第114話 第二層へ
「ギュイイイイッ!」
大蛸の足が杭のように次々と畳を穿っていく。
「このおっ!」
健吾はそれを上手く回避していく。
「ギュイイッ!」
大蛸は健吾の回避に業を煮やしたのか、畳に穿った足を抜き、今度はその足を健吾へと向ける。そして、大蛸は畳ごと健吾を押し潰そうとする。
「うおわあっ!」
健吾は畳ごと大蛸の足に踏み潰される。
「健吾っ!」
だが――
「ギュイイイイッ!?」
その畳に――花が咲く。
「あれは――健吾のダンジョンスキル、【フラワーズ・ブルーム】! 畳に花を咲かせたのか!」
「そ、その効果は何なんです!?」
エマちゃんが聞いてくる。
「花を咲かせる!」
「それだけですか!?」
「ああ、それだけだ――そしてあれは、「こんなんじゃ俺は倒せねえ、まだピンピンしてっぞ」アピールだ!」
「アピールっ!?」
アピールだ。だが、配信にそういった「華」は大事なのだ。そういうのは視聴者受けする。
「健吾の奴、わかってんじゃねえか」
俺の言葉を裏付けるように、畳が持ち上がり、健吾の姿が現れる。
「ギュイイッ!」
「はっ! この程度かよ、大蛸さんよお!」
健吾が畳を大蛸に蹴りつける。すると、その畳に咲いた花が一斉に散り、花びらが舞った。
――これは、目くらましか!
「ギュイイイイッ?」
そして健吾は大蛸に肉薄する。
「おらあっ! 咲き乱れろ、【フラワーズ・ブルーム】ッッッ!!!」
「ギュイッ!?」
健吾の拳の連打が大蛸の胴体に突き刺さる。
そして拳が当たった部分から――花が咲いていく。
殴る、咲く。殴る、咲く。殴る咲く、殴る咲く、殴る咲く殴る咲く殴る殴る殴る咲く咲く咲く――
「ギュイイイイイイッ!!」
そして大蛸は全身が花に包まれ――倒れた。
「お前には――花畑がお似合いだぜ」
健吾はそう言って踵を返した。
◇
「すごい――佐々木くん、あんな強力なスキルを……」
エマちゃんがいう。だけど違うんだよ。
「いや、花ぁ咲かせるだけでダメージはねぇよ。単純に殴り倒しただけだ」
健吾が言う。その通りである。
そもそもでっかいだけの蛸なんて、絡みつかれさえしなければ簡単に倒せるだろう。
さらに言うと健吾は俺と違って、ダンジョンステータス増加により、筋力等も底上げされてるだろうからな。適切に戦えば負ける要素はないだろう。
「えー……」
しかし彼女は、なにそれって顔をした。信じていないというか、ついていけないといった顔だ。
「ちっ、これだからロマンをわかんねえ女はよ」
「いやロマンとか関係なくないですか、それって」
『確かに関係ないwwwwww』
『ロマンという文字をぐぐってこい』
『結局は地の力でタコ殴りでタコを倒すとか……』
『遠野人ってこんなんばっかかよ(震え声)』
『スーパー遠野人二号現る』
『あれキングオクトパス級だろどう見ても』
『普通のダンジョンじゃAランクモンスター』
「ま、まあ、何はともあれ、無事でよかったよ。俺は菊池修吾、上月真白ちゃんに頼まれて君たちを助けに来た、ダンジョン探索者だ」
「あ、はい、知ってますっ! キチクさんですよね!」
「……あ、うん」
まあキチク呼ばわりはもう慣れたけどさ。いまだにリアルで初対面の相手にキチクと呼ばれるのはどうにも。
「先輩は有名人っすからね」
健吾が言って来る。まあ、そうなんだろうな。でももうちょっとそのなんというか、いやいいよもう。諦めてる。
「でも、キチクさんたちが来てくれてよかったです! 私たちだけじゃどうしようもなかったから!」
エマちゃんが嬉しそうに言ってくる。
「そうだ、他の人は? 何人かで博物館に行ったって聞いたけど」
「みんなは……わかりません。この城のどこかにいるはずですけど……」
「そうか。だとすると……」
そう言った時、天井が動き、階段が降りてきた。
「これは……」
「第一階層クリア、ってことか」
どうやらこの城は、ボスを倒さないと上に進めないらしい。まあダンジョンと考えたら普通だな。
「さて……じゃあ行くか。エマちゃんはどうする?」
「あ……えっと、私も……同行させてください」
「わかった」
俺はエマちゃんに頷き、そして健吾を見る。
「健吾、彼女を頼む。守ってやってくれ」
「うっす」
健吾が頷く。
「じゃあ、行くぞ」
俺は階段に足を向けた。そして――俺たちは次の階層へと進んだ。
◇
第二階層は第一階層と打って変わって、まるで洞窟のような空間だった。
「城っつー設定守れよ……せめてこういうのは地下にさあ」
「絵のダンジョン……ですもんね。結構めちゃくちゃというか好き勝手というか、そんなかんじなのかもです」
「あるかもね。特に大ボスが、ダンジョンが生みだしたただの怪物じゃなくて、外から来て意思を持って乗っ取った妖怪っていうから……」
エマちゃんと千百合が話す。
「絵のダンジョン、か」
俺は呟く。確かに第一層に出てきた妖怪たちは、倒されると絵の具になって消えていった.らためてここは絵の中なのだ、と実感する。
「そういやぁ、よ」
健吾が周囲を見ながら口を開く。
「高室、お前スキルはどなんだ?」
「え?」
「ダンジョンスキルだよ。ダンジョンに入っちまったからには発現してるはずだろ」
そう、ダンジョンに入った人間は、ダンジョンスキルという異能の力が発現し、ダンジョンステータスという、身体能力の増加が起きる。
だから現代人の若者でも、ダンジョンに潜り魔物と戦う事が出来るのだ。
……稀に発現しない奴もいるけどね! 俺とか!
「俺ぁ見ての通り、【フラワーズ・ブルーム】ってスキルだ」
正式名称【花咲か爺】である。
「ステータスは肉弾戦系だな。だからまあ、スキルが戦闘向けじゃなくともモンスターとガチれる。先輩ほどじゃねぇけどな」
「まあ、俺は天狗の爺さんの所でスパルタ特訓喰らったしなあ」
結局、神通力とか術の才能ゼロと言われたけど。
「マジっすか、そういや前の配信でもそういうの言ってたっすね。俺も弟子入り出来るっすかね」
「んー、なら今度行ってみるか? でも下手したら数年帰れないけど」
「う……それはちょっとツラいっすね、出席日数やばいどころじゃないっす」
「佐々木くん意外と真面目ですもんね」
「うっせぇ高室。そんなことよりお前のスキルだよスキル。何なんだよ」
「えっと、それは……」
エマちゃんは口ごもる。
そして少し黙った後、恥ずかしそうに言った。
「【水漏れ】……」
……。
なにそれ。
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