第115話 ドキドキ☆ スキル検証コーナー
「……【水漏れ】?」
高室エマちゃんは、自身のスキルをそう告げた。
「効果は……こうです」
そして彼女は自らの手を掲げる。
じわっ。
ちょろ。
じょぼぼぼぼ。
水が――漏れた。
「……」
沈黙が場を支配する。
間違いない。これは――
『外れスキルだ!!!!』
『みwwずwwもwwれwwwww』
『本人が悪いわけじゃないから笑っちゃ駄目』
『スキルガチャ大失敗』
『なんというか、おもらしとかに使われそうなもしくは家屋には有効かww?』
『これはこれで需要がある』
『水漏れってそういう……。』
『いや、水漏れはスキルじゃないだろwwwww』
『でも、これがあればお風呂とかトイレの水を節約できるな』
『確かに!一家に一台エマちゃん!』
『ダンジョンの外では無理だろスキルなんだから』
……コメント欄が一気に草まみれになった。
空気に耐えかねたのか、健吾が言う。
「ま、まあ飲み水には困んねぇよな」
「女の子の身体から出た水を飲もうとするなんて気持ち悪いです」
「ひでえっ!? フォローしたんだぞ俺!」
健吾が凹んでいた。ドンマイ。
しかし、水漏れか……。
「ちょっといいかな」
俺は荷物からコップや鍋といった入れ物を出す。
「なんですか?」
「この入れ物に水を入れてくれるか?」
「? いいですけど……」
エマちゃんがそれらに水を入れてくれる。
「……」
俺はそれを黙って見ている。
しばらくたつと、幾つもの容器が満杯になった。
「あの……キチクさん、これ……」
エマちゃんが不安そうに言う。
「エマちゃん、体調に変化は?」
「え? 特にないですけど……」
「そっか」
彼女が出した水は、おおざっぱに見ても5リットルはある。
もしこれが、彼女の身体から漏れた水分であるなら……脱水症状が出ているはずだ。だが彼女はピンピンしている。
ということは……。
「看板に偽りありなのか、それとも……」
「?」
「いや、君のスキル【水漏れ】は、どこからか水を出す、というスキルなんだなと思っただけだ。もし「身体から水が漏れる」力なら使いまくるのは危険だけど」
そう言いながら俺は水を捨てる。
もし身体から水を漏らすスキルなら、脱水症状が起き始めたらこれを飲ませる予定だったけど。
「えっと、ということは……どういうことなんです?」
「つまり、力が続く限り、無尽蔵の水源……ってことだよ」
これは意外と使えるスキルかもしれない。
さらなる検証が必要だがな。
「おい健吾、ちょっと頼みたい事があるんだが」
ふふふ、みなぎってきた。
かつて零細配信者時代に妄想だけしてて、しかし妄想どまりだった「スキルがあればこんなふうに」の妄想が実際に検証できるんだ。
◇
「というわけでー、キチクと!」
「え……えっと、高室エマの!」
「ドキドキ☆ スキル検証コーナー! ドンドンパフパフー!」
「わ、わ~……」
『急に何wwwwwww』
『キチクが壊れた』
『また何かはじまった』
『ダンジョン攻略見てたはずじゃwwww?』
コメントが沸き立つ。
何をしているかって? 見た通りだ。
「さーて今回のスキルはー、エマちゃんの【水漏れ】です!
これは手の先からちょちょっと水をだすスキル!
なんとも普通で、名前の響きからもすんごい外れっぽい!
しかししかし待って欲しい、【花咲か爺】という本人も凹む名前と効果だったスキルを、すごく活用してダンジョンをエンジョイしてる奴もそこにいるし、A級探索者の東雲優斗さんだってレアだけど戦闘の役に立たないと評判の【アイテムボックス】でバリバリ戦ってますしね!
というわけでどんなふうに活用できるか検証してみようと思います!
ダンジョン探索に初心者がいどむには、スキル認識が大切です。
敵を知り己を知れば百戦危うからず、俺の座右の銘ですしね!」
『急に真面目』
『でも確かにスキルの認識は大事だな』
『スキル無しが言うと説得力あるんだかないんだか』
『自称普通のバケモンが何言ってんだお前wwwww』
『エマちゃんさんついていけてないなwww』
「さて、場も温まってきたことですし。
先程検証してみた結果、このスキルによる水はかなり大量に出るようです。スキル使用者の体の水分を出しているわけではないようですね。
というわけで、アシスタントの健吾さーん!」
「うっす、獲ってきたっす」
俺の言葉に、健吾がやってくる。その手には、ギィギィと騒ぐ小さな妖怪がいた。
『ゴブリン?』
『ちょっと違う』
『なんぞこれ』
「これは魑魅魍魎だね、低級妖怪だよ」
千百合が解説する。そう、俺が健吾に頼んで適当な妖怪を探してきてもらったのだ。
「ではまず、この魑魅魍魎が噛みついてこないように、歯を全部取りますね」
俺は魑魅魍魎を受け取り、歯を抜いていく。
「ギイイイ!」
『うっわキッツ』
『ひどいwww』
『鬼畜の所業』
仕方ないだろう。これからやる検証でエマちゃんが噛まれたら大変だし。
「そして歯が無くなった魑魅魍魎に……エマちゃん、こいつの顔を掴んで」
「えっ!? えっと……こ、こうですか」
「そうそう、そのまま水を出して」
「は、はい……」
エマちゃんが魑魅魍魎の顔を掴み、スキルで水を流し込む。
「ギイイ!」
『なんか嫌そうな悲鳴』
『まあ……顔掴まれて水出されたらなぁ……』
『キチク鬼畜すぎる』
「あ、あの! なんか暴れてるんですけど!」
「まだまだいける、もっと!」
「頑張れ高室!」
「エマちゃん、その調子だよ!」
「が、がんばってください!」
俺達は応援する。
「ギッ、グぼ、ガバギッ、グヘボボボボ!」
そして魑魅魍魎は――
「ガベアッ!」
破裂して、汚い絵の具の飛沫となって飛び散った。
「ひいいいいいっ!?」
エマちゃんが叫ぶ。だが、これではっきりした。
「はい、見ての通りですね。このスキル【水漏れ】は、こうやって妖怪を倒すことができます。
スキルは使えば使うほど成長する場合もあるので、うまくいけば必殺遠野アイアンクローからの水流爆破での必殺技として昇華出来るかもですね」
俺は言う。
スキルが成長し、大量の水を瞬時に出すことが出来るとしたら――このコンボは化けるだろう。
『俺達は何を見せられているんです?』
『鬼畜外道』
『ひでえwwww』
『妖怪に相変わらず容赦なし』
『汚い花火wwww』
『そもそも普通は妖怪に対してアイアンクローきめない』
『これだから遠野は』
「反応は上々のようですね」
「いや、そうかなー……」
千百合が言う。
しかしこれで方針は定まった。
「少なくとも、彼女は自分のスキルが外れのダメダメだとコンプレックスに苛まされることはなないだろう、こうやってスキルで妖怪を倒せたわけだし」
「自分の手の中で命が破裂したのを見てトラウマに苛まされない?」
「遠野の人間だし大丈夫だろ」
そう、彼女も遠野の人間だ。妖怪をやっつける事には慣れているだろう。
「そうかなー……?」
千百合が首をかしげるが、遠野とはそういうものだ。
「さて……それじゃあ、検証も済んだし、この階層の探索といくか」
そして俺達は、足を踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます