31 ダンジョンを攻略してみた⑤

 階段を下っていくと雰囲気が打って変わる。

 

「これは…森ですか?」


さっきは洞窟の中のような感じであったのに、今度は森のような感じになったのだ。地下であるのにかなり明るく、植物も青々と茂っている。

 これだと明かりはいらないだろうと思い、リリアはランプの明かりを消した。


「次の階段はどこにあるんでしょう。メイスイさん、わかりますか?」


 さっきの洞窟は行ける場所が限られていたから、道なりに行けば階段へとたどり着くことができた。

しかし、今回は広い森の中なのだ。どこに行けばいいのか、まったくもってわからない。

 旅動でもこういう自然系の階層は時々あったが、その場合はどの冒険者も進む方向に困っていた覚えがある。


「僕にもわからないかな。でもね」


 メイスイが今下りてきた階段の後ろの方へと歩いていく。そして、前足をあげたかと思うと何もない場所を触ろうとする。

 その手が何かに触れたように止まった。

 リリアもその場に行き同じようにする。

 やはり何かに触れた。今までに経験したことのないような不思議な感触の何かがある。

奥があるように見えて、そこにある壁のようなものによって奥には進めないようになっているようだった。


「こうやってこの階層も壁に囲まれているからさ、しらみつぶしに探してもそんなに大変じゃないと思うよ。それに大抵、下りてきた階段から一番離れた場所に次の階段があるからそっちに行けばいいんじゃないかな」


 メイスイがそう言った。

 さすがダンジョン攻略経験者である。戦いだけでなくこういった面でもとても頼りになるようだ。

 とにかくメイスイの助言をもとに、階段を下りてまっすぐの方向に進んでいくことにした。

 全体としては森となっているが、木は上からの光を通すくらいの密集度であり足元は明るい。また、地面の草も高いものはなく、全く踏み倒されていないとはいえとても歩きやすい状態になっている。

 ここが魔物の出るダンジョンでないのなら、休日にピクニックにでも来たいと思えるような場所だ。

 歩いていると横から何かが飛び出しリリアにぶつかった。

 少しぶつかった感覚があったくらいで全く痛くなかったのだが、一体何がぶつかってきたのだろうと足元を見る。

 水色でリリアの両手のこぶしを合わせたくらいの大きさのぷにぷにとした何かが転がっている。

 それはスライムであった。


「わあ、かわいいです」


 リリアがしゃがんでスライムを両手ですくい上げる。

このぷにぷにとした感触が面白い。そして、かわいい。

 スライムは害のない生物として一般的に有名であった。

魔物の部類ではあるのだが、魔法は一切使えず攻撃は体当たりしかない。それに大きさもどれだけ大きくなろうとも直径20から30cmくらいだから、ぷにっとした体も相まってたとえぶつかられようともダメージにはならないのだ。

それゆえ、リリアも見かけたときはなんかほっこりする魔物として昔から結構気に入っていた。

手の上のスライムは少し困った様子であったが、ぴょんっと飛び上がると手の中から逃れてどこかへ行ってしまった。


「スライムがいるなんてこの階層は実は平和なのかもしれませんね」


 リリアが言う。

 この調子ならすぐに下の階層に行けそうだ。


「そうかもね。あれっ、でもダンジョンって下に行くほど魔物が強くなるんだけどなあ。おかしいなあ」


 メイスイが言う。

 よく考えてみれば確かにそうである。だからこそダンジョンに挑む冒険者は下に行くほど苦戦するのだ。

 しかし、スライムは魔物の中でも最弱の部類に入る種族である。

 間違ってもさっきのゴブリンやホワイトウルフよりも強いことなんてない。むしろスライム10匹で挑んでもゴブリン一匹に勝てるか怪しいくらいだ。


「まあいいや、先に行こうよ」


 メイスイはそう言って先へと歩いていく。

 リリアもそういうこともあるのだろうと思い、それについていった。

 それから歩くも出てくるのはスライムのみであった。

 どのスライムも一度は攻撃として体当たりしてくるのだが、かなわないと悟ったからなのかすぐに逃げてどこかへ行ってしまう。

 その姿が何ともかわいくて癒されていた。

 しかし、この階層にスライムがいる理由。それはすぐに分かった。

 スライムに体当たりをされながら奥へ奥へと進んでいると、リリアは今までと少し違うスライムを見つけた。

 大きさは他のスライムと変わらない。しかし、体の色が違うのだ。普通のスライムは水色なのに対して、目の前のスライムは紫色をしている。

 それはなんだか宝石のようで少し美しさがある。

 となると感触の方は同じなのか、それとも違うのか確かめてみたくなる。

 そう思い、リリアは紫色のスライムに近づこうとした。

 ぐんっと後ろを掴まれる感覚がして立ち止まる。

 後ろを見ると、メイスイが爪を襟の所にかけて引き留めていた。


「まさか、あれを触ろうとしてたんじゃないよね」


「そうですよ。だってかわいいじゃないですか」


「やっぱり。まあ、ちょっとあれに何か投げてみてよ」


 そう言われてリリアは鞄の中なら果物を出すと投げる。

 紫色のスライムはそれに気付くとぴょんぴょんとはねて近づき、その上に乗って体内に取り込んだ。そして、果物は体内でまるで溶かされるように消えてしまったのだった。


「あれは、溶かしているのですか?」


「そうそう。あれはアシッドスライムって言ってね、強い酸を使うスライムだよ。アシッドスライムは酸を飛ばしてくるから、あのまま近づいていたら今頃大変なことになっていたかもね」


 メイスイに説明されて、止めてくれてよかったとリリアは胸をなでおろした。

 それにしてもアシッドスライムなんて初めて聞いた。今までは水色の普通のスライムしか見たこともなかったから、珍しい魔物なのだろうか。


「メイスイさんはアシッドスライムを知っていたんですね」


「まあ、昔戦ったことがあるからね。体に触ると溶かされちゃうから爪は使えないし酸は避けないといけないしでちょっと面倒くさかった記憶があるけど。だから、あれとは戦いたくないし避けて行こうよ」


 たしかにそう聞くと厄介そうな魔物だ。

避けられるのなら避けていった方がいいだろう。

 リリアとメイスイはそのアシッドスライムを避けてさらに奥の方へと進んでいった。

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