第93話 激戦

「ふんッッッ!!」

「ぐわぁあ――――ッ!!」

『ああ――――ッ! 早くもゴリラチームのアタックにモブ探索者チームが吹き飛んだぁ――ッ!!』


 雲外鏡が叫ぶ。ご丁寧にそのシーンを空中に大きく投影していた。

 地面に落ちた探索者達はそのまま床に空いた穴に落とされ、そして次の瞬間、脱落者たちのいる檻に収容された。


『ゴリラ石川すげええええええ!!!』

『おいおい、華麗に吹っ飛んだぞ!?』

『ゴリラチーム強すぎワロタwww』

『石川さんぱねぇ……東雲ニキとガチっただけある』


 ゴリラチームは馬の先頭がゴリラだ。

 この時点で無敵な気がする。あれをどう倒せというのか。

 これで馬の数は四対三。探索者側が不利となった。


「くっ……流石は石川!」


 東雲が言う。一度戦ったのだ、強さは理解しているだろう。

 そして、知性あるゴリラだ。二度、同じ技は通じないと思っていい。

 あの屈強な獣が前面に立つ騎馬をどうやって攻略するか……それが肝だろう。


「フッ……正攻法では確かに勝ちは難しいだろうね」


 そう言うのは怪盗チームの海藤カナタだ。


「そう言うなら、何か勝算が?」


 教授のその問いに、カナタは不敵に笑う。


「まあ見ていたまえ! さあ君たち頼むよ!」


 カナタはそう言って馬の探索者に号令を発する。


「うおおおおお!」

「俺達ゃ盗賊ハイホーハイホー!」

「盗賊ではない、怪盗だ! ダンジョン怪盗団だぞ!」

「そんなのになった覚えはないけどアイアイサーボス!」


 急造のパーティーなのに息があっている。みなまがりなりにも、マヨイガダンジョンのラストステージまでたどり着いた探索者だしな。

 そんな彼らは一直線にゴリラチームへと向かう。


「かかってきなさい!」


 ゴリラ石川が腰を落とす。

 そのままフィジカルにものを言わせて粉砕するつもりなんだろう。


 だが――。


「ふはははははははははは、この戦いが“騎馬戦”である事がボクにとって幸運、キミにとってのの不運さ! 【窃盗】ッ!」


 カナタはゴリラチームの騎手である雪ん子めがけてスキルを発動する!


「あっ!」


 瞬間、雪ん子の頭のハチマキが消失し、カナタの手中に収まった。


 騎馬戦は、騎手のハチマキが奪われるか、騎手の足が地面についたら敗北だ。

 つまり、射程距離は制限されるとはいえ、直接触れずにハチマキを奪えるカナタのスキルは、この局面において最強クラスの効果を発揮するだろう。


「ふははははははは!! このボクがMVPだな! 攻略の暁にはどんなお宝をいただいていこうか!!」


 勝ち誇っている。

 頼もしいな。


「さあ、このまま一気にラスボスのハチマキを華麗に盗んであげよう!!」


 そして走る。


『これは頼もしいwwww』

『いけんじゃね?』

『まさか怪盗がゴリラを下すとは』

『攻略に必要なのは適切な相性というけどマジそうだな』

『このまま一気に打倒キチク』

『攻略なるか』


 そう思っていると――


「うわあっ!?」


 突如。

 怪盗チームの馬が――転倒した。


 つるん、と。

 これは――


「油すましの油だ!」

「第一関門で探索者たちを苦しめた、あの油か!」

「まさか――怪盗チームを調子づかせて足下をすくうために、ゴリラを犠牲にしたというのか!?」

「ありうる、怪盗の【窃盗】はこの騎馬戦において最強カードだ! 的としてはなんとしても真っ先に潰したいはず!!」


 檻から探索者達が解説する。

 しかしこれは探索者たちにとって確かな大きな痛手だ。

 あの油すましのトラップをどう潜り抜けるか。


「そしてぬるぬるチームは泥田坊やぬるぬる坊主……掴みにくい妖怪で馬が構成されている。直接戦闘は不利だ……」

「どうするみんな……! 信じているぞ……!」


 その声援を受け、探索者達は考える。どうするのか。


「私にいい考えがある」


 そう言ったのは、教授だった。


「考え?」

「ぬるぬるチーム攻略法です。まあ、私たちに任せ……託してください」

「……わかった」

「気を付けて!」


 そうして、教授は馬の探索者に号令をかける。


「いきますよ……我々が今まで生かされた意味、全てはこのために!」

「応っ!」


 そして騎馬は走る。全力で。


「馬鹿な! あんな速度では――転倒してしまいますわ!」

「教授は自暴自棄になったの!?」

「いや……俺達でもわかる事を教授が気づかないはずがない!」


 教授チームは走る。


 そして――


「変ッ形! 騎馬タンクモード!」


 そう叫んだ。

 そして、馬の三人が足を折りたたむ。そう、その場で正座したのだ。騎馬を組んだままで。


『いきなり何!?』

『倒れた?』

『しゃがんだwwww何これwwww』

『一体?』

『タンクって何』


 リスナーたちも混乱している。

 彼らが何をしているのか。


 それは――


「油で足を取られて転倒するなら――足が無ければ転倒しない!」


 全員正座することで設置面積を拡大し重心を落とす。さしずめそりのように――そして油で滑る地面を、勢いのままに疾走する!


「俺たちは礎となる!」

「たとえここで朽ち果てようと――」

「最後に一騎、人間の馬が立っていれば!」

「我々の勝利――マヨイガ攻略だ!」


 それはまるで矢のように一直線に、ぬるぬるチームの馬へと奔り――


「後は――頼みます!」


 ボウリングのストライクのように、ぬるぬるチームの馬を吹き飛ばした。


 そしてそのまま――瓦解。

 両馬、脱落である。


「ふふふ……流石だな。仲間のために礎となる、人間の強さだ。

 ああ、俺達も人間だから解る」


 そう言うのは。


「……お兄ちゃん」


 夕菜ちゃんが兄と呼ぶ男。

 宙に浮かぶ、四つの生首――飛頭蛮だった。


 飛頭蛮、ろくろ首、抜け首。それらはみな、幽体離脱している人間らしい。色んな姿を取れるがその正体は、生きている人間の魂だ。


「また会えるって言ってたけど……まさかこんな所で会えるとはね、お兄ちゃん」

「ふふふ。マヨイガの食客として招かれてね。

 なにせ俺は戻る肉体がいまだダンジョンの奥深く。かといって他人の夢はどうにも居心地悪いし、ダンジョンだとモンスターも襲ってくる。

 だがマヨイガだと、自由にのんびり快適に過ごせるからな!」


 なんということだ。

 お義兄さんは快適な暮らしを提示されて妹を裏切ったのか!


「そして俺達はこんな姿であるから、転倒することは無い。

 それどころか、霊体であるがゆえ、触る事すら出来ん! さあ、お前たちに俺たちを――」

「【魔弾】霊体トリモチ」

「あっ」


 西園がスキルで撃ち、幽体離脱チームは空中で絡み取られ、墜落。


 そのまま脱落した。


『おw義w兄wさんwwwwwww』

『何しに来たのwwww』

『wwww』

『これはひどいwwww』

『wwwww』

『これはひどいwwwww』

『ww』

『西園ニキさすがwww』

『無惨wwwww』


 大草原が生えた。


 そして、最後に残ったのは――


「やはり最後は――お前達か」


 そう言ってゆっくりと足を進めてくる、ラスボスであるキチクチーム。


 最悪最強の敵が、残った。


 いや――


 違うな。探索者達は、ついに――届いたのだ。


 ラスボスに。

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