13 【報告】新しい仲間が増えました②
目的地へと着き、リリアは馬車の荷台から降りる。
そこは農業を主に主体としているような小さな村であった。
建物は整然とは並んでおらず、中にはとても古く、強い嵐が来れば倒れてしまうのではないかろかと思われるようなものもある。
ここ十数年の魔導具の進化と普及で一般の人々の生活水準が上がったとはいえ、地方に行けばこのような場所があることはリリアも当然知っていた。しかし、いざそこに行き実際に見てみると何か心に来るものがある。
「リリアお姉ちゃん、こっちだよ」
ラズに案内されて、村の中の一つの建物に入る。
「ごほっ。ラズ帰ったのかい」
奥から一人の女性が出てくる。
「ただいまお母さん。だめじゃん、寝てないと」
「ありがとうね。それよりそちらは…」
「冒険者のリリアお姉ちゃんだよ。この村のことを助けに来てくれたんだ」
ラズに紹介されてリリアは挨拶をする。
「お母さん、はじめまして。ローディアの町から依頼を受けに来たリリアです」
「そうですか。わざわざ来ていただきありがとうございます。私はこの子の母親のレイラと申します」
ラズの母親――レイラがまた咳をする。体調がとても悪いのは明らかだ。
「お母さんはいいから寝てて」
そう言ってラズはレイラを押しながら奥の部屋へと連れていった。
リリアもそれについていき部屋の中に入る。
部屋の中にはベッドが3つ置かれており、その中の一つにはラズよりも小さな女の子が寝ていた。
女の子は眠ってはいるものの、ときどき咳をしたり呼吸を速めたりととても苦しそうな様子である。
レイラをベッドに寝かせたラズがリリアの元に来る。
「この二人が僕の家族のロロとお母さんなんだ。数日前からずっとこんな調子で辛そうで…。リリアお姉ちゃんお願い、治して」
リリアはラズの頭にポンッと手を置きなでると、
「まかせてください」
と、言った。
リリアは二人の前に行き、手をかざす。そして、聖力を練り始めた。
もう聖魔法を使わなくなって3週間程度。しかし、これくらいはブランクのうちに入らない。なんせ5年間も毎日使い続けた魔法なのだから。
「ヒール」
リリアが呪文を唱えると手から光が出て魔法が発動する。そして、光がすぐに収まった。
見るとロロの顔色が幾分か良くなっており、呼吸も安定している。
「…楽になった?」
そう呟いた母親のレイラの方を見ると、彼女も同じように顔色がよくなり咳も止まっていた。
ラズがロロの元に駆け寄る。そして、容態を確認すると、レイラの元へと走り抱き着いた。
「お母さん!よかった。ロロも、ロロもよくなっているよ」
その目からは涙があふれ出ている。
ギルドで見せた涙とは違う涙に、依頼を受けてよかった、とリリアは思った。
「本当に、本当にありがとうございます!」
泣きじゃくるラズを抱きしめながらレイラが言った。
「元気になってよかったです。ですがまだ体力が回復したわけではないので安静にしていてくださいね。それと部屋の換気をするといいかもしれません。空気の悪いところは病気の原因になりますから」
ありがとうございますありがとうございます、と何回も言うレイラといったん別れ、リリアは家を出た。
ラズの家族は救ったが、依頼はまだ完了していない。達成条件は村の人々を病気から救う事なのだ。
「さて、始めましょう」
そう呟き、リリアは空へと手をかざす。
今みたいに一人ひとり治していってもいいのだが、それだと少し時間がかかってしまう。それに、村全体を浄化するにはこっちの方がいいだろう。
そう考えたリリアは、手にさっきより多くの聖力を集める。そして、そのまま魔法を発動した。
村全体を明るい光が包み込む。その光はしばらくあたりを照らしていたかと思うと、しばらくして消えた。
さて、これで村全体の治療は終了である。
依頼達成の報告をしようとラズの家に入ると、ラズが駆け寄ってきた。
「リリアお姉ちゃん、さっきは言いそびれちゃったけどお母さんとロロを直してくれて本当にありがとう」
そう言うラズの目は赤くはれていた。
「いえ、依頼ですから。それにみんなが元気になってよかったです」
「それでね、お姉ちゃん。村の他の人たちの治療もお願いできる?」
「大丈夫ですよ、もう終わりましたから」
「そうか、もう…えっ!?」
ラズが驚いたような顔をする。
「そうだラズ君、一応村のみんなを見てきてくれますか。万が一魔法がきいていない方がいたらいけないので」
「う、うん。わかったよ」
そう少し混乱しながらそう答えたラズは、他の人たちを確認しに家を出ていった。
リリアはレイラとロロの具合をもう一度ちゃんと見ながらその帰りを待つことにした。
しばらくすると、バンっと勢いよく扉があきこちらに足早に向かう音がしたと思うとラズが顔をのぞかせた。
「すごいよ、リリアお姉ちゃん。本当にみんな良くなってる」
そう言ってラズが抱き着いてきた。
リリアは少し驚いた後、優しく抱き返し頭をなでてあげる。
しばらくするとラズは離れ、照れた顔をした。
思わず抱き着いてしまったのが恥ずかしかったのであろう。
「そ、そういえばリリアお姉ちゃん。村長がお礼を言いたいから来てくれって」
どうやら思ったより大ごとになったのかもしれない。
「わかりました。じゃあ、ラズ君。案内してくれますか?」
「もちろん!」
リリアはラズとそう話すと、村長の家に向けて出発した。
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