29 ダンジョンを攻略してみた③
メイスイの背中に乗りながら、リリアは草原を走っていた。
目指すは昨日魔物の襲撃があった方向にある森である。
「着いたよ」
森の入り口に着いたメイスイがそう言って下ろしてくれる。
ここが魔物の出てきている森である。何か異変が起きているのならここに違いがないのだ。
リリアは森の中へと足を踏み入れる。
いたって普通の森だ。木が立ち草木が生えている。魔力が一か所に集中しているとかいった嫌な感じは一切しない。
ただ一つ言うのなら、地面の植物たちが倒れ踏み固められているのだ。多くの魔物がここを通っている証拠であろう。
何も異変を見つけられないままリリアとメイスイは奥へ奥へと進んでいく。
探索を初めて15分ほどたった時、背後でガサゴソと何かの音がした。
「リリア!」
メイスイが叫ぶと同時に茂みの中からゴブリンが飛び出してきた。
リリアを手に持つこん棒でまさに襲おうとしてところを、メイスイが魔法を飛ばし防ぐ。
魔法が当たったゴブリンはそのまま息絶えたようだ。
「ありがとうございます、メイスイさん」
「ちょっと、リリア、気を抜きすぎなんじゃない。僕がいるとはいえここは魔物がいる森なんだからね」
メイスイに怒られてしまった。
たしかに少し気を抜いていたかもしれない。
アバスさんも、調査が妨げられるくらい魔物に出くわしたと言っていた。これ以上奥に進めばこんなことも多く起こるだろう。
少し気を引き締めなおさなければならない。
両手で自分の頬を軽くたたいたリリアはゴブリンが出てきた方を見る。
とはいえ、ここで魔物が出てきてくれたのは幸運だったかもしれない。きっとその先に何かあるのだろう。もしかしたら、魔物襲撃の原因となる何かかもしれない。
念のためメイスイと自分に防御力上昇の魔法をかけて、急に何かが起きても大丈夫なようにしておく。
しばらく歩いていくとまた魔物が現れた。
メイスイにそれを倒してもらいながら奥へと進んでいく。
こういう時にメイスイは本当に頼もしい味方だと感じる。
そうやって度々現れた魔物を倒しながらどんどん奥へと進んでいくと、突然開けたところに出た。
そこにあったのは――
「洞窟…でしょうか?」
少し坂になっている部分に、メイスイでも悠々と通れそうなくらい大きな穴が開いている。しかし、一つある違和感は、その穴の周りがまるで人工物であるかのように四角く切られた石を組み合わせて作られているのだ。
「ああ、これはダンジョンだね。いやあ、久しぶりに見たなあ」
「ダンジョンって、あのダンジョンですか!?」
リリアが目を輝かせながら言った。
ダンジョンとは突然できる魔物の住処のようなものだ。
大抵はいくつかの階層に分かれていて進んでいくほど魔物が強くなっていくという特徴がある。
特に、中には宝箱があるということもあり、冒険者には人気のある場所である。
しかし、突然現れ、一番奥まで到達すると今まで何もなかったように消えてしまうことから、とても珍しいものとなっていた。
また、自然災害のように現れるにもかかわらず人工物のようなものも見られることから、その正体については様々な憶測が飛び交っている。
魔力の滞留による召喚魔法のようなものであるとか、古代の遺物が今になって現れたものであるとかいったように考える学者が多いそうだ。しかしその一方、秘密の組織によるこの世界を終わらせるための企みの一つであるなんていう陰謀論のようなものまでもささやかれている。
いずれにしても、そのなぞに覆われた存在から一般にもとても人気があるのだ。
そのため、旅動においてダンジョン攻略の動画というのは人気中の人気のネタとなっていた。
「メイスイさん、ここでダンジョン攻略の動画を撮りましょう!」
依然目を輝かせたままのリリアが言う。
「えー。魔物の襲撃の原因を調べるだけって話だったじゃん。それにダンジョンって攻略に時間がかかるから嫌なんだよね」
メイスイが渋る。
どうやらメイスイは過去に別のダンジョンに潜ったことがあるらしい。そのあたりの話もいつか聞いてみたいものだ。
そんな話をしていると、突然ダンジョンの中からホワイトウルフが顔を出す。そして、リリアたちのことを見つけると突然襲い掛かってきた。
しかし、メイスイは落ち着いてこれを対処する。
きっと、中で増えた魔物が外に出てきたのだろう。
それならばこれで確定だ。ここが魔物の襲撃の原因となっている場所で間違いがない。
「ここが襲撃の原因だったようだね。それじゃあ、それが分かったことだし帰ろうか」
メイスイがくるりと後ろを向き、元来た道を帰ろうとする。
しかし、リリアがその尻尾を掴み引き留める。
「…攻略なんてやだよ。調査だけの約束だったし」
ものすごく嫌そうな顔をしながらメイスイが言う。
「原因が分かったんならあとは町の人に任せればいいじゃん」
「でもきっと衛兵さんたちだけじゃ攻略できませんよ」
「じゃあ他の街の助けを借りればいいじゃん」
「それじゃあきっと助けが来るまでにソクルが陥落してしまいます」
「そんなこと言って本当は動画撮りたいだけなんじゃ…」
たしかに動画を撮りたい気持ちがないといったら嘘になる。というかその気持ちはすごく大きい。
しかし、町の人たちを救いたいという気持ちが一番である。
「お願いします、メイスイさん。ダンジョン攻略、一緒にしてください」
「…………わかったよ」
メイスイが渋々折れてくれる。
リリアは心の中で飛び上がった。
なんだかこの一連の流れが最近定番になりつつあるような気がする。
「ありがとうございます!」
「だけどリリア。僕のベッドの上に君が持ってる毛布重ねてよね。2段重ねくらいで」
「もちろんです!」
さらなる睡眠の快適さを要望したメイスイにそう答える。
さあ、これでダンジョン攻略をすることが決定した。
とはいえ、しっかりした準備もなくこのままダンジョンの中に入るのは危険である。それにもう夕方へと続く時間帯だ。いったん引き返すのが吉であろう。
そう考えたリリアはソクルへと戻るのであった。
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