第90話 第五関門 妖怪大相撲 第三試合 女の戦い
「ひがぁ~しぃ、夕菜ぁ山ぁ~」
ついにこのチャンネルの主役、藤見沢夕菜の出番だ。
服装は……ジャージの上からマワシという姿だった。
なんというか……うん、言わないでおこう。
『えっ……ださくね』
『いや確かに……素材がいいからかわいく見えるけど』
『実際に可愛いけど滑稽』
『見たくなかったこんな姿 ●REC』
『せめて水着にマワシとか』
『いや夕菜ちゃんそういうキャラじゃないから』
『うわぁああああああ』
コメント欄も大騒ぎである。
まあこういうのもアリだよね、というのが体勢をしめていた。
「あ、あはははー……なんかこういうの変な感じ」
「いや俺も確かにせめて水着とマワシとかしてほしかったけどな、つーか修坊にそうしようぜって頼んだんだけどよ、アイツなんてったと思う?
『やだよ、そんなんしたら藤見沢のファンに殺されるの俺だぞ』
だってさ! まったく日和りやがって。つーか水着にマワシってちょいえち衣装で相撲とらせたほうがお前らの修坊への好感度アップだろぉ!?」
エロ河童のタガメがそう問いかける。
それに対して夕菜ちゃんのファンの意見は決まっている。見くびるんじゃない。
『当たり前だ』
『キチクは判断を見誤った』
『これだからキチクはよぉ……』
『へたれやがって!』
『お前はもっとファッションセンスを磨け』
『男ならへたれるなよボケが』
『お前は判断を誤った』
『水着を強行してたら許したのに』
『俺達の友になれたのに……』
そう、皆心はひとつだったのに。
あとエロ河童のタガメ氏は俺たちの同志だと理解した。
「いやその、着ないからね!?」
『冗談です』
『夕菜ちゃんがそう言うなら……』
『まあ今はそういうイベントじゃなくてダンジョン攻略だしな』
『お前らちゃんとTPO考えろ』
『そうだそうだ』
『これだからキチクは……反省して?』
『戦いなんだしちゃんと肌を守る服装じゃないとね』
俺たちの掌はくるりと返された。
さて、夕菜ちゃんの対戦相手は……。
「にぃ~しぃ~、水面ぉ~海ぃ~」
四代目カッパおじさんの水面ちゃんだった。おなじくジャージにマワシだ。
「え……えっと、夕菜ちゃん、その……ファンですっ!」
そして彼女は夕菜ちゃんのファンらしい。
まあ女の子人気も高いしな。
「あ、うん。ありがとう!」
夕菜ちゃんはにっこりと笑う。
それに照れたのか水面ちゃんの顔が真っ赤になった。
「あの、わたし……」
「うん? なあに」
「ずっと憧れてましたけど……こ、今回だけは、負けませんっ!」
水面ちゃんはやたら気合いを入れているようだ。
憧れの相手だから……とはちょっと違う気がするな。何か個人的な理由というか思いでもあるのだろうか。
「それでは、見合って見合って、はっけよい、のこった!!」
タガメの声と共に、戦いが始まった。
「この戦い、どう見る」
「難しいな。藤見沢夕菜は元々、後衛で【聖歌】のスキルを使用してのサポートがメインの戦い方だ。一対一の戦いは得意じゃない。ふだんの攻略でも常にパーティーを組んでいる」
「じゃあ不利ということか?」
「いや、戦う相手……四代目カッパおじさんも、テイマースキルの持ち主であり、テイムしたモンスター……彼女の場合は河童を操って戦うタイプだ。やはり自分で戦うには向いていない」
「つまりどういうことだ?」
「今までの戦いのような、スキルを駆使した戦いではない……肉体と肉体のぶつかり合い、つまりただの相撲になるということだ!」
「それは……つまらない戦いということか?」
「いや……どうなるか、わからないということだ!!」
探索者たちが解説する。
確かに今までの戦いはスキルが決着の鍵となっていた。
しかし……どちらも直接対決には向かないだろう。
『歌いながら戦えばいいんじゃ?』
『それだと集中できないだろ』
『確かに。歌ってる間に攻撃される』
『じゅあ夕菜ちゃん不利じゃん』
『がんばれ』
『負けるな』
そして二人が激突する。
「……っ!」
二人はお互いのマワシを掴み、土俵の中央でせめぎ合う。
「……むっ!」
「どうした。何があった」
「よく見ろ」
「何をだよ!!」
探索者たちが二人の戦いを凝視しながら話す。
「相撲と言えば体と体のぶつかり合い、密着だ。まず、互いにマワシを掴み、相手を倒そうと引っ張り合っている」
「それがどうした……むむっ!」
「そうだ、食い込んでいる!!」
探索者が力説した。
「しかし、ジャージだぞ、厚手の生地のジャージでは、きわどさが無い!」
「だからだ」
「何がだ!?」
「ジャージだから素肌を露出していなくて、肌の輪郭も浮き出ていない、にも関わらず食い込んでいるのだ。どうくいこんでいるのかわからない、しかし食い込んでいるという事実だけがそこにある!!
さしずめ、箱を開けねば中身がわからぬシュレディンガーの猫!!」
「おお!! だ、だけど食い込んでいる事実は確定しているから違うのでは?」
「細かいことはいいんだ!! 見えにくくともわからなくともそこにある真実こそが全て!!
今、俺たちの目の前で、チャンネル登録200万越えの美少女インフルエンサーのマワシが引っ張られて食い込んでいるという事実こそがあるんだよバカ野郎があああ!!」
「ぐはっ!!」
「それに、見ろ!」
「……!! あれは!!」
「密着する二人の胸が、お互いをその弾力で弾き飛ばそうとせんばかりにぶつかっている!!!!」
「な……なんということだ!! これは男同士の相撲ではあり得ない!!」
「ああ……おっぱいとおっぱいの弾力の相乗効果が生み出す圧力の輪舞がこちらまで届くようだ……」
「この勝負、互いの膂力は互角……となると!」
「ああ、おっぱいの大きさが勝敗をわける!!」
彼らは何を言っているんだろう。
だが、事実だ――
二人の実力は拮抗している。
「んんんっ!」
「ふんんっ!」
このままでは決着は付かない。
いや――
「っ!?」
水面ちゃんの体勢が崩れた。
「どうした!?」
「ふむ、やはりそういうことか」
「どういうことだ」
「いいか、夕菜ちゃんの胸は確かに大きい方だ。しかしその分尻も大きい、いや全体的なプロポーションは良い。均整がとれている。
しかし対して水面ちゃんはどうだ。
まだ中学生なのにあの胸だ!
背は小さいのにアンバランスと言ってもいいほどの胸が、巨乳が体のバランスを崩している」
「! つまり……」
「ああ。後衛がメインとはいえ何年もダンジョンに潜り戦ってきた夕菜ちゃんはそれなりにしっかり鍛えていて体幹も出来ている。
しかしつい最近ダンジョンに潜るようになったばかりの水面ちゃんでは、身体のバランスという点で大きく異なるんだ。
特にあの巨乳を持て余している状態では、夕菜ちゃんに勝てる道理はない!」
「な、なんだと……では、胸の大きさが戦いの決め手になるというのは――」
「ああ、大は小を兼ねる――しかし大きいことは必ずしもすべてにおいて良しということじゃあない!
この戦いに限り――巨乳が仇となったか、四代目カッパおじさん――!!」
そして。
「……っ!」
夕菜ちゃんが水面ちゃんを引き倒す。
「う……あ……」
「……はぁ……はぁ……」
「勝負あり!! 勝者、藤見沢夕菜!!」
夕菜ちゃんの勝利が決まった。
「うおおおおおおお!」
探索者達が沸く。
『夕菜ちゃんの勝利!』
『当然』
『夕菜ちゃんの勝ち』
『さすが俺達のアイドル』
『やっぱり夕菜ちゃん最高や』
『おっぱいでかいだけじゃなく強いとか最強かよ』
『てか、相手の子も可愛いかった』
『ロリ巨峰……』
「勝ったぞ!」
「これで、3連勝だ!」
「やったー!!」
探索者たちが勝利を喜び合う。
そして夕菜ちゃんは……
「なんだろう、素直に喜べない……」
複雑そうな顔で勝利を噛みしめていた。
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