第116話 敵は著作権
「うおおおっ!」
俺達は、出没する妖怪たちを倒していく。
しかし……。
「出て来る妖怪……気づいてる?」
千百合が言って来る。
「ああ。有名な妖怪絵ばかりだな」
主に鳥山石燕の妖怪画とかが多かった。あとどう見ても水木しげるデザインとか。ちょっとそれはヤバイ、著作権的に配信出来ないのでカメラに映る前に速攻で叩き潰したが。
第一層のボスなんて、今思えば有名な葛飾北斎のエロ蛸である。いやその絵を描いた時のペンネームは鉄棒ぬらぬらだったな。どんな名前だよ。現代に普通にいそうだ。
そういやあの蛸ってメスなんだっけ。
「流石は絵画のダンジョンだけあるっすね」
健吾が言う。
「んー……」
だけど俺は思う。なんといえばいいか……
「でも見た事ある妖怪ばかりで、オリジナリティ無いですよね」
「それな」
エマちゃんの言葉に思わず賛同する。
そう、確かに「どこかで見た」絵の妖怪ばかりなのだ。いや、伝承から生まれる妖怪に対してオリジナリティを求めるのも違うのかもしれないが、それにしたってそのまんますぎるのばかりというか。
「こうなんていうか……描いた人の魂が感じられないっていうか」
「あ、なんとなくわかるっす」
健吾も賛同する。
絵に限らずだが、本当に魂がこもっていれば、習作や模倣でもなんというか迫力が違うのだ。
音楽でもただ楽譜通りに引いたとしても、魂や技術の差で全然変わるように。
「わかります。薄っぺらいですよね……幻術だと落第ですよ」
鈴珠も言う。うんうん、よくわかってるじゃないかうちの子は。
『ひどいwwwwwww』
『まあでもわかる』
『確かに』
『下手なんだよなあ……』
『俺の方が上手い妖怪描けるわ、美少女化したやつ』
『いや、俺のが』
『は? 俺だが?』
『あ?』
『お?』
『美少女化より男の娘化だろうが』
『よし、戦争だ』
「喧嘩すんな」
俺はコメント欄に突っ込む。何やってんだこいつら。
「まあ、とにかく進むか」
「そうね」
俺達はさらにダンジョンを進む。
しかし、この階層は自然の洞窟をモチーフにしているだけあって、こう……面白みに欠ける。
隠し通路とか宝のある部屋とかそう言うのが無いのだ。
ただ出くわした妖怪をぶっ倒すだけである。
ちなみに今は水木しげるデザインの釣瓶落としと健吾が戦っているが、著作権上の問題でカメラには映していない。音声だけでお楽しみください。
「つるべぇぇえっ!」
「うおおりゃあっ、【フラワーズ・ブルーム】っ!」
あ、倒した。
「ふう……。やっぱり水木しげるデザインって、なんかこう……倒しづらいっすね」
健吾が言う。うん、わかるよその気持ち。偉大だもん。
「まあ、でも……」
俺は言う。
「この階層はこれで終わりっぽいな」
そう、次の階層に続く階段があったのだ。
「結局、この階層には残りの奴いなかったっすね」
「ボスらしいのもいなかったしな。まあ、次に期待しよう」
「そうね」
俺達は次の階層へと進んだ。
そして、次の階層は……。
◇
水墨画だった。
薄墨で描かれたような、山水画というか、そんな階層。
うん、ここは日本の城ってこと忘れてやがるな。設定はちゃんと守れよ。
「なんか……薄墨の濃淡で描かれたような階層っすね」
健吾が言う。
『これはこれで味がある』
『でも妖怪は出そう』
『確かに』
『わかるわ』
コメント欄も同意である。まあ、俺もそう思うけど。しかし統一感は欲しい。
「ぬーん」
ふと、そういう間の抜けた声が響く。
そして、墨で描かれた海から巨大な黒い塊が現れる。海坊主だ。
「……また水木しげるデザインか!」
「偉大っすからねあの先生は!」
「ああもう!」
千百合がカメラを海坊主から逸らす。いい加減にしてほしい。これじゃ視聴者は喜ばんぞ。やはり敵は著作権か。
録画して作った動画なら水木プロにお金払えば何とかなるけどライブだからな、これ。無理だ。
とりあえず音声だけでお楽しみください。
「うおりゃあああっ!」
「ぬーん」
「このやろっ!」
「ひいいっ!」
「ぬーんぬーん」
「きゃあっ!」
「うおおおっ遠野キック!」
「ぬーん!」
海坊主を倒した。
「海座頭なら石燕画なんだけどな……」
俺はぼやく。鳥山石燕なら著作権切れだから写せるのに。
「あっ、父上様。あれ……」
鈴珠が何かに気づいたように言う。
「ん?」
そこには、庵があった。
どうやら、進む道はあの中ということだろうか。
まあ、どのみち総当たりで進んでみる予定だしな。
「じゃあ行ってみるか」
「うっす」
「はい」
俺達は、その庵へと進んだ。
◇
庵の中は、外見の小ささとは裏腹に巨大だった。
障子と襖と畳で構成された部屋が広がっている。
「ダンジョンらしくなってきた、か」
「そうだね」
千百合が同意する。
「んじゃ、早速探索っすね」
健吾が言って、襖を開ける。
するとそこは……。
トイレだった。
厠、と言ったほうがいいか。
そして。
「……」
厠の窓に、こっちを覗いているおっさんがいた。
禿上がってボロい服を着た、まごうことなきおっさんだった。
「……」
「……」
視線が交錯する。
「な、変態です!?」
エマちゃんが叫ぶ。健吾が拳を握る。
だが、俺は知っている。こいつは……。
こいつは……!
「加牟波理入道ほととぎす」
「ぐえー」
覗きをしているおっさんは消えた。
「えっ……えっと、何なんすかコイツ」
「
千百合が説明する。
「日本各地に伝説のある、厠……トイレの妖怪だよ。厠をのぞき込んでくる入道の姿とされる妖怪で……」
「変態じゃないですか!」
「変態じゃねーか!」
エマちゃんと健吾が言う。
『変態だ』
『変態wwwww』
『変態っすね』
『流石にこれは引く』
コメントもそう言う。うん、わかる。俺もそう思う。
「えっと、兵庫県の姫路地方では大晦日に厠で「頑張り入道ほととぎす」と3回唱えると人間の生首が落ちてきて、これを褄に包んで部屋に持ち帰って灯りにかざして見ると、黄金になっていたという話があるね。
他にも、丑三つ時に厠に入って「雁婆梨入道」と名を呼んで下を覗いたら入道の頭が現れるので、その頭をとって左の袖に入れてから取り出すと、その頭はたちまち小判に変わるって話もあるよ」
『ちょっと待って意味がわからない』
『なんで落ちてきた生首や便器の中にある生首を拾って持って帰るという発想が』
『昔の人ってあたまおかしい』
『『兵庫県民だけど初めて知ったわ』
『俺も知らなかった』
『そんな黄金いらない』
『汲み取り便所の中から黄金……あっ(察し)』
コメントもドン引きである。うん、わかる。俺もそう思う。
「で、だいたいの場合は「加牟波理入道ほととぎす」と唱えたら加牟波理入道は消えるんだよ。だから対処は比較的簡単な妖怪なんだけど……」
おそらくこの妖怪の原典となったものは、普通の人間のおっさんだと思う。
覗きしていたらこっちを見て加牟波理入道ほととぎすなんて叫ばれたら、覗きがバレたと逃げ出した、そういう事だろう。
「……なんだったんだよ」
健吾が疲れたように言う。まあ確かにこんなの相手にしたら疲れるよな。
なお、加牟波理入道が消えた後には、小判が落ちていた。
このダンジョンで初めてのドロップアイテムである。なんかあんまし嬉しくないが。
この妖怪の逸話を知っていると……なあ。
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