15 【報告】新しい仲間が増えました④

「なんだ君だったのか、あの聖力は」


 声をかけられたリリアが後ろを振り返ると、そこにいたのは大きな狐であった。

 白い毛で覆われるその体はリリアの5倍くらいあり、とても大きい。

 たしかこんな姿の魔物を図鑑か何かで見たことがあった気がする。

 たしか…


「えっと、フォレストフォックスの方ですか。しゃべるなんてめずらしいです」


「いや、妖狐ですけど!」


 自分を妖狐と名乗る目の前の生物が叫ぶ。


「僕は君たちが聖獣と呼ぶ高貴な存在なんだけど!フォレストフォックスと間違うなんて失礼じゃない」


「それは失礼しました」


 リリアは妖狐に謝る。

 妖狐とは確か教会にて聖なる獣として伝えられている生物だ。今探しているゴブリンといった魔物とは違い、清らかな魔力を持っているといったことから崇められているのだ。

 そう言えば今まさに目の前にいるのに自分を食べようともせず、何なら会話をしている。

 過去に妖狐に会ったことはないが、この生物こそがまさにその妖狐なのだろう。


「本当だよ。君聖女なら僕のことちゃんとわかってよね。君たちが崇める存在でしょ」


 そう言う妖狐の言葉にリリアは首をかしげる。

 今自分のことを聖女といっただろうか。


「今私のことを聖女と言いました?」


「そうだよ。だって、さっき聖力を使ったの君でしょ」


「えっと、私は聖女ではありませんよ」


「はあ!?」


 妖狐が驚いた顔をする。


「だって、さっきの聖魔法、少し離れたところからでも感じ取れるほどすごかったよ」


「この前までは聖女だったんですが、他の方に譲ったので今はもう違うんです」


「こんなすごい聖女を追い出すとか人間は何を考えているんだ」


「でも、今の聖女の方は私よりもすごいらしいですよ」


「それでもだよ。せめて手元に置いとくとかすればよかったのに」


 全く馬鹿な人間もいたもんだ、と妖狐はため息をつく。


「まあ、元でもいいや。突然だけどさ、君、僕に仕えてくれない」


「あ、それはお断りします」


「まあ、こんな高貴な生き物に仕えられるんだからもちろん……えっ!?」


 妖狐の目が点になる。


「え、なんで。人間にとって僕に仕えるのは光栄なことじゃないの?」


「もしかしたらそういった人もいるかもしれません。でも、私は自由にいろんなところに行きたいので」


「ええっ、本当に最近の人間がわからない…」


 いったい何なんだと妖狐は頭を抱える。

 今の話を少し思い返してみて、あれっ、とリリアは思った。


「さっき、私が村で使った聖魔法を感じ取ったって言いましたよね」


「うん、僕は色々な場所に行っては気に入ったところに滞在する生活をしているんだ。今は一ヶ月くらい前からこの辺にいるかな。と言ってももう少し奥の方だけど」


 話がつながった。

 おそらく今回の病気の蔓延騒動の大本の原因となったのはこの妖狐である。

これほど強い生き物が住み着いたのだ。森の奥に住む魔物は外に追いやられることになる。するとそこに住んでいた魔物がさらに外に行く。そうやって連鎖が重なってゴブリンが村の近くに住み着いてしまったのだろう。

そろそろ引っ越してもいいかな、とのんきに独り言を言っている妖狐に向かってリリアは一応確認する。


「妖狐さん、ここ最近近くの村の畑や牧場を荒らしたことってありますか?」


「そんなのないよ」


「じゃあ、食べ残しの死体を葉っぱの下に隠したりとか」


「そんなことするわけないじゃん。君もしかして僕をその辺の魔物と同じだと思ってる!?」


 妖狐はぷんぷんと怒ってしまった。

 しかし、これでほとんど決定である。やはり妖狐が原因だ。


「まあいいや。君は仕える気もなさそうだし、妖狐を崇める気もないし。僕はもう行くよ。じゃあね」


 妖狐はそう言って振り返ると森の奥へと戻ろうした。

 リリアはその尻尾を掴み踏みとどまらせる。


「何?もういいでしょ」


「ゴブリン退治に協力してもらえませんか?」


「はあ、なんでそんなこと僕がしなくちゃいけないの」


 明らかに機嫌が悪い。

 しかし、どうにかして協力をしてもらいたい。妖狐はとても強いと聞く。その協力があればリリアでもゴブリンを倒すことができるだろう。

それに悪影響を引き起こした本人にちゃんとその対処をしてもらうのが道理だろう。


「妖狐さんがこの森にすんだせいでこの先の村の人たちが苦しんでいるんです」


「でも、それ僕に関係なくない?面倒くさいし…」


 そう言った妖狐は思い直したように少し考える顔をした。

 そしてリリアに向かって言う。


「まあ、君が僕に仕えてくれるんだったら、協力してもいいかなあなんて」


「わかりました。もし協力してくれるのなら考えます」


「よしっ、のった!」


 そう言って妖狐は前足でガッツポーズのようなものをする。

 本人に行ったら怒られるだろうが少しかわいい。

 取り敢えず協力してもらうことにはなった。仕えるかどうかの話は考えるといっただけなので了承はしていないのだが、それでもいいようだ。

 実際仕えるかどうかは終わった後に考えればよい。


「ありがとうございます!それじゃあ早速行きましょうか。ゴブリンの住処はこの辺という事ですから、すぐに見つかるでしょう」


 リリアが森の中へと捜索に入ろうとする。

 すると、


「そんな面倒くさいやり方じゃなくて、もっと簡単な方法にしようよ」


 と、妖狐が引き留めてきた。


「そういうのはこうやって探すんだよ」


 妖狐は顔を空に向けたかと思うと、上空に大量の魔力を放出した。

 リリアはこの魔法を使っているのを何度か見たことがあった。

確か探知魔法である。自分が意識したものの場所を魔力が届く範囲で探すという便利な魔法だ。

以前見たのは人間が使ったものであるから、これよりももっと小規模ではあったが。


「あった。こっちだよ」


 探知が終わった妖狐はリリアにそう言う。

 前を先導する妖狐に、そう言えば、と言いリリアは尋ねる。


「まだ妖狐さんの名前を聞いていませんでしたね。私はリリアと言います。あなたの名前はなんていうんですか」


「名前?そうだな…メイスイ。そう昔呼ばれたことはあるかな」


「メイスイさんですね。これからよろしくお願いします!」


 そう話をし、一人と一匹は目的の場所を目指し歩き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る