10 顔出し(?)をしてみた①
とある宿の部屋の中、リリアはガサゴソと鞄の中を漁っていた。
中からあるだけお金を外に出し、机の上に積み上げていく。
「これは、少しまずいのではないでしょうか」
リリアが呟いた。
所持金が減る速度が想定の数倍速いのだ。聖女を辞めた際に持っていたもののもう5分の1を使ってしまった。
ここローディアにきてまだ1週間とちょっと。このペースで減っていったら2ヶ月持たないのではないだろうか。
リリアはここ数日の出来事を思い出す。
ローディアに着いてからは動画を撮影しがてら街の中を観光していた。比較的小さい街のはずなのだが、見えるものほぼすべてに手を出していたら意外とお金を使っていたようだ。
あともちろん、王都での魔導撮影機の購入も大きな買い物であった。最近で一番高い買い物はこれであろう。
しかし、一つ気付いたことがある。
それは生きるのにはたくさんのお金が必要であるという事だ。
聖女として生活していたころは、王宮の敷地内に住んでいたこともあり、生活の面ではかなり王家や教会に援助してもらっていた。だからそれほど出ていくお金を気にしたことはなかった。
だけど、いざ一般人になってみると、1日三食のご飯に宿の宿泊代、その他もろもろの生活用品などなど1日だけで意外とお金を使うのだ。これが毎日なのだから出費はすごいことになる。
王都を出るときは、お金は十二分にあるなんて思っていたが、これはそろそろ働かなければならないかもしれない。
生きるという事は大変である。
リリアは取り敢えず出したお金をすべて鞄に戻す。
そして立ち上がり、
「依頼を受けましょう!」
と自分を鼓舞するように言うと、部屋を出ていった。
「どの依頼がいいのでしょうか」
リリアはギルドの依頼書掲示板で依頼を探していた。
掲示板に雑多に貼られている紙には依頼内容とその難しさを示すランクが書いてある。
ランクはFからSSまであり、今リリアは一番下のFである。
そうなると受けることのできる依頼は少ない。一番信用の低いランクであり、また、多くの冒険者はすぐに上のランクに行くからそもそもFランクの人数はかなり少ないのだ。
ふと目に留まった依頼書をはがす。
そこには『薬草求む』と書いてある。どうやらギルドが出している常設以来の様だ。
リリアはその紙を持ってカウンターに持っていく。
「すみません、この依頼をお願いします」
「はい、承知いたしました。薬草採取の依頼ですね。冒険者カードはお持ちですか?」
「はい、これですね」
「ありがとうございます。リリアさんですね。依頼の受注が完了いたしました。本日中に指定された数以上の薬草をお持ちいただくことで依頼達成となります。では、気を付けていってらっしゃいませ」
「いってきます」
返却されたギルドカードを受け取り、リリアはギルドを出る。
街の外を目指しながら改めて依頼書を見る。
最低納品数は薬草20株。薬草であれば低級のものでもなんでも構わないらしい。
初めての依頼にはふさわしい内容だ。
そう言えば薬草はこの辺だとどこで取れるのだろうか。
まあ、たいていどこにでも生えているものである。近くの森にでも行けば見つかるのではないだろうか。
城門につくとリリアは警備をしている衛兵に近づいた。そして尋ねる。
「すみません、この辺に森とかってありますか?」
「森かい?ああ、薬草採取の依頼か」
「そうですが…なんでわかったんですか?」
「だって、君薬草採取の依頼書を持っているじゃないか」
そう言われてリリアは自分の手元を見る。確かにこれを見れば誰でもわかるだろう。
「薬草採取ってことは、さては冒険者になりたてだな。それならば、初心者用の場所を教えてあげよう」
そう言うと衛兵は指をさしながら説明する。
「ここから北の方へ1,2キロ行ったところに森があるんだが、そこがお勧めかな。薬草は採れるし危険な魔物はいないし初心者にとって安全な場所だろう」
「わかりました。ありがとうございます!」
「とはいえ危険がないわけじゃないから気を付けて言ってくるんだよ」
そう衛兵と言葉を交わし、リリアは北の方へと歩を進めた。
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