第117話 人を捕らえる絵
さて、俺たちはこの庵を先に進むことにした。
落ちてた小判はいらないけど一応拾っておく。
改めて、外から見たら小さな庵だったが、しかしその中は広い。ダンジョンだからな、そんなものだろう。特に絵の中のダンジョン、物理法則は通用しない。
「さっきの加牟波理入道もそうだけど、妖怪はまだ出て来ると思う。注意しろよ」
「うっす」
「はい」
「うん」
「きゅっ」
皆が返答し、そして俺達は庵を進む。すると、その途中で。
「あ、また絵がありますよ」
エマちゃんが声を上げた。
「……」
確かに絵が飾ってある。庵の……いやこの大きさからもう内観は屋敷と言っていいが、その和風の廊下に飾られている絵の額縁は、すごく西洋絵画の額縁だった。
アンバランスである。センスが無い。
「……これは」
そして、その絵は……。
「……みんな!」
エマちゃんが叫ぶ。
そう、この絵は……行方不明になっている女の子たちだった。
その絵には、それぞれ一人ずつ、四人の女の子が描かれている。
「これは……行方不明の子たちの絵か?」
「うん、そうだと思う」
「……でも、なんでここに」
「分からないけど……」
「……」
俺はその絵をじーっと見つめる。
そして。
「……ん?」
俺は、あることに気付いた。
「動いてる……」
そう。
彼女たちは動いていた。
「今までの敵と同じ、ってことっすか?」
「いや……違う、これは」
『えっまさか』
『絵に閉じ込められてる?』
『絵にされちゃったかもったいない』
『絵に閉じ込められた中でさらに絵に?』
『ゲシュタルト崩壊しそうwww』
『絵にされた上に絵に閉じ込められるの?』
『それは嫌すぎる』
コメントのみなさんの言う通り。
閉じ込められている……1?
「……そうよ」
そして声が響いた。
「!?」
俺達は臨戦態勢を取る。
「待って、私は敵じゃないわ」
そして、その声の主が通路の影から姿を現した。
黒い長髪の少女だった。
「君は……」
「――弥子ちゃん!」
エマちゃんがその名を呼ぶ。
「知り合いか? 彼女も……」
「あ、はい。一緒に行方不明になった……友達です」
「なるほど……」
それじゃあ問題はないか。
「えっと、キチクさんだったわね」
「菊池です」
何度やったかこのパターン。
「あ、ごめんなさい。私は
「ああ、よろしく」
「よかった、これで全員揃ったね!」
「まあ、四人ほど絵に閉じ込められちゃってるけど」
エマちゃんの言葉に、弥子ちゃんが言う。
「助けられないのかよ?」
健吾の言葉に、弥子ちゃんは首を振る。
「助けられるならとっくに助けてる。でも、見て」
彼女は絵の一つに触れる。すると……。
「!」
絵が、彼女を取り込もうと――その絵の具を盛り上げて、食らいつこうとした!
弥子ちゃんはすぐに手を引っ込める。
「こう。ここの絵は、人を取り込むの。だから困ってるの」
絵に取り込まれた女の子を助けようとすると取り込まれる。
もしかしたら、中もダンジョンになっていて、ボスを倒さないと駄目……という展開なのだろうか。
ううむ、ややこしいな。こいつは……面倒だ。
「そんな……」
エマちゃんが泣きそうな顔をする。弥子ちゃんも困っている。
「どうするんスか、先輩」
健吾が言う。
「そうだな……」
さて、考えよう。
絵に取り込まれた女の子たち。助けるには中に入らないといけない、かもしれない。しかしその保証はなく、もしかしたらそのまま取り込まれてしまうだけかもしれない。
となると……。
「まあ、持ってくか」
俺はその絵を壁から取り外す。絵の表面に触れなければ取り込まれないなら額縁持てばいいだけだしな。
『ぶん投げたwwwwwwww』
『いやちょっと待って助けろよキチク』
『絵のまま回収とかwwwwwwひでぇwwwwww』
『キチクさん鬼畜すぎます!』
「いや、だってこれ持ってくしかないし」
俺達の目的は彼女たちの確保だ。つまりこれでも別によくない?
どうやって助けるかは後で考えればいいさ。
「いや、そうかもだけどさ……」
「千百合、健吾、そっちの絵も外してくれ」
「あ、はい」
『キチクさんひでえ』
『絵を物扱いとか……これは鬼畜ですわ』
『女の子の敵だ!』
「いや、だから助ける方法考えないといけないだろ。でも今ここで考えても仕方ないし、とりあえず持ってくしかないんだよ」
俺は四枚の絵を重ねて紐でくくってカバンに入れる。これでよし。
「これにて全員救出完了!」
「いや厳密には出来て無くない!?」
弥子ちゃんが声を上げる。
「まあ、こういう妖怪の妖術ってさ、かけてる妖怪を倒せば解けるのが基本だし、ボス倒せばいいよ」
俺は説明する。妖怪の妖術に効果永続というものは中々に無いのだ。
「……ねぇエマちゃん、やっぱりあの人ヤバいと思う、ちょっと信用できないよ、普段から鬼畜って呼ばれてるらしいし」
「まあそれはそうかもだけど、妖怪退治とダンジョン破壊に関してだけはすごく頼りになるって評判だよ?」
弥子ちゃんとエマちゃんが話す。
「聞こえてるぞー。あとダンジョン破壊じゃなくて攻略だ。破壊なんてまだ四回しかしてないし」
「普通の探索者って一回でも破壊しませんよ!?」
「…………さて、先に進むか!」
過去を振り向いてくよくよとするのは良くない事だ。
『誤魔化したwwwwwww』
『一回でも壊したら人生詰むレベルの損失なんだよなあ……』
『ちっちゃなダンジョンならともかくキチクの壊したダンジョンはでかいのばかりだからな……』
『現実見ろキチク』
『エマちゃんヤコちゃんがドン引いてるやんけwwwwwww』
『ドン引きのヤコちゃん』
『やこちゃんさん、これがキチクです。慣れろ』
リスナーたちが何か言っているが気にしない。
俺達は先に進むことにした。
そして、そんな時だった。
「行かせない……」
そう声が響く。怨嗟のこもった声だった。
その声は、突き当りの壁にかかった一枚の大きな絵から発せられていた。
あの絵は……そう、誰でも知っている有名な絵。
「モナリザ……」
そう、モナリザだ。
モナリザの絵が、にい、と口を亀裂のように裂けさせて笑う。
「……ああ、有名な都市伝説系の妖怪だな」
動くモナリザ。七不思議として色んな学校に語られる怪異。
「行かせない、逃がさない。その子たちは私の友達。ずっとここにいるの。私と一緒」
「それは違う。彼女たちは絵の中に囚われてるだけだ」
俺は言う。しかし彼女は聞く耳を持たない。
「そう、その子たちは私の友達。だから返さない。あなたたちも返さない。あなたたちもずっと私と一緒に、絵になって、ここに――」
「えい」
俺はモナリザが話している間に、荷物から取り出したそれをぶっかけた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
モナリザが絶叫する。
「先輩、何かけたんスか」
「ん? 怪我した時の手当て用に持ってきた消毒用アルコール」
絵は油で溶ける。
そしてモナリザは、アルコールをぶっかけられてそのままどろどろと溶けていった。
終わり。
「……えっと、キチクさん?」
弥子ちゃんが恐る恐るといった感じで言って来る。
「まだ喋ってる途中で、流石にそれはちょっとひどいんじゃ」
「でもあいつ話通じそうにないタイプだったし、それに……」
「それに?」
「レプリカだし別にいいかなって」
学校に飾られてる七不思議のモナリザは複製画である。だから別に問題ないだろう。
『そういう問題じゃねぇよwwwww』
『キチクさんひでえwwww』
『モナリザにアルコールぶっかける奴初めて見たwwww』
『迷惑系とか環境保護気取り配信者がやる奴じゃんかwwww』
別に問題はない。
「そうかなあ……」
千百合が言うが、問題ないのだ。
改めて俺たちは、先へと進んだ。
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