7 初めての動画を投稿してみた②
「いらっしゃい」
扉を開けるとカランコロンという鈴の音とともに店主の声が店内に響き渡る。
リリアは今、魔道具店に来ていた。
といっても、多くの人に対して広く展開しているような大きな紹介の店ではなく、こじんまりとした個人がやっているような店である。
ギルドの時と同じように道すがら知らない人に聞いてみたら、知る人ぞ知るという優良店を教えてもらったのだ。
店内に入るとぐるりと中を見渡す。
魔導リングといったものから業務用の調理器まで、店内にはそこ狭しと様々な魔導具が置かれている。
リリアはふと目当てのものを見つけると、その商品の前まで行った。
魔導撮影機。
動画を取るうえで一番欠かせないであろうものである。
それにしてもいろいろな種類があって、どれがいいのかわからない。
「すみません、少しいいですか?」
リリアは店の奥にいる店主に声をかけた。
およそリリアの4倍は生きているのではないかと思う老人はその声に気付くと、眼鏡をかけこちらにやってくる。
「お嬢さん、どうしたんだい」
「動画撮影用のカメラを購入したいのですが、どれがいいのかわからなくて…」
「ああ、そういうことかい。因みに何に使う予定かね?」
「旅動用の動画撮影に使おうと思っています」
「そうかい。それならこのあたりだね」
そう言うと店主はいくつかの撮影機を示しながらどういったものかを説明してくれた。
より鮮明に撮れるもの、野外撮影にも優れる耐久性の高いもの、長時間の持ち運びに便利な軽量なもの。
どれもよさそうでありまよってしまう。しかし、どうせなら初心者でも使いやすいものがいいだろう。
「私実は撮影機に触ったことがないんです。それでも使いやすいものってありますか」
「そうだったのかい。それならこれが一番いいだろう」
店主に小型のものを渡される。
「無駄な機能を省いて小型にした撮影機だが、性能と耐久性は高い部類のものだ。一つ前の型で少し安いが、最新のものにも決して劣らんよ」
初めての撮影機なら、これがいいかもしれない。
そう思ったリリアは
「これにします!」
と答えた。
「そうだ。撮影機を購入するのならこれも必要だろう」
店主はそういうと、魔導石と魔石を渡してくる。
「魔導石は撮影した動画を記録しておくためのもので、魔石は撮影機用のエネルギー源だ。これがなきゃ撮影機は使えない」
この2つはリリアでもよく知っている。
魔導石は魔法式を組み込むものとして、魔石はエネルギー源としてよく魔導具に組み込まれているからだ。
といってもエネルギー源として使用者の魔力を使う場合もあり、魔石を用いてない魔導具も多い。その代表例が魔導リングだ。
会計をするために購入するものを持ってカウンターの方へ行く。
店主が値段を計算しながら言う。
「まとめて買ってくれるという事で今回は安くしておくよ」
「いいんですか」
「もちろんだ。なんせこれからを作る若者への投資だからね。もし有名になったら、よければ私の店を紹介しておくれ」
「もちろんです!」
リリアはお金を払い商品を受け取る。
この店に来られたのは本当に幸運だった。教えてくれた人には感謝しなければならない。
店主にお礼を言い、店を出た。
冒険者登録に撮影用の魔導具。
いよいよ夢への第一歩を踏み出せるんだと思うと、心がワクワクで満たされていき、顔から自然と笑みがこぼれてしまう。
さあ、これで用意はできた。いよいよ王都を出るときである。
そう思っていると馬車乗り場に着いた。
そこにはたくさんの馬車と客が集まっている。
この馬車はみんな違う場所に行くものだ。特段どこに行こうかは決めていないからどれに乗ろうか迷ってしまう。
だけど、どうせなら運に任せてみてもいいだろう。
そう思いリリアは一番右の馬車へと近づく。
「すみません。乗りたいんですが、まだ空いていますか?」
「おお、もちろんだとも。ローディア行の馬車だが間違いは無いか」
「はい、大丈夫です」
ローディアと言えばここから比較的近くにある小さな街である。
聖女として過去に一度だけ言ったことがあったはずだ。
「OK。じゃあもう乗り込んでいてくれ。そろそろ出発だからな」
御者の言葉に従ってリリアは馬車の荷台に乗り込む。
他には数人客がいたが、足を延ばせるほどには空いている。
まだかな、と待っていると「さあ、出発するぞ」との声がかかり馬車が動き出した。
次第に速度が速くなっていく。
ガタゴトと舗装された道を走る馬車の規則正しい音が、次第に不規則になる。
荷台の開けた部分から後ろを見ると、どうやら王都の敷地から出たようである。王都を囲む城壁の城門が段々と小さくなっていくのが見える。
聖女として色々な所へ行くこともあったが、大体の時間を過ごした場所。ついにそこを離れるときである。
さっきまでワクワクしていた心の中に少しの淋しさが生まれる。
そんな少しの感傷に浸りながら、リリアは小さくなっていく王都を見続けるのであった。
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