第89話 第五関門 妖怪大相撲 第二試合 ゴリラvs脳筋

「ひがぁ~しぃ~、東雲ぇ~山ぁ~」


 タガメが名を呼んだのは、探索者達のエースと言って過言ではない、東雲優斗だ。

 筋肉質のたくましい肉体にマワシを締めている。


『ふぉおおおおおお!』

『REC●』

『濡れる!』

『私もマワシになりたい……』


 女性陣のコメントが殺到した。


「にぃ~しぃ~、石川ぁ~海ぃ~!」


 そして相対するは……ゴリラだ。

 マワシを締めたゴリラが土俵に立つ。


『ブホォオオオ!?wwww』

『これはひどいwwww』

『なんでマワシしてんだよwwww』

『もうやめて! 探索者の腹筋のライフはとっくにゼロよ!』


 コメント欄も大爆笑である。

 シュールだもんなあ。


 しかし笑っているのはリスナーたちだけだろう。

 探索者たちは……その姿に気圧されていた。


 それはそうだろう、画面越しに見ているだけの俺達と違い、あの筋肉の圧を間近で受けているのだ。プレッシャーは相当なものに違いない。


「はっけよい……のこったぁ!!」


  開始と同時に、ゴリラの石川が動いた。

 一瞬にしてトップスピードに乗ったゴリラが突っ込む。


「うおぉおおお!!」


 雄たけびを上げながら、ゴリラが東雲に突進する。


 それを、


「ぬうううううううんっ!!!」


 東雲が受け止めた。


 相撲において最も威力を発揮すると言われるぶちかまし。

 だが、それを受け止めた東雲の足下が大きく陥没した。


 その衝撃たるや凄まじいもので、地面は大きくえぐれ、まるで隕石でも落下したかのようにクレーターが出来上がっている。


「ぐぅう……!」

「むんんんっ!!」


 それでも2人は押し合いをやめない。

 両者一歩も譲らない力比べだ。


「中々やりますね……!!」


 ゴリラが笑う。


「こちとらA級張ってんだ、それに……あの時誓ったんだよ、二度とモンスターに負けねえって! まあ、あんたがモンスターかは微妙だがな!」

「モンスターだろうと妖怪だろうとどう扱っていただいても構いませんよ、私は私ですから!!」

「――はっ、いいねえその我の強さ! あんた気に入ったぜ!!」

「私もですよ!!」


 ゴリラ二人は意気投合したようだ。

 熱い戦いである。


「ならば!」


 石川は一歩下がり、そして腰を落とす。


「ふううううううん!! 必殺ゴリラ張り手!!」


 石川が張り手を繰り出す。その一撃が東雲に直撃する!


 普通なら下手したら体が爆散しそうなほどの破壊力。しかし、東雲は動かない。受け止め――耐えている!


「まだまだあ!!」


 張り手の連続。


 その全てを東雲は受けきる!

 しかしこれではさすがに――


「おかしいぞ」

「どうした」


 見ている探索者たちが話す。


「東雲さんは確かに強い。S級探索者も夢ではないと言われている男だ。だけど、あのゴリラの攻撃をあれだけ受けて耐えられるものなのか」

「実際に耐えているじゃないか」

「そうなんだが――それにしては違和感がある。最初の激突の時ほどの破壊力の余波が無いんだ」

「そういえば――どういうことだ?」


 そしてそれは、当の石川も疑問に思ったらしい。張り手のラッシュを止め、声をあげる。


「――何故だ。確かに君は強い。しかし、私の張り手で倒せずとも……これだけの猛攻、土俵の外に押し出せるはずだ」


 しかし、東雲は動いていない。

 そして東雲は笑う。


「――俺は一度、手痛い敗北を喫した。

 デーモントロールっていうS級モンスターでな、歯が立たなかったよ。俺は修吾の偽物に助けられ、そしてその偽物の狐は修吾が倒した。

 上には上がいるって思ったよ、正直へこんだね。だってそいつは、スキルもない不適格者だぞ?」


 その話は俺も知っている。

 デーモントロールなんて、深層の魔物であり、探索者たちがパーティーを組み入念な準備をしてようやく撃退できるモンスターだ。


「こないだのSL銀河ダンジョンで、トラウマを見せつけるモンスターがいてな。俺は何を見せられたと思う? そう、デーモントロールだよ。俺はそいつと戦わされた。ああ、勝てるわけねえ。俺なんかが一人で勝てるわけがない……だけど俺は生きてここにいる、つまり勝ったってわけだ。

 どうやってだと、思う?」


 東雲は笑う。そして――攻撃を受けるため組んでいた腕を一気に、開いた。


「それは、これだ――【アイテムボックス】、収納解除!!」


 次の瞬間。


 衝撃が、解放された。


 東雲の手から解き放たれる、これは……まさに衝撃だった。そう、何かがぶつかるときの衝撃。


 これは。


「私の――張り手!!」

「そう、俺のアイテムボックスは、生物以外のあらゆるものを収納し取り出せる――そしてそれは、攻撃のダメージも収納できたんだよ!!」


 つまり今までただ耐えていたのではなく……張り手の攻撃を収納していたのか!!


 そんな使い方、聞いたことない。


「ぬううっ――!!」

「銀河鉄道で修吾とメシ食って話してたときに、あいつが気づかせてくれたのさ! おかげで俺は夢の中のデーモントロールを単独撃破できた!」


 そして東雲は、体勢を崩した石川のマワシを掴む。


「どっ……せぇぇええええええいっ!!!!」


 そしてそのまま――投げた。


「勝者、東雲山ぁぁッ!!」


 タガメが号令をあげる。


「うおおおおおおおおお!!」


 見守っていた探索者たちがわき上がる。


『おおおおおお!!』

『東雲ニキ勝利!』

『すげえ、ゴリラに勝った』

『あのゴリラただのゴリラじゃないぞ……それに勝つとか』

『名勝負!!』

『さすがS級目前!!』

『アイテムボックスって外れスキルじゃなかったっけ』

『強いな……』

『¥10000:夕菜ちゃんからアニキに渡して』

『アドバイスしたのキチクだって? キチクもすごい?』

『さすがだな』


 コメントも大いに盛り上がっている。

 先ほどの勝負がなんだこれ、だっただけに盛り上がりもすごい。


「……まさか、あんな力で私の攻撃を利用するとは。攻防一体の技、さすがです。最後の投げも見事でした」


 石川が笑う。東雲は手を伸ばした。


「あんたも強かったよ。正直、デーモントロールより強かったぜあんた。また戦ろう」

「……ええ。次は負けません」


 そして石川は東雲の手を握り、立ち上がる。


 マヨイガに、拍手が響いた。


 男と男の、戦士の戦いを讃える喝采だった。

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