第96話 マヨイガ立食パーティー
戦いは終わった。
檻の格子が解放され、探索者達が駆け出す。
「やったな!」
「流石は東雲!」
「俺達の勝利だ!!」
「おっしゃああああ!!!!」
喜びの声を上げながら、探索者達は夕菜ちゃんたちに駆け寄る。
ああくそ、リスナーである俺は喜びとコメントを打ち込むことしかできないのがもどかしい。
しかし、マヨイガもついに攻略された。
終わったのだ。
そう、終わった。しかし……ここからどうなるのだろう。
その時、世界が動いた。
揺れたのだ。
『何?』
『地震?』
『どうしたのこれ』
『うわっ!』
『おい!あれ見ろ!!』
コメント欄で騒ぐリスナー達。そして探索者達も見た。
亀裂だ。
この部屋全体に亀裂が入っている。
地割れも起きている。
「なんだこれは!」
「まさか……」
「どういうことだ!?」
「キチクが今までクリアしたダンジョンは四つ、そのうち蛙禍堂、殺生石、SL銀河ダンジョンは全て破壊された。破壊されたのはマヨイガだけだ……」
「何がいいたい」
「このマヨイガダンジョンも崩壊の時がきたのかもしれない! ダンジョンクラッシャーキチクの名のもとに、全てのダンジョンは滅亡するんだよ!!」
「な……なんだってー!?」
探索者が叫ぶ。
そして探索者達は、崩壊に呑まれた――
画面がブラックアウトする。
撮影用ドローンも一緒に呑まれたからだ。
『おいおいおいおいおいおい』
『まさかみんな死んだの?』
『冗談だろ……』
『マジで?嘘だよな?』
『え、ちょっと待てよ……』
『そんなことないよね?』
視聴者たちがざわつく中、画面が復活する。
そこに映っていたのは――
のどかな風景だった。
庭だ。大きな茅葺の和風邸宅がそこに映っている。
そして、百人ほどの人影――探索者たちもそこに立っていた。
「ここは……」
「いったい……」
「俺たちはダンジョンの崩壊に飲み込まれて……」
「むっ、ここは」
「どうした、知っているのか」
「いや……しかし推測は出来る。しかし……そんなはずはない」
「どうした、何がそんなはずじゃないんだ?」
「ここは……マヨイガだ」
「なんだって!?」
「たっ、確かにそれっぽいけど……おかしいですわ!」
「そうだぜ、だって……」
「ああ。マヨイガにたどり着けるのは攻略した者のみ……夕菜ちゃんたち四名のはずだ!」
「俺たちは脱落した……マヨイガにたどり着けるはずがない」
探索者達は混乱する。話が違うのだ。
そんな時、彼らに向かって声がかかる。
「何もおかしくはないよ」
座敷わらしの少女、千百合だ。
マヨイガらしき屋敷の扉が開き、彼女が出てきた。
その隣には――
「修吾。どういうことだ?」
東雲が聞く。そう、キチクがそこにいた。
「マヨイガに招かれるのは、確かに攻略者のみです。最後まで立っていた者のみが、マヨイガの宝を持ち帰る権利がある――」
そうキチクは言う。
「だけど、マヨイガは今回の事をとても楽しんだようです。本当に楽しかったと。全力で探索者達を、挑戦者を潰そうとしたにも関わらず、ついに突破されてしまった――それを大いに喜んでいる。
俺も楽しかった。最後しか参加できなかったけど、めっちゃ楽しかった。
そこで!」
キチクは天を指さして大きく宣言した。
「最初の予定通り何も変わらない、マヨイガ攻略者としてマヨイガに招かれ、品物を持ち帰る権利があるのは最後に勝利した夕菜チーム四名のみ!
だけど、特別参加賞として!
参加者全員ッ! マヨイガに一日お泊りを許可ッ!
ただいまより、マヨイガダンジョン攻略を祝したパーティーを開催しまぁあああああっす!!」
その言葉に。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
歓声が上がった。
「マヨイガさんよりお料理も用意されてまぁす! 遠野名物ジンギスカンをはじめとして山の幸川の幸! 遠野ホップの地ビールや遠野名物どぶろくも! 未成年探索者のためにノンアルどぶろくこと甘酒やジュースもたくさん用意してます!」
マヨイガの庭に、いつのまにか食事が用意されていた。
「まじか! いいのかよ! 最高じゃん!!」
「おっしゃああああ!! 今日は騒ぐぞぉおおおっ!!」
「すげええええ!」
「キチク太っ腹!!」
「マジ最高! キ・チ・ク! キ・チ・ク! あっそれキ・チ・ク! キ・チ・ク!」
キチクコールが巻き起こる。
さっきまでえらい違いだが……まあそもそもダンジョンマスターキチクは悪の魔法使いでもなんでもないしな。
闘い終わればノーサイドって奴なのだろう。
かくして。
宴会が始まった。
◇
ふう、挨拶は無事終わった。こういうの疲れるな。
配信でリスナーさんたちに挨拶はよくやってるけど、リアルでこれだけの人間相手にってのは初めてだからな、緊張したぜ。
さて……。
俺は庭の立食会場を見る。そこにはたくさんの人がいて、みんなでワイワイ騒ぎながら食事を楽しんでいる。
「むっ!これは……」
「どうした?」
「ジンギスカンに使う羊肉はクセがあり臭みが強い。だから調味料タレに付け込んで臭みを取った肉がよくつかわれるが……」
「つけていない肉もあるな」
「ああ。これでは癖がキツい……と思ったのだが、焼いた後でこのタレにつけて食べると……美味い! 羊肉とはこんなに美味かったのか!?」
「タレだけじゃない、このスパイスにつけても美味いな!」
「ああ……もちろんこちらにある、タレに漬けて処理した肉もうまい。しかし特筆すべきはこの鍋の形、こから醸し出される味の彩りだ!」
「どういうことだ」
「このドーム状の鉄板で肉を焼くと、肉汁や肉の脂が曲面にそって流れ落ちる。そして周囲に置かれたもやしやキャベツ、カボチャといった野菜に絡まる……この肉の旨味を十分に吸った野菜こそがジンギスカンの陰の主役といっても過言ではない!」
「なるほど!!」
探索者たちがジンギスカンを評価している。
この二人、攻略でもやたら実況解説を頑張っていたな。言ってることがなかなかに的を射ていた。
結構盛り上がったよなこの二人の解説。
ちなみに、羊肉を確かに「クセが強い」と嫌う人も多い。
おっと食わず嫌いせず食ってみてくださいよ、と言いたいが……こればっかりは勧めることはしても強要強制はできない。
なのでジンギスカン以外の肉も用意して普通のバーベキューや鍋も用意してある。
さすがマヨイガヨさんだ、気配りの天才だぜ。
「いや、確かに美味いなこれ!」
優斗さんが話しかけてくる。
「でしょ?」
「確かに東京で聞くジンギスカンと全然ちげぇな。こりゃソウルフードになるわけだぜ」
優斗さんはピール形に笑う。
くそう、俺は未成年だから酒飲めないんだよなあ。ビールとジンギスカンは合うと大人がよく言ってるからな、大人になったらやりたいぜ。
「しかし、「みんなが攻略しにくるならボス敵やる」と言い出したときはどうなるかと思ったぜ」
「まあ、単なる思いつきだったけど。今まではマヨイガに任せっきりだったしやってみようかな、と。どうでした?」
「どうでしたってそりゃ……見たらわかんだろうがよ」
優斗さんはそう言って、庭を見渡す。
「お前のあのスキル卑怯だろ!」
「ふはははははは、戦場に卑怯の二文字はないのさ!」
「あー、あそこで足を取られなきゃなあ」
「今回は食い倒れ勝負が無かったのはこのためか……」
「そういや前あったんだっけそういうの」
「くそう、相撲は得意だったのに
前の部屋で脱落しなきゃなあ」
「今回は直接対決できなかったけど、次は負けません!」
「酒のおかわりもってこーい!!」
「あっその肉俺がねらってた奴だぞ!」
みんな、そう言ってわいわいと食べたり飲んだり言い合いしたりしている。
みんな楽しそうだ。
「……ですね」
「ま、俺は不満は残るけどな。最後の勝負、完全に実力で勝った、とは思わねぇし」
「でも俺はちゃんと本気で戦いましたよ」
正直、勝てると思った。
戦場での実戦経験は優斗さんたちの方が上だ。
騎馬戦という変則的なルール、そして最後は力比べ。これなら勝てると思ったんだけど……。
「藤見沢のあのスキルに、リスナーたちの裏切り、ありゃひでぇよ。あのタイミングでみんな足引っ張るからなあ……」
ラスボスなら負けろ。
そっちの方が面白い。
そう言ってみんなが俺の敵になった。
いやわかるよ? そういうネタだって。俺を嫌ってるわけじゃないって。だけどへこむわ。トラウマになるわ。
「結局、戦いって……いろんな要素で変わるもんですからね。
ずっとソロでやってきた俺が、簡単に勝てるはずなかった」
今回、挑戦してきた探索者たちは大半が今日初対面といってもいい面々だった。その生き残った人たちでいきなり騎馬戦で連携させられる、そう考えると不利だろう。
しかし、ずっと戦ってきた経験の差なんだろうな。見事に連携して、こっちを打ち破った。
悔しいけど、勉強になる。
「なぁに、そう言った連携はすぐにお前も身につけるだろうよ。まだまだこれからだ!」
そう言って優斗さんは俺の背中を叩く。痛い。
「……そうですね」
ああ、その通りだ。
まだまだこれからなんだろう。
そして、マヨイガの一日も続く。
夕日が、景色を染め上げていた。
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