11 顔出し(?)をしてみた②

 しばらく歩いていると森に着いた。恐らくこれが衛兵の言っていた場所であろう。

 リリアは中へと足を踏み入れる。

 森は木が鬱蒼と生い茂っているわけではない。そのため、日が差し込んでおり林床は明るい。

 ふと足元を見る。まだ、それほど奥へと進んでいないのにもう薬草が生えているのを見つけられた。

 それだけここが自然豊かな所であるという事だろうか。


「さてと」


 リリアは鞄の中から魔導撮影機を取り出す。

 別に薬草採取だけに来たわけではない。どうせなら動画も撮影するべきだろう。

 旅動は今でこそ商品の紹介やただの旅の風景を流すだけの動画など様々なものがあがっている。しかし、そもそも旅動は、当初はこういう依頼をこなしている風景を投稿するために作られたものであるのだ。

 今まであげてきた動画はどちらかというと他人に向けた動画というより、自分のための動画を大衆に向けて公開しているものであった。そろそろ旅動の投稿者らしい動画を上げてみてもいいだろう。

 リリアは魔導機撮影機を起動すると、最近新しくつけたばかりのボタンを押す。そして手を放す。

 撮影機が浮き始めた。

 最近のお金の減りが速い原因の一つはこれもあろう。

 前の手持ち撮影でもよかったのだが、片手がふさがってしまうという事と、自分を取ることが難しいという難点があった。だから、魔道具店に行き、浮いて使用者の魔力での操作により自動で撮影してくれるという機能を付けたのだ。

 撮影機をその場に浮かせたリリアは、自分が映る範囲へと移動する。そして、鞄の中を漁るとお面を取り出した。

 かわいらしい模様のねこのお面。

 この前のお祭りで買ったものだ。

 やはり冒険者の動画配信者としていつか顔出しをしてみたいと思っていた。しかし、顔を出したらそれこそ多くの人に身バレをしてしまうことは必至であろう。

 だからこそのお面である。

 口元以外顔の全てが隠れるこれならばそうそう見破られることはないだろう。

 さあ、撮り始めよう。

 そう思いリリアはお面をつけると、魔力で操作し撮影を始めた。


「皆さんこんにちは、あ、初めましてですかね。えっと、リアと申します。今日はですね、薬草採取の依頼をしていきたいと思います」


 なんだろう。撮影をし始めた途端にちょっと緊張し始めてしまった。

 目の前には誰もいないというのに、これを見るかもしれない人たちのことを考えると、どうにも身構えるようになってしまう。


「えっと…じゃあ始めていきましょうか」


 そう言いリリアは少しだけ森の中へと進む。

 魔導撮影機はちゃんと後ろをついてきて撮影してくれているようだ。


「今日の依頼は、薬草20株という事でね、薬草ならなんでもいいらしいです」


 低級の薬草を見つけしゃがみ込む。

 魔導撮影機が近くに寄ってくる。


「見つけました!低級ですが、どんどん探していきましょう」


 この調子でリリアは次々に採取を続けていく。

 なんだか進めていくうちに固くなっていた体もほぐれてきた気がする。これならいつも通り進められるのではないだろうか。


「あっ」


 そう呟くとリリアは足元の植物を引き抜き、採取してある薬草と並べながら魔導撮影機の方に映す。


「皆さん知っていますか。こっちが低級の薬草で、こっちがドクヤミソウです。とても似ていますがドクヤミソウには名前の通り毒があって、体内に取り込むと最悪死に至るんです」


 こう言った知識は聖女時代に学んだものである。

 聖女として基本的なけがや病気は聖力を使って治してしまっていた。しかし、それでは回復させることのできる規模に限りが出てしまう。だからこそ薬学も学んでいたのだ。

 まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。


「でも、安心してください。この2つは簡単に見分ける方法があるんです。葉の脈の部分を見てください。薬草はどのランクのものでも脈が枝の様に伸びています。だけど、ドクヤミソウは葉の脈が平行になっているんですね。このほかにも見分ける方法があってですね――」


 そうやって、リリアは薬草とドクヤミソウの見分け方、他の毒草との見分け方などを説明した。

 自分の専門分野だとどうもたくさんしゃべり続けてしまう。まあ、元であるが。

 ふと我に返る。

 こんなに話しては見ている人は飽きてしまうのではないだろうか。旅動は基本的に旅を楽しむ動画なのだ。自分語りのようなこともそこそこにしなければ。


「ごめんなさい、ちょっとしゃべりすぎましたね。じゃあもう少しで必要な量が集まるので続きをやっていきましょうか」


 そう言ってリリアは薬草採取を再開する。

 なんだかこんなに話してしまって恥ずかしい。


「そういえば」


といって、リリアは気持ちを切り替える。


「せっかくだから低級以外の薬草も採取していきましょうか。といっても探すのには少しコツがいるんです。まず、中級のものですね」


 周りを見渡し低級の薬草が集まっている場所を見つける。


「中級の薬草は低級のものの力を吸った結果できることが多いんです。だから、こういった低級の薬草が集まっているところをさがすと…このように見つかります」


 続いてリリアは周辺で大きな木を順番に見ていく。


「次に上級の薬草の見つけ方ですね。上級は中級とは違って低級の力を吸い取っても育ちにくいんです。ですから、大きな木の栄養を吸うことが多いんですが…」


 しばらくそのまま捜し歩き、目当てのものを見つける。

「ありました!上級は木から栄養を吸うために、こうやって木のうろの中とかにあることが多いです」


 採取した上級の薬草を鞄の中にしまう。


「あ、いつの間にかたくさん採取していましたね」


魔導撮影機の方へと向き直る。

 魔力で操作し、撮影機を少し離れたところに移動させる。


「という事で、薬草採取が終わりましたので、あとは納品をしてきますね。なんだか少し語りすぎて決まったような気もしますが…皆さん、楽しんでくれましたか?」


 撮影機に向けて小さく手を振る。


「では皆さんまたお会いしましょう!」


 撮影を停止する。

 リリアは、ふうっ、とその場に座り込んだ。

 緊張はほぐれたと思っていたが、どうやらそんなこともなかったようである。

 思ったより疲れた。

 少し休み、リリアは立ち上がる。


「さあ、納品しに帰りましょう」





「お帰りなさいませ。納品ですか」


 冒険者ギルドに帰りカウンターに行くとギルド員のお姉さんが聞いてくる。


「はい、薬草採取の納品です」


 そう返答し、リリアは鞄の中からギルドカードと一緒に、採取した薬草を取り出した。


「これでお願いします」


「はい、承知いたしました」


 そう言うとお姉さんは薬草を確認し始める。

 しばらく待っていると、声をかけられる。


「確認いたしました。低級の薬草の他に中級や上級のものもございましたのでそちらの分は報酬を上乗せさせていただきますね」


「本当ですか!ありがとうございます!」


 たまたま持ってきただけだが、思わぬ収入となった。


「それにしてもすごいですね。Fランクの方が低級以外の薬草を見つけられることはまれなんですよ」


「そうなんですか?」


「はい。たまに中級を持ち帰る方はいらっしゃいますが、上級となると滅多にいません」


 確かに、薬学を学び始めたころはリリアも上級の薬草を探すのに苦労した気がする。それだけ知識のない人には見つけるのが困難であるという事だろう。


「という事で、初めての依頼の完了を承りましたので、冒険者ランクが一つ上昇となります」


 そう言ってお姉さんはギルドカードを手元の魔導具に乗せると操作をする。

 そして、カードを返される。見るとさっきまでFと書かれていた場所がEになっている。


「これからも依頼頑張ってくださいね」


「ありがとうございます!」


 報酬と新しくなったギルドカードを受け取ったリリアは、ルンルンとしながら次は旅動の投稿をするためのカウンターに行く。


「すみません、動画の投稿をお願いします」


「承知いたしました」


 そう言って投稿の操作を始める。

 依頼を受けるのは今回が初めてであったが、この動画投稿のカウンターにはもう何回も来ている。

 だから、投稿の手順はもう慣れたものだ。

 それに、ここのギルド員のお姉さんとも仲良くなっており、つい先日はアミリという名前を教えてもらった。


「動画の投稿が完了いたしました。またよろしくお願いしますね」


「ありがとうございます」


 アミリに対応してもらったリリアはその場を離れた。

 初めての顔だしの動画であったが、意外と楽しかった。

まあ、緊張したし、お面をつけているから顔出しとは言えないかもしれないが。


「今日は疲れました」

 

 そう呟いたリリアは、宿へと戻るのであった。

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