12 【報告】新しい仲間が増えました①

 初めての依頼をこなしてから1週間ほど。リリアは他の依頼もいくつか受けながら過ごしていた。

 猫探しに家の掃除、2回目の薬草採取。

 Eランクに上がったとはいえ、大冒険をするような依頼はまだ受けられない。今はまだ街やその周辺で依頼をこなすのみである。

 しかし、聖女として働いていたからあろうか。他の人の役に立つという事はとてもうれしい。今まで関わったことのない人とも知り合いになれるし、意外と冒険者という職業は向いているのかもしれない。

特に猫探しの依頼は楽しかった。突然いなくなった飼い猫を探してほしいとの内容であり、見つけるのはなかなか苦労した。しかし、達成後にはもふもふさせてもらえたし、ペットっていいなあと思ったのだ。

そんなリリアは今日も冒険者ギルドの掲示板に来ていた。そろそろここを離れて他の場所に行ってみようと思うのだが、その前にもう1つ2つ依頼をこなそうと考えていた。

今回はどれにしましょうか、とリリアが悩んでいると、


「お願いします」


 と、大きな声が聞こえてきた。

 声の方を見ると、まだ10歳前後であろうかと思われる男の子が依頼受付のカウンターで話していた。


「村を助けてほしいんです」


「そうはいってもですね、この依頼料だとおそらく依頼を受けて頂くことが難しいかと…」


「それじゃあ妹だけでもなんとか。僕の大切な妹なんです」


「それでも難しいかなと思います。治療ができる魔術師の方は貴重ですし、それゆえみんな冒険者ランクが高くて依頼料が高くなってしますんです」


「そんなあ…」


 男の子がその場にうずくまる。

 カウンターのお姉さんは申し訳なさそうな顔をしていた。

 リリアは男の子と方へと近づきしゃがむ。


「どうしたんですか?」

 

 そう尋ねると、男の子が顔を上げた。その目からは涙があふれていた。


「村のみんなが病気になっちゃったんだ。だから、冒険者の人に直してもらおうと思ったんだけどこれじゃ足りないって…」


「そうなんですか」


 立ち上がりギルド員のお姉さんに尋ねる。


「因みにこの子の依頼料だとどのランクの方までに依頼できますか?」


「これだと良くてもDランクまでかと。それでも受けてくださる方が少ないと思いますので、Eランク依頼となると思いますが、それだと治療の魔法を使える方がおそらくいらっしゃらなくて」


 そう聞き、リリアは少し考える。

 治療なら自分にでもできる。聖女を辞めたとはいえ、その力はいまだに一切衰えてなどいない。

 それならば受けていいのではないだろうか。

 ちょうど今の自分のランクはEだから依頼料と見合うだろう。あまり安く受けるのもこれからの活動に響きそうだが、これでも元聖女である。苦しむ人を見捨てるのはどうも忍びない。


「それじゃあ、その依頼、私が受けてもいいですか」


「えっ、いいの!?」


「よろしいのですか?」


 男の子とお姉さんが驚いたように同時に聞いてくる。


「ええ、もちろんです。困ったときはお互い様ですから」


「お姉ちゃん、ありがとう」


 男の子にお礼を言われる。


「承知いたしました。では正式な依頼として受け付けさせていただきますので、冒険者カードを提出していただけますか?」


 リリアが自分の冒険者カードを渡すと、お姉さんは依頼の作成と受付の作業を始める。

 その間にリリアは男の子に尋ねる。


「名前はなんていうんですか?」


「俺の名前はラズっていいます」


「そうですか。私はリリアと言います。これからよろしくお願いしますね」


「よろしくリリアお姉ちゃん。依頼を受けてくれてありがとう」


「いえいえ、今はまだ受けただけで、こなすのはこれからですから」


 そんな話をしているとギルド員のお姉さんに話しかけられた。


「では、依頼の受付が完了いたしました。達成条件は村の方々の病気の治療という事になっております」


「わかりました。ありがとうございます」


 返却されたギルドカードを受け取り、リリアはラズの方へと向く。


「では、早速村の方へ行きましょうか。ラズ君、案内お願いしますね」


「うん」


 そう言葉を交わし、2人はギルドを出ていった。




 リリアは今、目的地であるラズが住む村へと向けて馬車に乗っていた。

 ラズは村を通る商人のおじさんのこの馬車に乗ってローディアに来たらしい。


「ラズ君、ではもう一度依頼内容について詳しく教えてもらえますか?」


「うん。10日くらい前なんだけど、ある村の人が病気にかかったんだ。軽い病気ならよかったんだけど、その人は全然治らなくて、今度は他の人にうつり始めたんだ」


 ラズの顔が暗くなり、少し下を向く。


「そしたら僕のお母さんと妹のロロ同じ病気になっちゃって。特にロロは小さいから悪化しちゃったみたいでとても苦しそうなんだ」


「そうなんですか」


「僕とあと数人の人はまだ病気にかかっていないんだけど、特に元気だった僕が代表して依頼をしに行くことになったんだ」


 ラズが顔を上げてこちらを見た。


「だからリリアお姉ちゃん、村のみんなを、ロロをどうか助けて」


 縋るような眼でラズが見てくる。

 リリアはそんな彼に向かって笑いかけながら、


「まかせて下さい、私はこれでも治療の魔法は少し得意なんです」


 と、胸を張ってそう答えたのであった。

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