第87話 第四関門 クイズの間

 次の部屋にあったのは、襖のある部屋だった。

 ただし、その襖には、〇と×が書かれてある。


「これは……」

「なんだこれ」


「この襖を開けろってことか?」


 皆で相談していると、〇と×が書かれた襖とは別の襖が、すぅ……と開いた。


「ふ……ふふふ、ようこそ第三の関門にぃ……きひひ、みんなのアイドル、かわいいかわいい日狭女ちゃんでぇ……す」


 現れたのは、目に隈のある美少女だった。ヨモツシコメという妖怪だったっけ。


「この部屋は何なんだ?」


 探索者の一人が質問する。


「ここはですねぇ……ふふふ、見た通りに……く、クイズ部屋でぇす……」

『クイズだと?』


『これは予想外な……』

『脳筋探索者に知識問題とかwww』

『教授の独壇場かな?』

『西園ニキもいけそう』


 そうコメントが沸く。俺も何かコメントしようとしたら……しかし、書き込んだコメントが適応されなくなった。


 どういうことだ?


「あ、言い忘れてたけど……この部屋では今からぁ……コメント書き込み、できなくさせてもらいましたぁ……くひひ、リスナーさんたちの助けは無し、ね……」

「……そうか、ヒサメちゃんって妖怪Wi-Fi女……」

「そういうことも出来るのか」

「きひひ……そ、その呼び名は心外だけど……ま、まあ私ってそういう力、あるからね……じ、自分たちだけの力で頑張って……。

 あ、探索者さんどうしの協力は、ありだからね……ふ、ふふふ」


 そんな時だった。

 一人の探索者が発言する。


「いや、この部屋の探索者は配信見れないようにすればいいだけじゃない?」


 ……。

 確かにそうだよな。

 それで十分事足りるはずだ。


 探索者達が日狭女を見る。


「……では、第一問……」

「あっ逃げやがった!」

「誤魔化すな!」

「まあ別にどっちでもいいけどさぁ」

「もうちょっと効率考えようぜ」

「これ夕菜ちゃんの配信の妨害行為にならない? キチクが運営から怒られそう」

「い、いや私は大丈夫だよ? この部屋だけでしょ。それにリスナーのみんなも多分こういう時って別の所でミラーでやり取りしてるし」


 夕菜ちゃんがフォローした。確かにな。

 こういうリスナーたちはコメントしないと死ぬ生き物たちだもんな。


「で、では第一問……

“マヨイガダンジョンのマスター、キチクの本名は鬼畜修吾である、〇か×か”」


 ……。

 これは、難しいな……。

 俺は別画面の避難所チャットを見る。


『これ難しいぞ』

『鬼畜太郎じゃなかったっけ』

『キチ・クーだったかと』

『鬼畜五郎じゃ?』

吉田久太郎キチだクたろう

 畜之介チクのすけだろ』

『みんな好き勝手言ってるなwwwww』

『だって探索者って大体あだ名だし本名なんてなあ』

『いやまあそうなんだけどさ』

『でも普通に考えたら〇じゃない?』

『うーん』


 みんな悩んでいる。

 果たして真相は?


 探索者達は話し合い、思った方の襖を開けていく。

 〇に部屋に7名、×の部屋に54人だ。


「せ、正解は……×。ほ、本名は……えっと、なんだっけ。

 だけど旦那の苗字は鬼畜じゃなくて、リスナーにキチク呼びされたのが、定着……だったはずだよ」


 いや、お前も知らないんかい。


「き、きひひ……それでは〇の部屋の人は……脱落者ルームへ……ご案内……」


 そう言った瞬間。


 畳や襖、障子から大量の青白い手が突き破って生えてきた。


「う、うわああああっ!?」

「ひいいいいいっ!」

「あ……ああ……俺は何処へ連れて行かれるんだ……?」

「いやだああああああああっ!!」


 その手は、七名の探索者達を掴み……そして引きずり込んで消える。


 その部屋にはもう、何もなくなっていた。


 ……ホラーだ。


『怖いぃいいいい!?』

『ひぃ……』

『こんなトラップあったんだ』

『お化け屋敷じゃねーか』

『これホラー映画なら確実に死んでる奴やん』

『これは酷い』

『怖すぎる』

『えげつない仕掛け』

『こ、これがヒサメちゃんの能力なのか』

『妖怪Wi-Fi女こえぇ』

『これはダメ』


 コメントもみな震えている。


「き、きひひ……い、今のはちょっとしたサービス問題だから……次はもっと難しくなるからね……」


 日狭女が笑った。

 俺が探索者でなく視聴者でよかったと、心底思った。これは怖い。


「では第二問目……ででん。

“遠野の河童の色は他所とは違い黄色である。〇か×か”」


 ……。

 これは流石に、あの第一関門で河童と戦った探索者達は全員クリアした。

 遠野の河童は赤かった。


「ふ、ふふふ……さすがに簡単すぎたかあ……では第三問……

“遠野の名物であるジンギスカン、ドーム型のジンギスカン鍋に固形燃料で火を付ける方式をドーム式ジンギスカンという。〇か×か”」


 ……鍋?


 ジンギスカンってあれだろ、ラム肉の焼肉でしょ。焼肉に鍋? それじゃあ煮込み料理では?


『あ~……これどっちかな』

『なんか聞いたことある気がするけど思い出せない』

『ドーム型ってなんやねん』

『普通に考えれば×?』

『○っぽいよなぁ』

『俺もそう思う。確か〇だったはず』

『ぐぐってみたけど独特な形してんなジンギスカンの鉄板って』

『亀みたい』『これどっちだ?』

『△とか?』

『あー! これか!』

『知ってるけど忘れてた』


 コメント欄も盛り上がってきた。


「ふ、ふふ……さぁ……答えはどうなのぉ……?」


 そして探索者達は答えを選ぶ。

 〇の部屋に9人、×の部屋に45人。


 答えは……。


「せ、正解は……×でぇす……正しい答えは、バケツジンギスカン。バケツに固形燃料を入れて、その上に鍋を乗せるからだねぇ……」


 そして。


 〇の部屋から悲鳴が消え――9人がいなくなった。

 罰の部屋の襖が開き、また次の部屋に。


「さて……次の問題。

“キチクは今までモテたことが無く、付き合った女性は0人である。〇か×か”」

「これは簡単だな」

「うん、わかる」

「サービス問題だろこれ」

「ああ、これは余裕だな」


 探索者達が安心していた。いやまあ……うん、でしょうね。

 そして全員が〇の部屋に行った。


「み、みんなちょっとそれ……ひどくないかな」


 夕菜ちゃんがキチクを擁護する。しかし彼女自身も「キチクの付き合った女性0人」を肯定する〇の部屋にいるからな。


「だって学校でそんな雰囲気出してなかったし……いつも彼一人だったから」


 元クラスメートの太鼓判だった。


「ふ、ふふふ……いいの? もし旦那に一人でも女がいたら全滅だよぉ……?」

「大丈夫だ、俺たちは――修吾を信じてる。あいつは仲間に嘘をつくやつじゃねえ」

「うう、そうですね。短い間ですが共に戦いましたし」


 東西ブラザーズも太鼓判を押した。


「そうだ、俺たちはキチクを信じてる!」

「もしこれが×が正解だったら……何度でも何百回でも再挑戦して、キチクを倒すだけだ!」

「女の勘が言ってますわ! アレはモテないと!」

「そうだそうだ!」


 他の探索者達も声を上げる。


 なんだろう、きのせいだろうか。

 どこか遠くから、男のすすり泣きが響いた気がしたが……きのせいだろう。


「こ、答えは……〇! ぜ、全員正解ぃ……ふ、ふふふふそうです、旦那は今まで彼女、ゼロぉ……」

「よっしゃあああああああああああ!!!」


 探索者達が沸いた。


 そして次の問題、“キチクが配信者としてバズった時、有名人だからと学校で女子に告白された事がある。〇か×か”


 ×に全員行った。

 脱落者は0だった。


“キチクはダンジョン探索者として才能の無い不適格者とし言われたが、かつて天狗からも才能ないと言われ、太極拳のじいちゃんからも才能無いと言われた。そんなキチクだが、実は遠野伝統芸能のしし踊り、さんさ踊り、田植え踊りでは才能がある。〇か×か”


 ×に全員行った。

 だって踊ってる最中に衣装とか道具とか壊しそうだし。あいつダンジョンクラッシャーだから。


 当然のように脱落者は0だった。


“キチクはモテないというが、罰ゲームでなら告白されたことはある。〇か×か”


 これは回答が割れた。

 4人が〇に行き、51人が×。そして正解は×。4人が消えた。


「旦那は嫌われてたんじゃなくて、なんつーかぼっちだったからさぁ……認識もされてなくて……罰ゲーム対象にも……なりませんでした……くひひ」


 日狭女が言う。


『まあアイツ千百合ちゃんが配信に顔出すまで知られてなかったしな』

『俺は今回初めて知ったぞ』

『きっかけあると爆発するけどきっかけなかったら認知されないタイプ』

『まあ外見とか華無いしな、ブサイクとかじゃないけど笑えるわけでもイケメンでもないし』

『強いし戦ってると派手だけでそれ以外は地味』

『いろいろおかしいけどダンジョンだからおかしいだけだしな』

『遠野じゃ普通なんだろ』


 散々な言われようだった。


 そして、クイズは続いていった……。




 マヨイガダンジョン、第三の関門……脱落者、二十八名。

 残る探索者、三十三名。

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