第85話 第二関門 水虎池
扉が開く。
広がる光景は……池だった。
大きな部屋いっぱいに広がる池であり、岩が水面にいくつか浮いている。
あれを足場に進め……ということだろう。
「あの池を渡れってこと?」
「そういうことか……」
「まあよくあるパターンだな」
「よし、じゃあ俺から行くぜ」
探索者の一人が名乗り出る。そして軽快なステップで中盤まで進んでいく。
すると……。
「うわっ!?」
池の中から何かが現れ、探索者の足を掴む。
それは赤い子供のような……いや、あれは。
『カッパだ!』
『まじだ』
『カエルに見えた』
『いや河童だ』
そう、河童だった。赤い河童が探索者の足を掴み、そして群がっていく。
「キュウリよこせぇえええ」
「キュウリぃいいい」
「なきゃ尻子玉でもいいぞぉおおお」
「それもないならこっちこいいいいい」
そう河童たちが言って、探索者を池に引きずり込んでいく。
「う、うわあああああああ!!」
顔を真っ青にして絶叫する探索者。ホラーだな。
そして彼は池に吞まれて消えて行った……。
「……」
「……」
探索者達が絶句する。静寂に包まれる。
「え、えっと、さっきの人は脱落ということで脱落者ルームに送られただけで、死んだりしてないので……安心してくださいっ」
ふと、声が響く。
見ると、ひとりの少女がいた。
麦わら帽子にツナギ、釣り竿を持った中学生くらいの少女だ。
『カッパおじさんだ!』
『四代目カッパおじさんが来たぞ!』
『かわいい』
『結婚しよ』
『まあ夕菜ちゃんには負けるけど』
『いやでも四代目ちゃんの方がおっぱい大きいよ』
コメント欄も沸き立つ。
彼女がカッパおじさんである。名前は若生水面。
女の子なのにおじさんなのは……まあ称号のようなものだからな。
「こっ、こんにちは! 今回、キチクさんにお願いされてお手伝いすることになった、四代目カッパおじさんです、よっ……よろしくおねがいします!
ここには、カッパ淵や遠野の河川から来てもらった河童さんたちがスタンバイして、みなさんを全力で邪魔しますので……頑張って進んでください!」
緊張しているのか少し言葉がつっかえる。それがまた初々しく可愛らしい。
『カッパ淵とかあるんだ』
『遠野ってどこ?』
『東北かな? 秋田じゃない?』
『俺今度そこ行ってみようかな』
リスナーたちも興味津々の様子。
これは夕菜ちゃんのチャンネルだから、キチクと遠野を追ってる人は多いわけじゃないしな。
「河童たちが敵かよ……」
「厄介だな、普通のモンスターと違って殺しちゃダメなんだろあいつら」
「喋るしな……」
探索者達が戸惑う。
あの池の中に河童たちが蠢いていて、引きずり込もうとするというのは……予想以上に難易度が高いだろう。
その時、一人の男が動いた。
「……なあに、敵への攻撃でないのなら、スキルだって使用できる」
「どういうことだ、『
「こういうことさ」
そして鳴神は身をかがめる。見ていてわかる、全身の筋肉がばねのように、そして限界まで引き絞った弓の弦のように力が込められている。
「奥義・雷霆疾駆――!!」
刹那、彼の姿が消える。
「あれは!」
鳴神が――跳んだ。
【電撃】のスキルによる身体強化だ。それで20メートルを超える池を飛び越え――
「ぐべらっ!」
――ようとしたら、空中で水流によって撃墜された。
河童が口から水流を放出したのだ。まるでテッポウウオである。
「ああーっ! 鳴神ぃーっ!」
鳴神光一がそのままぼちゃんと池に落ち――群がる河童たちによって沈んでいった。
『そんな……ライトニングソードが』
『デデーン、アウトー』
『おいおいマジかよ』
『なんという無残な姿に』
『これはひどい』
「ええええええ!?」
思わず叫ぶ俺。
まさかここで鳴神が脱落とは……。けっこう推してたんだけどな。
マヨイガダンジョン、想像以上に恐ろしい所である。
「……くそ、一人ずついくから狙い撃ちされるんだ!」
「マッスルズたちの犠牲を思い出せ!」
「みんなで行くぞ!」
「おお!」
探索者たちが決意を固める。
そしていっせいに駆けだした。
水中戦が得意なスキルを持つ探索者には、あえて飛び込む者もいた。
「うおおおおっ! マッスルズたちよ、俺に力をぉおおお!!」
「「「応ッ!!!」」」
一人が雄たけびを上げながら飛び込み、そして河童たちに群がられる。
「あああっ、あああぁ~! お、俺が引き付けて間に先にがばごぼおっ!!」
「探索者A~ッ! くそっ、行くぞっ!」
次々と走る者、跳ぶもの、泳ぐ者。探索者達が進んでいく。
「河童相手には……キュウリだああっ!」
『
「キュウリだ!」
「あいつが持ってる!」
「キュウリくれえええええ!」
河童たちが大地に群がる。
「うわっ、くっ……来るなあっ!」
「キュウリいいいいい!!」
飢えた河童に群がられ、大地も池に引きずり込まれようとする。
「くそっ、やらせるか!」
それを探索者達が掴み、綱引きのように引っ張り合う。
だが数が多く、徐々に引きずられて行った。
「ぐううっ……! こいつら、力が強ぇ……!」
「このままでは……!」
その時、一人の少女が動いた。
「見ていられませんわね……!」
その少女は、『
何をする気だ?
「――吹雪よ!」
彼女が扇子を振った瞬間、冷気が吹き荒れる。
「ギイイイイイッ!?」
「さむぅうううっ!」
それは池を凍らせ、河童たちの動きを封じた。
「今ですわ!」
「おうっ!」
動けなくなった河童たちを尻目に、探索者達は凍り付いた池を進んでいく。
『さすが氷属性のプリンセス』
『つよつよ』
『かっこいい』
『惚れそう』
『抱いて!』
『流石A級探索者ですわ』
コメント欄も大盛り上がり。
アイリ様の人気もすごいな。
「ふふん♪ これくらい、わたくしにとっては朝飯前ですのよ?」
彼女が勝ち誇る。すると……。
『デデーン、アウトー』
そんな声が響き、天井から水が落ちてきて、アイリに降り注いだ。
『危険行為でイエローカード。危険行為三回でレッドカード、退場でーす』
「そんな、殺してませんわよ!?」
『殺してはいないのですが攻撃にカウントされます。河童を直接凍らせなかったらセーフでしたー』
「なんて理不尽な……ッ」
悔し気に顔を歪めるアイリ様。
「これだから田舎は嫌いですわッ! おのれキチクッ!!」
「あ、あはははドンマイ。助かったよアイリちゃん」
夕菜ちゃんがアイリ様に声をかける。
「情けは無用ですわ藤見沢夕菜ッ! わたくしと貴方は永遠のライバルですのよ! 気安く話書けないでください!」
「うん、ごめんね。じゃあ、行こう!」
そして探索者達は進む。
マヨイガダンジョン、第二の関門……脱落者、二十二名。
残る探索者、七十二名。
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