8 初めての動画を投稿してみた③

 ガタンと大きく揺れ、馬車が止まる。

 リリアは馬車の荷台から降りると、


「ん~~」


 と、一つ伸びをした。

 日が沈み始め、辺りは暗くなりつつある。

 昼前に王都を出た馬車は中間地点として途中の村に立ち寄っていた。今日はここで一泊して明日の朝、またローディアを目指すらしい。

 とりあえず今日寝泊まりできる場所を探さなければならない。

 そう思い宿屋を探す。

 幸いにも宿はすぐに見つかった。比較的小さな、食堂も併設している、こういう村にありそうな一般向けの宿である。

 リリアは扉を開き中に入る。


「いらっしゃい、お客さん。泊りかい、それともごはんのみかい?」


 忙しそうに働いている女将らしき人が聞いてくる。


「一泊でお願いします」


 リリアはそう答える。


「わかったよ。ちょいっと待っといてくれ」


 カウンターの前でリリアがしばらく待っていると、急ぎの仕事を一段落させた女将がこちらに来る。


「待たせてしまってすまないね」


「いえ、大丈夫ですよ」


「そう言ってもらえるとありがたいよ。実は今日村でお祭りをやっていてね。だからいつもより忙しいんだよ」


 女将はそう言いながらカウンターの引き出しの中をごそごそと探る。


「部屋は2階に上がってすぐ右の部屋だよ。一泊銀貨1枚だね」


 リリアはお金を渡し、引き換えに鍵をもらう。


「ありがとね。まあ、高級な宿じゃあないけどゆっくりしていってよ」


 そう言うと女将はまた食堂の方へ働きに戻ってしまった。

 鍵を受け取ったリリアは2階に上がり教えられた部屋の中に入る。

 ベッドといす、そして机だけがある小さな部屋。昨日まで住んでいた屋敷とは比べ物にならないほど質素な部屋である。

 しかし、これぞ旅、という感じがする。だからだろうか。何となくワクワクしてくる。

 リリアは椅子に腰を掛けて一息をつく。

 まだ、夕方である。

 夕食を食べてもう布団に入ってもいいが、村を見て回りたい。

 さっきの女将の話ではどうやら今日は祭りのようである。参加してどうせなら動画を撮ってみようと思う。

 行く先々で面白いなと思ったことややってみたいと思ったことなど、なんでも動画にして投稿したいというのが当初の目的だったのだ。最初のものとしてはとてもいい題材なのではないだろうか。

 そう考えたリリアは取り敢えず夕食を食べに1階へと降りて行った。




 夕食を食べたリリアは魔導撮影機を持って外に出た。

 村の中心の方へ行くと人が集まっており出店もいくつか出ている。

 魔導撮影機のボタンを押し撮影を始め、歩き始めた。

 片手で持てるほどの大きさとはいえ、撮影機を持ちながら歩くのは初めてである。慣れていない行為であるし、周りの人にもなんだか見られているような気がして少し恥ずかしい気がする。

 できるだけ他の人の顔を移さないように撮影機を持ちながら祭りの中を進んでいく。

 村とはいえ、かなりにぎわっている。

 ここ10数年の魔導具の進化により、いたるところで生活が便利になっていっている証拠であろう。


「お、そこのお嬢ちゃん。一本どうだい?」


 突然声をかけられる。

 声の方を向くと出店のおじさんが手をこまねいていた。

 近づくといい匂いが鼻を刺激した。見るとどうやら串肉を売っているようだ。


「わぁ、おいしそうですね。これ何のお肉ですか?」


「これはな、うちの村で育てた豚の肉だ。今日は収穫祭だからな。新鮮な肉を使っているからめちゃくちゃうまいぞ」


「いいですね。一本頂けますか」


「まいど!」


 お金を払い、豚串肉を一本もらう。

 リリアはその場から少し離れ人の邪魔にならない場所に行く。

 手に持つ串からはものすごくいい匂いがしている。


「いただきます」


 そう言ってリリアは肉にかぶりついた。


「っ!んん~~!!」


 あまりのおいしさに唸る。

 柔らかくてかつ中からうまみを含んだ汁があふれてくる。それでいて油っぽ過ぎず、いくらでも食べられそうだ。

 リリアは止まらず一本すべて食べ終えてしまった。

 食べ終えてから気付く。

 食レポをしていない。

 今まで見てきた動画の中では、おいしいものを食べたときは視聴者にも伝わりやすいようちゃんと言葉にしていた。でも、自分はあまりのおいしさにそれを忘れてしまったのだ。

 まあ、いいだろう。一本目の動画なのだ。好きなようにやることも重要だ。

 そう前向きに考えると、また祭りの喧騒の中へとリリアは戻っていった。

 出店は食べ物の他にもいくつかあった。

 中には子供たちが集まって楽しそうに遊んでいるところもある。

 ふと一つの出店に目が留まる。


「あれいいですね」


 そう言うと、リリアはそちらへと向かっていったのであった。




「ふう、疲れました」


ひとしきり祭りを楽しんだリリアは宿のベッドに倒れこむ。

夕食を食べてから行ったというのに、串肉の他にも色々おいしそうなものがあってたくさん食べてしまった。もう満腹である。

それに出店の人や参加している人など、たくさんの人と話すこともできた。

とても楽しい祭りだった。

そうだ、と思いリリアは魔導撮影機を手に取る。

今日撮ってきた内容を確認してみたい。なにせ初めてとった動画なのだ。

撮影機を少しいじり、動画を再生する。

聞こえてきたのは祭りの喧騒と楽しそうな自分の声。自分の前に撮影機を構えていたから、映っているのは自分の視点と同じような映像だ。


「ふふっ」


正直言って、祭りを映しているだけの良く分からない映像。それでも、そこに映る人びとや自分の声を聴くと、なんだか楽しい気持ちになってくる。

 映像を一通り見終えると魔導映像機をアイテムバッグにしまう。

 一本目の動画としては楽しいものができたのではないだろうか。

 そう思ったリリアは明かりを消し、布団にもぐりこんだのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る