6 初めての動画を投稿してみた①
元聖女となったリリアは王都の街道を歩いていた。
久しぶりの王都は人でにぎわっている。
といってもこれが通常だったようにも思う。
なにせ王都はもちろんコレスティア王国一の都市だ。人も物も多く集まってきている場所なのである。
リリアは周りを見渡し冒険者ギルドを探す。
昨日のうちにやることをある程度決めてきたのだ。とりあえず王都を出て他の都市に行って見ようと思う。しかし、その前に動画を投稿するための準備をしようと考えていた。
せっかく自由の身になったのである。どうせなら早く動画投稿を始めてみたい。
幸いにもお金は十二分に持っている。聖女時代に給料として出てはいたもののそんなに使い道がなかった貯金である。聖職者であったのにちゃんと給料をもらっていたなんてなんか不思議な気持ちではあるが、聖女も人間なのだ。お金がなければ生きていけない。
「すみません、冒険者ギルドはどちらにありますか?」
街道沿いに店を開いていた野菜売りのおじさんに道を聞く。
「冒険者ギルドかい?それならこの道の突き当りを右に行ってすぐだよ。でかい建物だからきっとすぐわかるさ」
「ありがとうございます」
「それより嬢ちゃん。これなんかどうだい。最近新しく入荷したナップルという果物なんだが、みずみずしくてうまいぞ。今ならまとめ買いで安くしとくよ」
リリアはどうしようか少し悩み、
「買います!」
と、答えた。
今はもうあれやこれや縛られていた聖女ではないのだ。何をしてもいいし何もしなくてもいいのである。
「まいど」
おじさんはそう言って、お金と引き換えにナップルを渡してくれた。
リリアはそれを受け取ると肩にかけていた鞄を開く。
リリアの持つ鞄は見かけよりも物を多く収納することができるアイテムバッグという魔導具だ。たくさん入れられるだけでなく重さもかなり軽減してくれる優れものである。
リリアが持つものは比較的質の高いもので、かなり多くの量を収納することができるようになっている。聖女時代に購入した数少ない高級品である。
ナップルを鞄に入れ再び歩きだす。
言われたとおりにしばらく歩いていると、それっぽい建物が見えてきた。
近づくと、『冒険者ギルド王都支部』と書かれた看板が掛けてある。これに間違いない。
扉を開けて中に入ると、外とはまた違った雰囲気になる。
見渡すと鎧を着た戦士や杖を持つ魔導士等々明らかに冒険者といった人たちがいた。
リリアはぐるりと回りを見まわし、“冒険者登録カウンター”と書かれたカウンターを見つける。そしてそちらの方へと足を向ける。
今日ここに来たのはもちろん冒険者になるためだ。もちろんこれから路銀を稼ぐために依頼を受けることもあるかもしれないということを見越してのことでもある。
しかし、本当の目的は動画を投稿することができるようになるためである。
旅動は現在、主に冒険者ギルドが運営するサービスである。だから動画を投稿するためには冒険者登録をしなければならないのだ。
今は商業ギルドに登録することでも投稿することができるようになってはいるが、元聖女の力を活かせるかもしれないとのことを考えて冒険者ギルドを選んだ。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが…」
カウンターに着くと、リリアはカウンターのお姉さんに話しかける。
「登録ですね、承知いたしました。ではお名前を教えていただけますか」
「はい。リリア・アステ…いえリリアです!」
家名を名乗りそうになって慌てて訂正する。
まだ書類上はマルコスの養子であるが、もう名乗らない方がいいだろう。
「はいリリアさんですね。……それでは魔力の登録をいたしますのでこちらに魔力を流していただけますか」
そういってお姉さんが小さなプレートを渡してくれる。見るとそこには自分の名前が書かれていた。
リリアはプレートをもらうと、両手でそれを持ち魔力を込める。
ちなみに聖力と魔力とは本質的には同じものである。魔力は個人によって違うものであって、それゆえにそれぞれ特性が違う。その中でも特に珍しく、魔物や魔族に最も有効であるという効果を持つ聖魔法が使える魔力のことを聖力と呼んでいる。
しばらく魔力を込めているとプレートが一瞬光った。
「はい、ありがとうございます。これで冒険者登録が完了いたしました。こちらの冒険者カードは冒険者としての証明書になりますので無くさないようお願いします」
「ありがとうございます」
「では続いて冒険者の説明をさせていただきますね。冒険者カードを所持しているとできることは主に3つあります。1つ目は身分証としての利用です。冒険者ギルドは国内各地にございますので、各都市に入る際などは身分証としてご利用いただけます。2つ目として依頼を受けることができるようになります。そして3つ目は当ギルドが管理する動画配信サービスでの動画の投稿ができるようになります。」
「動画を投稿するにはどうすればいいんですか?」
「はい、冒険者カードと一緒に映像または音声が入った魔導石をギルドにお持ちいただくことで投稿完了となります。どこの冒険者ギルドに持ち込んでいただいても問題ございません。他に何か質問はございますか?」
「いえ大丈夫です。ありがとうございました!」
冒険者カードを手に入れたリリアは満面の笑みを浮かべながらギルドを出た。
さあ、あと残すは撮影機材の購入のみである。
そう思いリリアは次の目的地へと足を向けた。
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