30 ダンジョンを攻略してみた④

 翌朝、リリアとメイスイはダンジョンの前に来ていた。

 昨日のうちに用意はすべて終わらせておいたので、朝食を食べてすぐに来たのだ。


「あっ!」


 何かを思い出したようにリリアが声を発した。

 そう言えば、今日ダンジョン攻略をすることを誰にも言っていなかったのである。あまりにも楽しみすぎてすっかり忘れていた。

 特にロキアに言い忘れてしまったのは失敗した。ダンジョン攻略をしたことを後で言ったら、また怒られることだろう。

 しかし、遅くならないうちに帰ればきっとばれない。そのためにも早くダンジョンに潜って攻略しなければ。


「メイスイさん、準備はいいですか?」


「もちろん!」


 準備体操として体を伸ばしながらそう言うメイスイはもう準備万端そうである。


「さて、動画撮影の準備もしましょうか」


 そう言いリリアは鞄から魔導撮影機を取り出す。

 ダンジョン攻略は長引くかもしれないとのことだったので、エネルギー源である魔石に魔力を補充しておいた。それに、魔導石もこれ以上動画を記録できないなんてことにならないように新しいものを機能のうちに購入しておいた。

 これで動画撮影の準備もバッチリだろう。

 魔導撮影機を起動し、ダンジョンの穴が映るようにしてその場に浮かす。

 そして、自分も映るように移動し、鞄から取り出したねこのお面を被った。


「メイスイさん、準備はいいですか?」


「いいよ」


 メイスイの返答を聞き、リリアは魔力で魔導撮影機を操作して撮影を開始した。


「皆さんこんにちは!リアです。今日はなんとですね、ダンジョンに来ています!」


 ダンジョンの入り口を見せるようにして両手で示す。


「今日はですね、メイスイさんと一緒にここを攻略してみたいと思います!」


 わー、と小さく拍手をする。


「私はダンジョンに潜るのは初めてなので何があるのかとても楽しみです。それじゃあ、さっそく入っていきましょうか!」


 魔導撮影機を操作し、その場に固定するという設定から、一定の距離を保ってリリアの後ろをついて来てくれる設定へと切り替える。

 何か障害物があってもよけてくれるらしいし、耐久性の上がる魔法式もついているから、あとは問題なく勝手に撮影してくれるだろう。

 操作を終えたリリアは振り返るとダンジョン入り口まで歩いていく。

 ダンジョンの中は明かりが一切なくとても暗い。

 リリアは鞄の中からランプの魔導具を取り出し明かりを灯すと、腰に付けた。だいぶ明るい光だから撮影も問題なくできるだろう。

 明かりを確保したリリアはメイスイと並んで中へと歩き始めた。


「これがダンジョンですか」


入り口をくぐると中はただの洞窟のようになっていた。壁は土がむき出しでごつごつしており、本当に自然にありそうな洞窟である。

入り口の人工物のような雰囲気とは合わない、この違和感ありな感じもダンジョンっぽさなのかもしれない。

歩くとすぐに魔物の声が聞こえてきた。

奥の方を見るとホワイトウルフの群れがいる。昨日ダンジョンから出てきた個体はきっとこの群れの一匹だったのだろう。


「よし、じゃあ行ってくるね」


 走り出すメイスイに向かってリリアは防御力上昇の支援魔法をかける。

今までの戦いを見ている限りホワイトウルフ相手にはいらないかもしれないが、万が一のときのためだ。

 群れの中心に飛び込んだメイスイはそこで一吠えした。

 注目が一気にそこに集まる。

 メイスイを敵認定したホワイトウルフたちは、しばらく様子を窺うように歯をむき出して威嚇をする。そして、一斉に襲い掛かった。

 メイスイが待ってましたと言わんばかりに、体を回転させながらそれに爪で対抗する。

 くるりと回る姿は洗練されていてどこか美しい。

 反撃を受けたホワイトウルフたちはその衝撃で壁にぶつかり、何匹かはそのまま動かなくなった。

 数が一気に少なくなったホワイトウルフたちは少し怯えるように後ずさりをすると、奥の方へと逃げて行ってしまった。


「まあ、入り口程度じゃ張り合いはないよね」


 手を振って爪に着いた血を落としながらメイスイが言った。

 さっき倒されたホワイトウルフの方を見ると、そこには残骸はなく石が落ちているのみであった。

 魔石である。

 この魔物が消えて魔石のみが残る現象もダンジョンの謎の一つとなっている。

 ダンジョンの魔物でも、外で倒されれば死骸が残るのにダンジョン内だと魔石のみになるらしい。

 そもそもダンジョン内の魔物の中には、その周辺にはもともと住んでいなかったであろう珍しいものや強いものもいることから、ダンジョンと一緒に生まれた魔物の見た目をした何かではないかとも言われている。


「メイスイさん、ちょっと待っててくださいね」 


リリアは魔石を拾い上げると新品のアイテムバッグに入れた。

この前、ゴブリンを他のものと同じ鞄に入れるのに気が引けたので新しく購入したのだ。もともと持っていたものに比べると容量はかなり小さく安価なものであるが、中身はすぐにギルドに売ってしまうのだから問題はない。


「お待たせしました。先に行きましょうか」


「りょーかい」


 魔石を集め終わり先へと歩を進める。

 道中もゴブリンやらホワイトウルフといった昨日の襲撃で見た魔物が現れたが、そのたびにメイスイが鼻歌交じりに倒していたので、楽々と進むことができた。

 突然広い空間に出る。

 そこでは多くのホワイトウルフとゴブリンがたむろしていた。中にはさっき戦った個体じゃないかと思われる負傷したホワイトウルフもいる。

奥の方を見るとキングホワイトウルフもいた。

 昨日の襲撃のメンツである。


「ちょっと多いかな」


 そんなことを言うメイスイの声が聞こえたのか、魔物たちがこちらを向く。


「オオーン!」


 奥に仁王立ちするキングホワイトウルフが吠えた。

 魔物たちが鼓舞されたように臨戦態勢になる。


「面倒くさいし魔法で倒しちゃおう。リリア、支援お願い」


「わかりました」


 リリアがメイスイに向かって魔法攻撃力上昇の支援魔法をかける。


「よし、じゃあ行くよ!」


 魔物たちが一斉に襲い掛かってくる。

 メイスイはそれに向かって手を横に動かした。

 その手から大きな斬撃のようなものが飛ばされて魔物たちを切り裂く。

 風魔法だ。

 斬撃は手前の魔物を切り裂くと止まることなくそのままの勢いで後ろも引き裂いていき、どんどん魔物を倒していく。そして、壁に当たると、砂煙をあげてやっと止まったようだった。

 砂煙が収まるとそこには多くの魔石が落ちており、残る魔物はキングホワイトウルフのみとなっていた。

 しかし、そのキングホワイトウルフも相当のダメージを負っており、立っているのもやっとという感じであった。


「昨日のやつも僕の攻撃をよけてたし、君たちの種族もなかなかやるね」


 そう言いながらメイスイが近づき爪で引き裂く。

 キングホワイトウルフは倒れ、そこには魔石だけが残った。

 突如、ゴゴゴゴゴゴ、という音がする。

 音の方を見るとキングホワイトウルフが立っていた場所の奥が扉になっていたようで、それが開いている最中であった。扉の奥には下へと続く階段がある。

 旅動で視聴者として何回も見たことがあるこのギミック。定番ではあるが、実際に見ると心が躍るものがある。


「これでこの階層が終わりだね。休むことなく早く次行こうよ」


「はい!」


 ある程度魔石を集め終えたリリアは、せかすメイスイについて階段を下って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る