第92話 最終関門 妖怪騎馬戦

 探索者達は、ついに最終関門に到達した。


 広い場所だ。屋内なのに、まるで屋外のように広がっている。そして、そこには――妖怪たちが立っていた。


 探索者達は……16名が残っている。


「さて、ここまで来た事を褒めてやろう、人間どもよ」


 妖狐の鈴珠……いや、この喋りと表情は玉藻ちゃんか。


「実に良い顔をしておる。我らが主、父上殿と戦うにふさわしい兵じゃ」


 ということは……ついにキチクが出るのか。


「さて」


 雲外鏡が言う。


「これよりおぬしらには、四人一組になってもらおう」

「なに?」

「そしてその四人で馬を組み、我々と戦う。そう……騎馬戦である!」


 なるほど、そう来たかー。

 確かにこういう戦いには相応しい大トリと言えるだろう。しかし……。


「ふざけんな!そんなもん聞いてねえぞ!」


 と叫ぶ者もいる。


「そろそろ人間チェスあたりだと思ったのに! こっちは16人だしちょうどいいだろ!」


 そっちかよ。


「あー、それもいいかもね。今度マヨイガに相談してみるよ」

「頼むぞ! 人数しだいじゃ人間将棋とか人間麻雀もいいぞ!」


 そういう問題なのだろうか。まあ確かに見た目的におもしろいゲームになりそうではある。



●探索者側

【夕菜チーム】

 藤見沢夕菜、東雲優斗、西園萬月、探索者A


【教授チーム】

 宗近健吾、探索者B、探索者C、探索者D


【怪盗チーム】

 海藤カナタ、探索者E、探索者F、探索者G


【モブ探索者チーム】

 探索者H、探索者I、探索者D、探索者K


●マヨイガダンジョン側

【ゴリラチーム】

 ゴリラ石川、タガメ、四代目カッパおじさん、雪んこ


【ぬるぬるチーム】

 油すまし、ぬるぬる坊主、泥田坊、垢嘗め


【幽体離脱チーム】

 カムパネルラ、飛頭蛮、抜け首、ろくろ首


【キチクチーム】

 キチク、千百合、鈴珠、日狭女



 ……という組み分けになった。


「よし、決まったようだな」


 雲外鏡が満足げにうなずく。


「ではこれより、ようやく間に合……こほん、ついに姿を現される我らがマヨイガの主、菊池修吾様のご挨拶である!」


 おおっ、と妖怪達がざわめく。


「では主さま、どうぞこちらへ……」


 雲外鏡に導かれ、一人の少年が現れる。


「えっと……はじめまして」


 ぺこり、とお辞儀をするその姿は、全力で走ってでもきたのか、少し息が乱れ、汗をかいていた。


『おっキチクだ』

『これがキチクか』

『初めて見たけど普通だな』

『これがダンジョンクラッシャー?』

『俺はずっと追ってきてたけどこいつがキチク』

『なんか思ったより弱そう』


 リスナー達の反応も様々だった。


 ちなみにコメントは空中に浮かんでいる。

 これはあれだな、殺生石ダンジョンの時の奴だ。今回はそれを参考に、雲外鏡がその妖術て゜映し出しているらしい。便利だな。


 キチクは続ける。


「このダンジョンマスターのキクごひゅっ! げふっ、ごほごほっ!」


 せき込んだ。


「失礼しました。このダンジョンのマスターをしております、菊池修吾です。みなさんこんにちは」


 落ち着いたところで、改めて自己紹介をした。


「今日は各地から集まってマヨイガを攻めていただき、ありがとうございます。マヨイガもさぞ喜んでいるでしょう……いい餌になったってなあ! わーはははは!」


 いきなり悪ぶり始めた。

 視線が妙に斜め上にあるのは、おそらくあれだな、カンペか何かだな。


「100人を超えていた探索者達も一人また一人と脱落し、今やたったこれだけだ!

 この人数で屈強な妖怪軍団に勝てると思うか、人間ども!」


 キチクの言葉と同時に、妖怪の一匹がとことことマイクを持って探索者の方にいく。

 これでマイクパフォーマンスをしろということだろう。


「に、人間の底力を……甘く見ないでっ!」


 マイクを受け取った夕菜ちゃんが叫ぶ。


「確かにこれだけしか残らなかった、だけど……散っていったみんなは、私達を先に進めるために、自分から犠牲になっていった人たちもいた! みんな、私たちに――意志を託したの! このダンジョンを攻略するという、強い遺志を! それを笑わせたりなんてしない!」


 目に浮かんだ涙を拭きながら夕菜ちゃんは言う。

 その後ろでは、倒れて散っていった探索者達の姿がダイジェストで映し出されていた。雲外鏡さん裏方として頑張るな。


「そうだぜ修吾……いや、ダンジョンマスターキチク!」


 夕菜ちゃんからマイクを受け取り、東雲が叫ぶ。


「ここに残った16人はただの16人じゃない、みんなの意志を背負ってる! そしてそれはここで散っていった仲間たちだけじゃあない……」


 そして西園がマイクを受け取り、言う。


「今、夕菜さんたちの配信を見ている60万人の同接者達……彼らの意志も背負っています。私達は負けません!」


 その言葉に、探索者達の鬨の声が響き渡る。


「そうだそうだ!」

「やっとここまで来たんだ!」

「やってやるぞ!」

「キチクを倒せ! キチクを倒せ!」

「マヨイガ攻略! マヨイガ攻略!」


 探索者側の士気は高い。


『うおおおおおおおおおおおおおお!』

『応援してるぜ!』

『ついに攻略の瞬間か!』

『ラスボスは目の前だ!!』

『がんばれー! がんばれー!』

『ついにキチクも念願の納め時!』

『↑年貢だろ』

『夕菜ちゃああああああん!』

『萬月様ぁあああっ!』


 視聴者たちも盛り上がっている。


「ふん、吼えるじゃないか人間ども! ならば……見るがいい!」


 そして、檻が地面からせりあがる。


 そこには……


「! みんな!」


 今まで散っていった探索者達がいた。


「生きていたのか!」

「囚われの身になっていたのですね……」

「な、なんてひどい……」


 そう悲痛に言うけど、まあ彼らは探索者ルーム送りになっていてそこで見物していたのは配信で見た。


「夕菜ちゃんだ!」

「東雲ニキ!」

「モブたちもいるぞ!」

「そんな……残りあれだけなのか……」


 檻の中から脱落者たちが言う。


「ククククク、こいつらと共に地獄に落ちるか、それともマヨイガへと到達するか……全てはお前ら次第だ!

 さあ、マヨイガはお前たちの血と汗と涙を求めているぞ!

 こやつらを助けたければ、妖怪たちを倒すのだな!

 あくまでも騎馬戦で安全に配慮しつつ正々堂々と!」


 キチクは笑う。


「では、戦いの――始まりだあ!


 天下分け目の遠野合戦! ここに会戦を宣言するッ!!!」


 そして、法螺貝の音が鳴り響いた。


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