28 ダンジョンを攻略してみた②
「すみません、アバスさんいらっしゃいますか?」
扉をたたきながらリリアが言う。
昼食を食べ終わったちょうど昼過ぎ。リリアとメイスイはソクルにある衛兵の詰所を訪れていた。
ちなみに魔物の撃退を手伝って帰った後、ロキアに怒られた。『聖女としても危ないところにはいきましたし大丈夫ですよ』、と伝えたのだが、行くならちゃんと説明してから行きなさいとさらに怒られた。
ロキアは聖女として頑張っていたころのリリアを実際には見たことがない。だからこそ、危険な所に行くというのはとても心配なのだろう。
ガチャリと音がして扉が開く。
「おっ、リリアちゃんか。よく来たな。まあ入ってくれや」
顔をのぞかせたアバスが中へと入れてくれる。
「昨日の話だったよな。取り敢えず落ち着いて話せるところに行くか」
そう言ったアバスは詰所の奥の方へと案内してくれる。
多くの衛兵たちが集まるロビーのような場所を抜け、たどり着いたのは衛兵長室と書かれた部屋であった。
アバスはその部屋の扉を開け中に入る。
リリアもその後に続いた。
見ると、中は床に色々なものが散乱してごちゃごちゃしていた。
「すまんな。どうしても最近忙しくて散らかりまくっているが、そこの椅子でも座ってくれ」
アバスが足元に無造作に置かれた装備品やら書類の束やらをどかしながら言う。
リリアはそうして作ってくれた道をたどり椅子に座った。
しばらくそうやって片づけた後アバスもその向かいに座る。
「アバスさんもしかして衛兵長になったのですか?」
「ああ、1年くらい前にな。リリアちゃんがいたころは5年位前だから…たしか平衛兵だったもんな。それに比べると出世したもんだが、その実、書類仕事に追われるただの雑用係みたいなもんだよ。まあ、給料はちょっとばかしよくなったがな」
はははっ、と笑いながらアバスが言う。
「そういや、リリアちゃんはどうして帰ってきたんだ?たしか王都で聖女様をやってたんじゃなかったか?」
「ああ、それなんですけどね――」
リリアが聖女を辞めたこととその経緯を話す。内容は昨日ロキアに話したことと変わらない。
すると、アバスのが段々怒ったような顔になっていった。
「それって単に追い出されたわけじゃないのか。もちろん今まで働いた分の褒美みたいのはもらったんだよな?」
「いえ、特にはありませんでしたよ」
「やっぱり追い出したんじゃねえか。まったく、王家のやつらは俺ら平民のことをなんだと思ってんだ!……とはいえリリアちゃん、今まで俺らのことを守ってきてくれてありがとうな」
アバスはリリアの頭をポンポンとなでるが、
「ああ、すまん。ついリリアちゃんが小さいときの感覚で頭をなでちまったな」
とすぐに放してしまった。
たしかに自分はもう頭を撫でられるような年齢ではないが、昔に戻ったみたいで特段嫌な気持ちはしなかった。
一つ咳払いをしてアバスが話を変える。
「ところで、ここ最近の魔物の襲撃について話を聞きに来たんだったよな」
「はい」
「それなんだが、ちょっと待ってくれ」
アバスが周りに散らばる書類をごそごそと探る。そして、その中から一枚の紙を手に取るとリリアに渡した。
「これがここ2ヶ月くらいの魔物の襲撃の記録だ」
渡されたそれを見ると、襲撃が起きた日と攻めてきた魔物の種類と数、大体の被害が書かれていた。
襲撃の間隔は段々狭まってきており、つい4日前にも起こっていた。また、攻めてくる魔物の数も増えてきており、それに伴い被害も徐々に大きくなっていっているという現状が読み取れる。
「実は2か月前から前兆のようなものはあったんだが、ここ1ヶ月くらいの間に急に襲撃の頻度が上がってな」
「これは何か異常が起きているとしか思えませんね」
「そうだよな。それに魔物も数が多くなるばかりか、キングホワイトウルフまで出てきやがった。これじゃあ、町が陥落するのも時間の問題だ」
「原因は何かわかっているのですか」
「いや、まだなにも。何回か森の方へ探索にも出かけているんだがそのたびに魔物に邪魔されてな。全然進んでいないんだ」
「そうですか…」
これだけ急に魔物の襲撃が頻発するようになったのだ。何か異常事態が起こっているのは間違いないだろう。しかし、その原因がわからないのなら手の打ちようはない。
「まあ、なんだ。防衛に協力してくれたからリリアちゃんには色々話しちまったが、いったん忘れてくれ。せっかく故郷に帰ってきたんだ。ゆっくりしていってくれな」
そう話をしてリリアは衛兵の詰所を後にした。
孤児院向かって歩きながらリリアがメイスイに話しかける。
「魔物の襲撃が増えているということでしたが、何が原因なのでしょうね」
「んー、わかんないよ。まあ、どうせ繁殖しすぎたとかそんな理由なんじゃない」
「この前のメイスイさんみたいに強い魔物が森の奥に住み着いたとか」
「それはないと思うな。それならこんなに段々襲撃回数増えないだろうし。それに僕と同レベルのやつの雰囲気なんて全然しないよ」
原因が何なのかますますわからなくなる。
しかし、このままではこのソクルの町が危ないのだ。どうにかして力になりたい。
「メイスイさん、私決めました」
立ち止まりメイスイの方を向く。
メイスイが嫌な予感といった顔でこちらを向いた。
「もしかしてだけど、原因を突き止めに行くとか言わないよね」
「そのまさかです」
「ええー。面倒くさいじゃん。さっきのアバスとかいう衛兵長もゆっくりしていってくれって言ってたしさ、ここは彼らに任せようよ」
「でも、なかなか調査が進んでないとも言っていましたよ」
「確かにそうだけどさー」
「私とメイスイさんのコンビならその調査も進められると思うんです」
リリアが胸の前で手を組み、お願いするような顔でメイスイを見る。
しばらく、嫌だなあという顔で渋っていたメイスイであったが、
「仕方ないな。その代わり僕用にもベッドを用意してくれるようにロキアに頼んでよね」
と最後は折れてくれた。
一緒のベッドで寝られなくなるのはモフモフ好きとしては悲しいが、町の安全には代えられない。
「ありがとうございます!じゃあ早速行きますか」
リリアはそう言うと、目的地を孤児院から町の外へと変え、歩き出したのであった。
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