32 ダンジョンを攻略してみた⑥
リリアとメイスイは森の階層を進んでいた。
アシッドスライムを避けるために回り道を何回もしているから下りてきた階段がどこにあったかもうわからなくなってしまったが、奥には確実に進めているだろう。
「あそこなんか開けてるよ」
先の方を示しながらメイスイが言う。
その方を見ると一際明るい場所が見えた。
リリアとメイスイは近づき、草木の陰からそこを見る。
ちょうど木がなくなっており上からの光が直接差し込む開けた場所。
そこではたくさんの水色の普通のスライムと紫色のアシッドスライムがぴょんぴょん跳ね回っていた。その中央にはリリアの背よりも大きいんじゃないかと思えるほど巨大なアシッドスライムが鎮座している。
間違いなくあれがこの階層のボスであろう。
「うわー、嫌だなあ。あれと戦わなくちゃいけないの」
メイスイが気の進まなさそうな顔をする。
前に戦った時に酸が厄介だったと言っていたからそういうことだろう。
しかし、リリアはふと思う。
「酸が嫌なら、ばれないように隠れながら攻撃すればいいんじゃないですか」
「それはそれで嫌だよ。だって、高貴な僕が正々堂々戦わないなんてかっこ悪いじゃないか」
隠れながら戦えば楽に勝てると思うのに、それは自分のプライドが許さないらしい。
「そういえば、リ…アさあ、酸を防ぐ魔法とかないの?」
メイスイが聞いてくる。
ちなみに動画撮影しているときはリリアと呼ばないようにと言い聞かせてある。まだ言いなれないようだが、何とか失言は避けてくれている。
「そうですね…。あの酸の攻撃って魔法ですか?」
「違うよ、物理だよ。普通のスライムより強くなってるといえども、やつら魔法は使えないからね」
「それならば防御力上昇の魔法をかければ防げると思いますよ」
別に魔法であっても魔法耐性力上昇で防ぐことはできる。しかし、魔法によってはその耐性を貫通するものもあるから完全に防ぎきれるとは言いづらい。
しかし、純粋な物理であれば貫通することはないので、強い防御力上昇をかければ大抵はどうにかすることができる。
「それ本当!?ちょっとかけてみてよ」
呪文を唱えてメイスイに防御力上昇をかける。
「あとついでにさ、近くのアシッドスライム近くにおびき寄せてくれない?」
言われるがままに果物を使って一番近くのアシッドスライムを群れのはずれへとおびき寄せた。
群れから離れ果物を楽しんでいるアシッドスライムの背後から―それが本当に背後なのかどうかはわからないが―メイスイが近づく。そして、爪を使って引き裂いた。
アシッドスライムは真っ二つになり魔石を残して消えていく。
しかし、メイスイはそれに目をくれることなく、自分の爪を見たあと、
「やったよリ…ア!爪が溶けてない!」
と、嬉しそうに言った。
「よし、これならいけるぞ」
酸の耐性があることを確認したメイスイが、意気揚々とアシッドスライムの群れの中へと飛び込んでいく。
スライムたちがそれに気づく。そして、スライムは体当たりを、アシッドスライムは酸を飛ばして攻撃してきた。
しかし、メイスイは避けることなくそれを全て受け止める。
一瞬攻撃がやんだときにリリアが見るも、その体には傷一つついていなかった。
「やった!これで思う存分戦えるぞ!」
そこからは一方的な戦いだった。
アシッドスライム側の攻撃は一切通らず、メイスイの攻撃がアシッドスライムをどんどん葬り去っていく。しかも、魔法を一切使わずに爪でだけで。
「ははははは!」
笑いながら戦うその様子からは、過去に苦戦させられたことへの恨みのようなものが感じられた。
それからわずか数分後、残るは巨大なアシッドスライムだけとなっていた。
巨大なアシッドスライムは酸をメイスイへと飛ばす。
しかし、その攻撃はやはり一切通らない。
「君自身に恨みはないけど、まあ許してね」
メイスイはゆっくりと近づき、思いっきり腕を振り上げると爪でアシッドスライムを真っ二つに切り裂いた。
二つに割れた巨大なアシッドスライムは息絶え、魔石を残して消えていった。
「ふうっ、楽しかった」
メイスイがたいそう満足そうな顔でこちらに戻ってくる。
「メイスイさん、楽しそうでしたね」
「まあね~」
ゴゴゴゴゴ、と音がする。
下の階層に続く入り口が開いたのだろうと周りを見渡すと、巨大なアシッドスライムがいた場所の地面が開き、階段が現れていた。
「いったんここで休憩にしませんか?」
早速次の階層へ行こうとするメイスイを止めてリリアが言う。
まだお互いに目立った疲れはないからこのまま進んでもいい。
しかし、今の戦いでスライムはだいたい倒してしまったから、この辺りはもう安全であろう。
それにこんなにいい雰囲気の場所なのだ。休憩するならここしかありえないだろう。
「いいよ」
メイスイがそう返答する。
魔導リングで時間を確認するともう昼時であった。
「よしっ、そうしましたらお昼ごはんでも食べましょうか」
お腹も減ってきていたしちょうどいいだろう。
そう思うとリリアは昼食の準備を始めたのであった。
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