王都にて①
「新しい聖女の任命。よくやってくれた、イルビッヒよ」
「ありがたいお言葉、誠に嬉しく思います」
コレスティア王国王都。そこの王城にある王座の間でイルビッヒは国王ヴァルドに謁見していた。
リリアが聖女を辞めさせられてから数日後、ヴァルドが呼び出したのだ。
「わたくしもリリアとかいう元平民には聖女の座は全くもってふさわしくないと思っておりましたので。今まで平民が聖女をやってこられたのがおかしいのです。本来ならば自ら辞退するものをのうのうと続けておりましたので、強硬策に出たまでであります」
「うむ、確かにおぬしの言うとおりだ。聖女の座は高貴なる正当な血をひくものにこそふさわしいからな」
まったくもってその通りだ、と二人は笑いあう。
「それで王、約束通り私への見返りはしていただけるのでしょうか」
「心配するでない。次の教皇の選出の時は王家が後ろ盾となりお前を推薦してやろう」
「ありがたき幸せ」
イルビッヒがリリアを聖女から引きずりおろして、シンシアを新しくその座に据えたのには訳があった。
もちろん、リリアが聖女であるという事に耐えられなかったという事もある。貴族出身のイルビッヒは、元とは言え平民であった者と同じような階級であることが昔からどうにも許せなかった。
そしてもう一つの理由。それは王家に自分を次の教皇へと推薦してもらうためであった。
現在、教皇は他の人がその座についているが、もう高齢という事でいつ代が変わることになってもおかしくないと言われていた。そして、そうなると次の教皇候補は枢機卿たちである。
しかし、枢機卿は誰もが強い影響力を持っており、彼らを押しのけてトップへと踊り出るのは至難の業である。
特にマルコスは民からの信頼も厚く、何より聖女を見つけ出したことから次の教皇に一番近いと言われていた。
そんなマルコスを出し抜くためには自分にも何か成果が必要であった。
そんな理由から、イルビッヒは推薦してもらうことを見返りに王家に協力し、シンシアを新しい聖女にしたのだ。
「ときにイルビッヒよ。シンシア嬢は本当に聖力が高いのだろうな。もし、リリアより劣るとのことであるならば、民から批判され国が傾くことになるぞ」
「ご安心ください。正式な魔導具を使っての測定の結果でございます。間違いはございません」
「それならばよい」
数年前、リリアも使用した魔導具。それと同じものを使用した結果なのだ。シンシアがリリアより強い聖力を持っていることに間違いは万に一つもないだろう。
「とにかく、今回はご苦労であった。もう下がってよいぞ」
「はっ」
そう言われ、イルビッヒはその場を後にした。
コンコンッ、と扉をたたく音がする。
「入っていいぞ」
「失礼します」
ケイリーが入室を許可すると、入ってきたのは新しく聖女に選ばれたばかりのシンシアであった。
「ああ、シンシア。会いたかったよ」
「私もですわ、殿下」
二人はあつい抱擁を交わす。
シンシアが聖女に選ばれて数日。もう、彼女は聖女としての務めを行い始めているようだが、時間を作っては度々自分の執務室へと足を運んでくれていた。
忙しいからと自分のスケジュール管理の甘さを棚に上げては会いに来なかったあの平民とはまったくもって違うな、とケイリーは思う。
「シンシア、今日の仕事はいいのかい?」
「大丈夫ですわ、殿下。わたくしにはやはり聖女としての才能があったようですの」
「そうか、やはりな。リリアなんていらなかったな」
「もう、殿下。他の女性のことなんて放っておいて私を見てくださいまし」
「ああ、すまないなシンシア」
そう言うとケイリーはシンシアの唇に口づけをする。
シンシアの頬が薄く赤色に染まる。
こういうところも本当に愛しいとケイリーは思う。
「殿下、今日はクッキーを焼いてまいりましたの。お仕事の休憩にどうですか?」
「そうだな。もらうとするよ」
手にバスケットを持ちながら言うシンシアにケイリーは答える。
「ところでシンシアは俺のことを名前で呼んでくれないのかい」
「ケイリー様…」
そんな甘いやり取りが繰り返される。
本当に平民となんか結婚することにならなくてよかった。これで自分の将来は幸せと安定に満ちている。
そう思いながらケイリーはシンシアを連れ、中庭へと向かうのであった。
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