27 ダンジョンを攻略してみた①
カーンカーンとどこかで鐘を鳴らす音がする。
あまりのうるささにリリアは目を覚ました。
昨日も今日も安らかな睡眠を妨げられている。
しかし、今日違ったのはまだ外が暗いという事だった。
「リリア!起きていますか!」
手に明かりを持ったロキアが部屋に入ってくる。
「どうしたんですかロキア先生?」
「それは今はいいですから。早く避難しますよ!」
よくわからないがロキアにせかされる。
リリアは久しぶりのベッドの上でまだ眠そうにしているメイスイを抱き上げると、孤児院の外へと向かった。
外に出るとさっきの音が大きく聞こえるようになる。音の方を見ると、街の見張り塔の上で誰かが鐘を鳴らしているのが見えた。
孤児院の子供たちと一緒にシスターにせかされ町の中心部へと走り出す。
「ロキア先生、何があったんですか?」
走りながらリリアは尋ねる。
「魔物の襲来のようです」
「ソクルで魔物の襲来なんて珍しいですね」
ソクルで魔物の襲来なんて、リリアが昔住んでいたころには一年間に1、2回あるかないか程度だった。
まさかここに帰ってきたときにそれが起こるなんて本当に珍しいこともあるものだ。
「いえ、ここ最近多いのですよ。そのたびに冒険者や衛兵の方々が対処してくださっているのですが、それでもこう何度も避難することになると精神の方が先にまいってしまいそうです」
そんな話をしている内に町の中心部らへんにある大きな建物に着く。
多くの人がその中に入っていっているからそこが町の避難場所になっているのだろう。
シスターたちが協力して子供たちを優先して中に入れている。
子供たちとシスターが入り終わったところでリリアも中に入ろうとする。
突然、遠くの方から何かが壊れる大きな音が聞こえた。続いて誰かが叫ぶ声が聞こえる。
もしかしたら、魔物への抵抗がうまくいっていないのかもしれない。
「メイスイさん」
リリアがメイスイを見る。
「…わかったよ」
急に起こされて少し不機嫌気味なメイスイはそう答えると、宙返りをして変化の魔法を解く。
リリアはその背中に乗ると建物の入り口で待つロキアに言った。
「ロキア先生、私ちょっと助けに行ってきますね」
「ちょっと、リリア!待ちなさい!」
ロキアの制止する声を無視してメイスイに合図をする。。
メイスイは建物の屋根の上に乗ると、目的地へとまっすぐ駆けていった。
それほど大きくない町であるためすぐに町の端にたどり着く。
見るとそこではゴブリンとホワイトウルフの軍勢が町を攻めていた。なかにはホワイトウルフに乗るゴブリンもいる。
「うわー!」
叫び声がする。
その方を見ると、他より一回り大きいホワイトウルフが歯をむき出しにして立っていた。
キングホワイトウルフだ。
キングホワイトウルフは冒険者を今にもその爪で襲おうとしている。
「メイスイさん、お願いします!」
「まかせて」
メイスイが口から火の玉を飛ばす。
しかし、キングホワイトウルフは飛びのいてそれをよけた。
「僕の魔法をよけるなんてなかなかやるじゃん」
「メイスイさん、一回おろしてください」
リリアが言う。
この前ホワイトウルフと戦った時はひどい目にあった。だから今回は下ろしてほしい。
メイスイは屋根から地面に降り立つと、しゃがんでリリアを下ろしてくれた。
「じゃあ行ってくるね」
メイスイはリリアを下ろすとそれだけ言い、すぐにキングホワイトウルフの方へと走って行ってしまった。
「大丈夫ですか!?」
さっき襲われていた冒険者に駆け足で近づきながら尋ねる。
冒険者は声を出すことなく、苦しそうな顔と痛みに耐えるうめき声でそれに返答する。
その左腕は爪で切り刻まれており傷が深い。このまま放っておけば命にかかわるだろう。
「ヒール」
患部に向けて回復魔法を唱える。
「あ、ありがとう…」
傷がふさがり幾分か表情が和らいだ冒険者が言う。
これでひとまず一安心だろう。
そう思いリリアは立ち上がると周りを見渡した。
早急に治療が必要なほど大きな怪我をしている人は今のところはいない。しかし、依然魔物との戦闘は続いており、一進一退といった状況だ。
リリアは手を胸の前で組み、聖力を練り上げる。そして、戦っている人たちを対象に呪文を唱えた。
「お、なんだか体が軽くなったな。これならいけそうだぜ!」
ゴブリンと戦っている最中の冒険者が言う。
今かけたのは身体能力上昇と防御力上昇だ。これできっと人間側の勢いも増すだろう。
「ただいま~。あいつそんなに強くなかったや」
振り返るとメイスイが帰ってきていた。
その後ろには息絶えているキングホワイトウルフの体が見える。
「あとは小物だけだぞ!」
「あと一踏ん張りだ!いくぞー!!」
「「おおー!!」」
キングホワイトウルフが倒されたのを見た冒険者と衛兵たちが自らを鼓舞する。
そこからはあっという間であった。
メイスイと彼らによって次々とゴブリンとホワイトウルフが倒されていく。
残り少なくなった魔物たちは森の方へと逃げ帰っていった。
「守り切ったぞー!」
勝利の声が上がる。
一時は押されていたようだが、何とか町を守り抜くことができてよかった。
勝利に喜ぶ彼らがリリアに近づいてくる。
「支援魔法かけてくれたの嬢ちゃんだろ。めちゃくちゃ助かったぞ」
「そこのデカい狐も嬢ちゃんの仲間か?すごく強かったな」
次々とお礼を言われる。
「もしかして、リリアちゃんか!?」
突然後ろから名前を呼ばれる。
声のした方へ振り返ると、そこにいたのは甲冑を着た一人の衛兵であった。
「アバスさん!?」
リリアが駆け寄る。
アバスはリリアがソクルに住んでいた時の知り合いだ。当時は衛兵をやっていたのを覚えている。
「お久しぶりですアバスさん」
「久しぶりだなリリアちゃん。大きくなったな。てか、いつ帰ってきたんだ?」
「昨日の夕方ですよ」
「そうかい。それでこの襲撃に巻き込まれちまったんだから、それは災難だったな。だが、正直いてくれて助かった。おかげで死者も出なかったしな」
アバスにありがとうな、とお礼を言われる。
そういえば、とリリアが尋ねる。
「最近魔物の襲撃が多いと聞いたのですが、何があったんですか?」
今回の襲撃がこれだったのだ。これから先も同じようなことが起こり続けたらこの街はもたないだろう。
だから何か助けられることはないか原因を聞いておきたいのだ。
「そのあたりも話したいんだが、とりあえずこの被害をいったん片付けないとな」
そう言いアバスが周りを見回す。
たしかにところどころに魔物の死体や壊れた物などが落ちている。避難している人たちのためにもこれを片付けるのが先だろう。
「まだ夜だし、また昼くらいに俺のところに来てくれや。衛兵の詰所はわかるな?」
「はい」
「よし、じゃあリリアちゃんも疲れただろうからひと眠りでもしてきてくれ。手伝ってくれてありがとうな」
後片付けに行くアバスの背中に手を振る。
取り敢えずみんなに安全になったことを伝えてからまた寝るとしよう。
小さくあくびをしながらリリアは避難所を目指すのであった。
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