4 聖女ですが追放されてみた④

 王座の間の中へと続く扉が開かれる。

 リリアがその扉をくぐると、目の前には王座へと続く真っ赤なカーペットが敷かれていた。

 そのカーペットに従い奥へと歩いていく。

 王座の前につき、リリアは頭を下げる。


「ヴァルド王様。聖女リリアが召喚に馳せ参じました」


 よい、というヴァルドの声でリリアは頭を上げる。

 前を見るとそこにいたのは王座に座るヴァルドと王妃、その横に立つ第一王子のケイリーといった王家のメンバーであった。そして、ケイリーの隣に立つ見知らぬ女性。

 きれいな身なりからして貴族であることは間違いないだろうが、会ったことはないから王家の一員ではないだろう。

 誰だろうとリリアが心の中で首をかしげていると、ヴァルドが口を開く。


「リリアよ。お主をここに呼んだのは他でもない。聖女の任についてである」


「聖女の任についてですか?」


「そうだ。つい先日のことだが、聖なる力――聖力を持つ者がお主の他に見つかったのだ」


 そう言い、ヴァルドはパンパンと手を二回たたく。

 すると先程までリリアが誰だろうと不思議に思っていた女性が一歩前に出た。


「カレンデュラ公爵家が長女、シンシア・カレンデュラと申します。聖女リリアさん、お初お目にかかりますわ」


 カーテシーをしながらシンシアと自己紹介をした女性がリリアに挨拶をする。

 リリアも頭を下げて挨拶を返す。

 おほんっ、とヴァルドが一つ咳払いをし、注目を自分にもどす。


「シンシア嬢であるが、王家による測定の結果、リリアより聖力が高いことが確認された。したがって、お主の聖女としての任を解き、新しくシンシア嬢を聖女の座に据えようと考えておる」


 リリアの頭の中が一瞬真っ白になる。

(聖女の任を解く?そして新しい聖女が任命される?)


 つい昨日まで普通に聖女としての務めを果たしていたのだ。それに自分はまだ17歳という若い年齢である。聖女をやめるにはまだ早い。

だから、突然聖女としての任を解かれるなんてつゆほども思っていなかったのだ。


「なお、この決定については教会の枢機卿が一人、イルビッヒ氏の同意も得ておる。よって異論は認めぬ」


 イルビッヒという名前はリリアにも聞き覚えがあった。

 確か目つきの悪いおじさんである。時々教会に来ては不愛想な顔で見学して帰っていく人であったのを覚えている。

 それにマルコスとは馬が合わないようで、時々マルコスが愚痴を漏らしていた。


「また、それにともない我が息子、ケイリーとリリアの婚約についても白紙とし、ケイリーとシンシア嬢で新たに婚約を結ぶこととする」


 リリアがふと目を横に向けると、ケイリーとシンシアがお互いに目を合わせて嬉しそうな顔をしていた。

 ヴァルドが立ち上がり手を前に掲げる。


「改めて宣言をする。今を持って、リリア・アステルムの聖女の任を解く。そして、シンシア・カレンデュラ嬢を新たな聖女に任命する」


 ヴァルドの宣言が王座の間に響き渡った。

 ヴァルドからの宣言を聞き、ケイリーがニタニタとした笑いを浮かべながらリリアに向かって言う。


「やはり平民なぞに聖女という高貴な立場は分不相応だったようだな。これからは由緒正しき公爵家の令嬢であるシンシアが聖女を務めるからお前はもう用済みだ」


 そう言われたリリアの体は小刻みに震えている。


「リリアさん、今までありがとうございました。これからはわたくしが精一杯聖女を務めさせていただきますから安心してくださいませ」


 美しくカーテシーをしながらシンシアがそう言った。

 言葉ではお礼を述べているが、その顔には隠しきれていない程のリリアを蔑む気持ちが表れていた。

 この2人だけでなく誰もが、リリアを蔑むように見ていた。先程まであくまで堂々とした態度でリリアに接していたヴァルドからも同じような空気が出ている。

 まだ、リリアは何も言わず顔を下に向けたまま震えていた。


「どうした、黙って。そんなに聖女という立場を奪われたのが悔しかったか」


 王座の近くから離れ、リリアの方へと向かいながらケイリーが言う。


「なんか言ったらどうだ」


 リリアの元にたどり着いたケイリーが彼女の顔を覗き込む。

 突如勢いよくリリアの顔が上げられる。そして、満面の笑みを浮かべながら彼女は言ったのであった。


「よろしいのですか!?」


 静寂が訪れる。

 リリアがあたりを見渡すと誰もの目が点になっていた。


「な、なにを言っているんだお前は。頭でもおかしくなったのか!?」


 我に返ったケイリーが言う。

 続いてその場には彼の意見に賛成する空気感が漂い始める。


「おかしくなんてなっていませんよ、ケイリー殿下。ただ、嬉しかったのです」


「う、嬉しいだと」


「はい、だって私の代わりに安心して聖女の役目を任せられる方が見つかったのでしょう。喜ばしいことではないですか」


 依然周りからはよくわからないという雰囲気が出ている。

 続けてリリアは言う。


「これで私も安心して旅に出かけることができます」


続いてシンシアの方を向く。


「シンシア様。これから大変なこともたくさんあると思いますが、聖女としてのお務め頑張ってくださいね」


あっ、と言いリリアはヴァルドの方へと向き直る。

先程の宣言にちゃんと同意していなかったことに気付いたのだ。


「申し訳ございませんヴァルド王様。聖女の任を解くとの命、謹んでお受けいたします」


「う、うむ、そうか。ではリリアよ、もう下がってよいぞ」


「失礼いたします」


 少しうろたえながら言うヴァルドに従い、リリアは一礼した後、出口へと歩き出した。

 扉へと向かうその顔には笑みが浮かんでいた。

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