第95話 決着、マヨイガダンジョン
「なら次は……優斗、例の方法でいきますよ!」
「おう!! 【アイテムボックス】解放!」
そして取り出したのは……土嚢だ。
「うおおおおおおっ!!」
大量の土嚢を吐き出し、積み上げる。
「何をする気だ」
「わからん。土嚢……それを積み上げて盾にでもするつもりか?」
「しかしそんなのがキチクに通用するとは思えないが……」
そして土嚢は詰み上がり、東雲たちはその上に立つ。キチクたちを見下ろしている。
「まさか、あれは伝説の――「地の利を得たぞ!!」を言いたいためにやったのか!?」
違うと思う。
いや、どうだろう……。
「【アイテムボックス】解放!」
東雲が叫ぶ。
そして……
次に現れたのは、水だった。
大量の水だ。
「っ!!」
それが一気にキチクの馬を押し流す。これでは馬は瓦解する――かに見えた。
だが。
「おいおいおいおい」
泳いでいた。
「知らないのか、馬は泳ぎが得意なんだ!!」
キチクが言う。
色々とつっこみたい。いやそういう問題じゃねーだろと。
「馬は泳げるから、騎馬戦において有効打にはならない。実際に騎馬戦がある運動会、体育祭で水流攻撃が行われないのは、そんなことしても対して効果がないからだ!! そんなことも――知らなかったのか」
知るか。
いや知る知らない以前に前提が違うだろう。
小中学校の運動会で誰がどうやって敵陣を水責めするのか。いやもう、何をどう突っ込めばいいのか……。
「くそっ、どうする!!」
攻撃は効かない。いや、それどころか――キチク自身は一度も攻撃をしていない。その事実に探索者Aは歯噛みしていた。
彼とて実力者だ、理解るのだろう。眼前の不適格者の少年が、規格外なのだと。
規格に収まらない、故に不適格者。きっとおそらくはそういうことなのだ。
しかし、東雲は笑っていた。
これがゲームだからとか、だから死の危険はないとか――きっとそんな考えは彼には無いと思う。
脳筋で有名なのだ。
「ろくに効いてないなら……がっつり効くまで攻め続けるだけだ!!」
そして再び離脱し、殴りかかっていく東雲。
「うおおおおおおおっ!!」
全力をもって殴りつける東雲。キチクはその拳を頭突きで受け止める。
その衝撃で、水が弾け飛んだ。
「っ、すげえ石頭だな!!」
「遠野の牛乳飲んでるんでね!!」
「そうかよ、今度飲ませてくれ!」
「いいっすよ!!」
そして東雲は両腕でつかみかかる。キチクもまた、それを腕で受け止めた。
力比べの形になっている。
――まずいな。
「むっ、これは危ないぞ」
「どういうことだ」
「確かに東雲優斗はパワー重視で、ゴリラと戦えるほどの戦士だ。だがキチクもまた、ゴリラ石川を従えるほどの男。そして……キチクの後ろには幼女少女三人がいる」
「足手まといじゃないのか?」
「馬鹿か!!後ろに女の子がいて、力を発揮できない男の子がいるわけないだろうが!!」
「そうか……バフがかかるのか!!」
「これはまずいぞ……!!」
彼らの言うとおりだ。キチクが東雲を押している。
そしてここで東雲が倒れれば……終わりだろう。
「くそっ、ここからじゃ攻撃できない!」
探索者Aが歯ぎしりする。
もう何もできないのか。
『頑張れ東雲ニキ!』
『気合いだ!!』
『あんたならできる!!』
『がんばれ!!』
『キチクなんかぶっ倒せ!!』
コメントの応援が空中に流れる。
そして……
「頑張れー!!」
「負けんじゃねえ東雲ー!!」
「俺たちがついてるぞ!!」
「気合いだ!!」
「応援してますわ!!」
「お前ならできる!!」
檻の中の探索者たちも声援を送った。
「……?」
その声援の中、変化が起きた。
ゆっくりと……東雲が押している。
「……っ、急に強くなった……!?」
キチクが驚きの声をあげた。
そして声援に混じり聞こえるのは……歌だ。
夕菜ちゃんが歌っている。
「これは、この歌は!」
「知っているのか!?」
「ああ、彼女のスキル【聖歌】のうちのひとつ……【応援歌】だ!」
探索者たちが話している。
そう、応援歌。
そのスキルの効果は……
力の収束。
効果範囲内で、仲間たちが応援すればするほど、バフがかかる――強くなるというものだ。
ありがちなスキルであるといえばそうだ。
しかし、夕菜ちゃんが使えばどうなる。
チャンネル登録200万越え。同時接続者数60万。
そんな人たちが、今、東雲優斗を応援している!!
いかにキチクが常識外れの不適格者だとしても――この応援の前では勝てない!!
「ぬっ、ぬおおおおおおおっ!!」
「ぐううううううううううっ!!」
力比べは続く。そして東雲が有利だ。
勝てる。
キチクに勝てる!!
そう、思ったのだが――キチクは笑った。
負け惜しみか。いや違う。
「はっ、さすがだな、だけど、よ――」
「んっ?」
「そのスキルは、効果範囲内の応援の力を届けるものだろう。ああ、確かにすげえ。だけど、な……
リスナーなら、こっちにだって――いるんだよ!!」
キチクが叫ぶ。
『そうだ!』
『こっちにもいるぞ』
『頑張れキチク』
『俺はずっとキチクを見てきた』
『つかユニコーンたちうぜえ』
『キチクはずっと負け知らずだぞ』
『こんな化けもんに勝てると思ってんの?wwww』
ああ、そうだ。
キチクもチャンネル登録100万を越える、新進気鋭の配信者だ。
そしてここはキチクの支配するダンジョン。いわばホームだ。そして東雲たち、探索者たちにとってアウェイなんだ。
バフは、キチクにも適応される――!!
「おおおおおおおっ!!」
キチクが再び力を入れる。
「ぐ……っ!!」
東雲が膝をつく。
形勢は逆転した。
その時だった――
『でもキチクが負けたほうが面白くね?』
キチクの背後の、キチク側にひとつのコメントが流れた。
『なんでだよwwww』
『まあキチクいつも勝ってるしな』
『確かにたまには負けて泣いてるところみたい』
『ていうかひどい目にあって「なんでだよ!」となるのがキチク』
『そこがキチクの真骨頂』
『まあそれはそう』
『ダンジョン壊して「俺は悪くねええええ!!」と叫ぶの芸術』
『遠野のネタ受け入れられなくて文句言うの尊い』
『やっぱひどい目にはあってほしい』
『キチクだしな』
なんだろう。
なんか流れが変わってきた。
『今までキチクは確かに誰かを、何かを守ってきたんだ……だから戦って勝ってきた』
『こういうお遊びのイベントぐらい負けてええんやでキチク』
『お前はよく戦った森に帰ろう』
『肝心な時にしか役に立たない男であれ』
『そもそもラスボスは負けてナンボだぞキチクよ』
『俺は信じてる――キチクは肝心なところで負けてくれる』
『期待を裏切らない男だ!!』
『負・け・ろ! 負・け・ろ!!』
『負・け・ろ! 負・け・ろ!!』
『勝たないで――キチク!!!!』
キチクのリスナーたちが反旗を翻した。
盛大な負けろコールがキチク陣営から流れてくる。そしてそれと同時に、
「ぐっ……おおおおおおっ、これは……!」
キチクの力が抜けて行っているのがわかる。
キチクのチャンネルを見ると、同時接続は40万だ。
これは……60万の東雲へのバフ効果と、40万のキチクへのデバフ効果が同時にかかっているのか!!
本来のキチクがどれだけ強くとも――これでは。
「ぬっ、ぐっ、が……っ!!」
東雲が立ち上がり、キチクが膝をつく。
四面楚歌の中、力関係は逆転した。
「は……っ、はは、ははははは!! なるほど、これがお前等の力か!! だが勘違いするなよ、俺は決してお前等に負けたんじゃあない――お前たちの勝因は、たったひとつ!!」
キチクが――叫んだ。
「俺が人望がなかったからだよチクショオオオオオオオオオオ!!!!!! 覚えてろよ裏切りもんどもがあああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
そして。
『wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
『wwwwwwwwwwwwwwww』
『wwwwwwww』 『wwwwwwww』
『wwwwwwwwwwwww』
『wwwwwwwwwwww』
『wwwwwwww』
『wwwwwwwwwwwww』
『wwwwwwww』 『wwwwwwww』
『wwwwwwwwwwwwwwwwwww』
『wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
『wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
コメントで草が大量に流れる中、キチクは盛大に地面に叩きつけられた。衝撃でクレーターが出来る。
その衝撃の中――キチクチームの馬が当然のように瓦解し、転倒する。
そして大爆発が起きた。
『勝者――――夕菜チーム! 探索者側の――勝利ですッッッ!!!!!!』
雲外鏡の声が響く。
「……う、」
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
歓声が響く。
今日、この日――マヨイガダンジョンは攻略された。
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