第113話 城への突入
俺達は城内へと突入した。
変哲もない、日本の城だ。畳と梁と襖と障子とで構成されている、テレビの時代劇などでおなじみの光景が広がっている。
油断はできない。ここはダンジョンだからな。
「どこに行方不明の子たちがいるかわからないからな……しらみつぶしに探すか」
「そっすね」
「うん」
そして俺達は慎重に歩く。と、その時だ。
「……先輩、あっち。いるっすね」
「ああ、いるな」
俺達は気配を感じた。妖怪の気配だ。
「先輩、どうするっすか?」
「そうだな……。とりあえず、様子を見てみようか」
俺達は気配のする方向へと向かった。
するとそこには……。
「……うわっ」
「なんすかね……」
そこにいたのは、二メートルくらいの大きさのある、巨大なナメクジのような生き物だった。
大蛞蝓である。そのまんまの妖怪だ。
それが二匹。
「うへ……キモいっすね……」
「……ああ」
「どうします? 先輩」
「どうするもこうするも、やるっきゃないだろ。健吾、俺とお前で一匹ずつだ」
「うっす!」
そして俺達は、大蛞蝓に戦いを挑んだ。
「せりゃあ!」
大蛞蝓は巨体の割には素早い。実際の蛞蝓とは比べ物にならない。だが、それでも所詮蛞蝓だ。
俺は大上段から、踵を叩き下ろす。
「ギイイ!?」
大上段からの一撃を、脳天に食らってはたまらない。大ナメクジは一撃で絶命した。そして俺はもう一匹へと向き直る。
「おらあッ!」
健吾は拳で蛞蝓を殴る。よく素手で触れるな。
「ギイッ!」
そして、殴った瞬間――
「【フラワーズ・ブルーム】ッ!!」
健吾が叫ぶ。そして大蛞蝓の身体に、花が咲く。
「うぉりゃあああああッ!」
そして、その花ごと、健吾は大ナメクジを殴り殺した。
「……花を咲かせる意味は?」
「エフェクトっす」
千百合のツッコミに、健吾は堂々と答えた。
『コイツもつよいwwww』
『待って、ただ花を咲かせるだけのスキルでなんで敵を倒せるの』
『確かにおかしい』
『いや、でも、エフェクトってそういうもんだろ』
『エフェクトは強い。はっきりわかんだね』
『スキルの強弱はエフェクトで決まるからな』
『でも、花咲かして殴るだけのスキルで敵を倒せるのはおかしいだろwwww』
コメント欄も健吾のスキルに困惑している。
だが……。
「まあ遠野の人間ならでかいだけのナメクジの妖怪なんて普通に倒せるし」
「そっすよ、ただのでけぇ虫だし。塩がありゃもっと楽だったんすけど」
凶悪な妖怪じゃない、ただの巨大化した虫程度なら遠野なら誰でも倒せる。
当たり前の事だ。
「わー、シュウゴみたいなのが増えたー」
千百合が笑っている。俺は健吾みたいなコワモテじゃないけどな。
「……ん?」
蛞蝓を見ると、異常が起きた。
どろどろと溶けている。いや、ナメクジは溶けるものかもしれないが……しかし違う。
倒されたモンスターがダンジョンに取り込まれて消えるのとも違う。
これは……。
「絵の具……みたいっすね」
そう、絵の具が溶けて流れているような、そんな溶け方だった。
ここが供養絵額のダンジョンだからか……?
「まあ、いいか。とりあえず、行方不明の子たちを探そう」
俺達はさらに城内を探索する。
襖を開け、畳をひっくり返し、つづらや壺の中を覗く。そして出てきた妖怪たちをボコる。
そうやって進んでいくと……。
「……ここっぽいな」
やたら豪華な絵が描かれた大きな襖が現れた。
『いかにもだな』
『殿様がいそう』
『ボス戦か?』
『わくわくしてきた』
「開けるぞ」
俺は襖に手をかける。すると、その向こうから……。
「た、助けてええっ!」
と、助けを求める声が聞こえた。間違いない。行方不明の子だ。
「先輩! 早く!」
「ああ!」
俺達は勢いよく襖を開いた。そこには……。
「……タコぉ!?」
巨大な蛸がいた。そしてその蛸が、女の子を弄んでいた。
「い、いや! いやです! そこ駄目ですやばいですへるぷみー!」
そして蛸は、女の子の服にその足を……。
『おいおいおい!』
『これエロゲ?』
『エロゲでしょ』
これはヤバイ。このままいくと俺のチャンネルが停止処分受けてしまう!
「た、助けてください!!」
女の子が俺達に助けを求める。
「! 高室!」
健吾がその女の子の名前を呼ぶ。
「知り合いか?」
「うっす。高室エマ、オーストラリア帰りの帰国子女っす。好奇心旺盛なトラブルメーカーで……」
「紹介ありがとうございますーでもそんなの後回しにして早く助けてくださいー!」
高室エマちゃんが叫ぶ。まあその通りだ。
「いくぞ健吾、俺のチャンネルを守るために!」
「うっす! 18禁展開はアウトっす!」
俺達は蛸の妖怪へと飛びかかった。
「せりゃあ! 遠野――」
「ダブルキイックっ!」
俺と健吾は、同時に飛び蹴りを叩き込む。
「ギュイイイイッ!」
蛸の妖怪は、俺達の飛び蹴りを食らい、壁に叩きつけられた。
その衝撃で、エマちゃんを捕えている足が緩む。
「うひゃあっ!?」
彼女は蛸の足の拘束から解かれ、そのまま落ちて来る。
「よっ、と」
俺はそれを受け止める。
「あ、ありがとうございます……」
エマちゃんは、俺の腕の中で顏を慌てて服を整えながら顔を赤くする。
よし、色々とセーフっぽいな。
「健吾、こっちは大丈夫だ!」
俺は健吾にそう叫ぶ。
「うっす!……高室は任せたっす、この大蛸は任せてくださいっす!」
健吾はそう言う。
しかし大蛸は巨大だ。5メートルはあるだろう。
任せて大丈夫か……?
「あのっ、佐々木君一人じゃあ……っ!」
エマちゃんが言う。
その言葉で俺の心は決まった。
「おう、ぶちのめしてやれ!」
「ちょっとっ!?」
エマちゃんが叫ぶ。
だが健吾も、この子たちを助けようと覚悟を決めてダンジョンに飛び込んだダンジョン探索者だ、そして遠野男子だ。
男が覚悟を決めて拳ひとつで立っているなら、同じ男として、遠野男子として……。
「信じてやらねぇとな!」
「さんきゅっす!」
俺の声に、健吾は笑う。
「ギュイイイイッ!!」
そんな健吾に向けて、大蛸はその足を触手のように、いや――ドリルのように恐ろしい勢いで繰り出していった。
健吾は叫ぶ。
「かかってこいや、タコ焼きにしてやんよぉおっ!!」
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