み潰したのだった。

 すると、集まろうと動いていた石が止まった。これでゴーレムが復活することはないようである。


「メイスイさん、ありがとうございました」


「こんな面倒くさい敵あまり戦いたくないから気を付けてよね」


 そう言うメイスイに向かってごめんなさいと謝る。

 でも幸運だったともいえるだろう。

 あのゴーレムが移動したことにより新しい道が開けたのだ。

 あそこで魔石をはめなければきっと今も道を探す羽目になっていただろう。

 気を取り直して新しくできた道を進んでいく。道中同じような壁がいくつもあったが、無視をして通り過ぎて行った。

 しかし、またしても突き当りに来てしまう。しかも、突き当りの壁は魔石をはめる窪みのない壁である。


「これは引き返すしかないですね」


「まさかとは思うけどさ…、個々の階層を抜ける方法って…」


「そのまさかだと思います。多分今まで通り過ぎてきた壁のどれかが奥に続くようになっているんだと思います」


「じゃあ、またゴーレムと戦わなきゃならないじゃん~~!」


 メイスイが嫌だというようにその場でごろごろする。

 駄々をこねているが、それはそれでなんだかかわいい。


「僕は面倒くさいのが嫌いなんだよ。もっとこうさ、ぱっとできるのが好きなんだって」


アシッドスライムも面倒くさがっていたのだ。また面倒くさい敵と戦うのはどうしても気が進まないのだろう。

 しかし、戦うのが嫌なら敢えてその選択をしなければいいのではないだろうか。

 そう思ったリリアはメイスイに言う。

 

「ゴーレムを起動させずに壊して通るのはどうでしょうか?」


「それがさあ、できないんだよ。ダンジョンの壁とかはなぜかものすごく丈夫でさあ、僕でも壊すことができないんだ。だから、起動させてないゴーレムもきっと同じだよ」


 そう言いながらメイスイは近くにあったゴーレムの壁に体当たりしたり魔法を飛ばしたりしてみる。しかし、壁は壊れないどころか傷一つ付かなかった。

そうなるとやはり、ゴーレムを起動させなければ奥へは進めないようだ。戦闘は避けて通ることができない。


「それじゃあ仕方ないので、戦って奥へ進みましょう」


 リリアが依然ゴロゴロするメイスイを引っ張って起き上がらせようとしながら言う。

 メイスイはしばらく駄々をこねていたが、何とか説得することができた。

 まだ、嫌そうな顔をしているがどうにか戦ってくれそうだ。

 そうして、奥に続く道を探すために、近くのゴーレムから起動を始めるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る