第70話 三両目のデュラハン
「やったか!?」
『アニキそのせりふだめーっ』
『それフラグ』
『やwめwろwww』
『復活しちまう!!』
優斗さんの台詞にコメントが騒然とする。
しかし、死神は消滅したままだ。
「ふ、ふひひ……死の気配、遠のいてるし、少なくとも……あの骸骨、し、しばらく出てこないと思うよ」
日狭女が言う。彼女がそう言うのならそうなのだろう。アンデッド探知機みたいなもんだしな。
「……し、失礼なこと……考えて無いっすか、旦那」
「ないよ」
即答した。
「二人とも、見事な連携でした」
俺は二人を素直に褒める。正直、加勢に行くべきか迷ったけど……行かなくて正解だった。
二人とも圧されているように見えたけど、目は死んで無かったからな。
しかし流石はA級探索者のコンビだ。コンビネーションは抜群だった。
「ま、中々強かったけどよ。さっきも言ったが、そう何度も無様なところ見せられねえしな。汚名挽回って奴だ」
「それを言うなら名誉挽回、あるいは汚名返上ですよ」
「んだよ満月、細かい事言うなっての! 意味は通じるだろ」
「はいはい、言いたいことはわかりますけどね」
西園さんはため息をつき、銃をしまう。
「そんじゃ、次の階層……じゃなかった、車両に行きましょー!」
藤見沢が元気に言った。
異存は無い。
俺たちは、ドアをくぐり、次の車両へと進んだ。
◇
「ヴアアアアアアアアア」
「オガアアアアアアアアアアア」
「グゲアアアアア」
俺達を出迎えたのは、ゾンビたちの群れだった。
いきなりの熱烈歓迎である。
「くそ、ちょっとは休ませろよ!」
優斗さんがぼやく。ついさっきまでボス戦してたしな。
そりゃ疲れてるだろう。
「優斗、大丈夫ですか?」
「ああ、まだ行けるぜ!」
西園さんの言葉に優斗さんは力強く答える。
「よし、行こう!」
「ええ!」
「おう!」
そして、戦闘が始まった。
「オラァ!」
優斗さんが先頭のゾンビに向かって剣を振るう。
一撃で首が吹き飛び、倒れる。
「せいっ!」
西園さんが銃撃を放つ。弾丸は次々にゾンビたちを貫いた。
「ふんっ!」
俺も負けじと殴……ろうとして考え直し、蹴飛ばす。
だって俺素手だもん。流石に腐ったゾンビを素手で殴るのは抵抗ある。蹴り飛ばしたゾンビたちは後続を巻き込み倒れていく。
「うおおお!」
そして、優斗さんがまた一人倒したところで、全てのゾンビが消滅した。
「ふぅ……」
「はぁ……なんとか終わりましたね」
「ああ、でもこいつら、やけに多かったな」
『おつかれ』
『乙』
『おつ』
『おつ』
『いい戦いっぷりだったぞ』
『よくやった!』
『キチクだけ必死にゾンビに触らないようにビビっててワラタ』
『あいつの出番イラネ』
コメント欄からも労いの声が上がる。
俺にだけ厳しいけど、まあこれ俺のチャンネルじゃないしそんなもんだろう。
「さ、先に進もう」
「だな」
「そうですね」
俺たちは進む。この車両も結構長い。
しかし、元が汽車なので入り組んだ迷宮にはなっていない一本道なので、助かると言えば助かる。
「次の敵がきたよ!」
藤見沢が言う。
それは骸骨の群だった。
「前の車両が非実体の亡霊たちで、こっちは実体ありということですか!」
西園さんが言う。
彼は武器が銃だからな。骸骨は不得手ということだろう。
となると、ここは俺ががんばらないと行けないな。
「ぜりゅあああっ!」
俺は拳を振るう。
殴る。
蹴る。
どつく。
投げる。
潰す。
次から次へと沸いてくる骸骨たちを次々と倒していく。
一体一体は強くないけど、これ……物量って本当につらいな!
剣だとやりにくいので素手に変えた優斗さんも戦っているが、彼は死神との戦いの疲れも残っている。
ここは俺がなんとかしないと!
「お、おい何を?」
優斗さんが言う。俺は通路の座席を掴んだからだ。
何をって……こうする!
「ふぐうりやああああああっ!!」
俺は座席を持ち上げる。車両に固定された座席はべきべきと音を立てて壊れながら持ち上がった。
「どっせぇぇえい!!」
力任せにぶん投げる。
それは一直線に車両の中心を飛んでいき、道中の骸骨たちを巻き込んでいった。
「……よし!」
「いや、むちゃくちゃしますねあんた!」
西園さんが言う。
「……俺も悩んだんだ。このダンジョンが元に戻ったとき、この座席が元に戻るのか壊れたままなのか……」
「いや考えるところそっちかよ」
優斗さんがつっこんだ。
だけどダンジョンクラッシャーとか不名誉な名前で呼ばれまくってる俺としては、結構気にするところです。
『何を見せられてるの俺たち』
『優奈ちゃんの配信だよねこれ?』
『なんという力業』
『えっと……何これ?』
『キチクの常運転』
『キチクさあ……せめて他人様の配信では自重しようぜ』
不評だった。
しかし仕方ない。正直今回は映像として映える戦いを見せるより、一刻も早くこのダンジョンをクリアしないとやばいのだ。
「……と、次の扉だね」
千百合が言う。
しかしパターンでいけば、このまま通りすぎる事が出来るとは思えない。
そしてやはりというか、案の定というか……。
「……いる、ね……ひひひ」
アンデッド探知機もとい日狭女が反応する。
そして……闇が凝縮した。
そこに現れたのは……馬に乗って、鎧を着た、騎士だった。
ただし……首がない。
「デュラハン……!」
有名な西洋の怪物だ。
「――――」
デュラハンは剣を構える。
さて……。
「優斗さん、西園さん、今回は俺がやります」
「お、おい……!」
「まだ二両目、先は長いしローテーション組んで効率的にやりましょう。それに……」
俺は笑う。
「こういうパーティー組んで連携するのってめっちゃ憧れてたんで」
正直な本音だ。ずっとぼっちだったしな。
千百合たちと出会った後も、基本はソロみたいなもんだったしな。
「……わかりました、ここは任せます」
西園さんが言う。
「ただし条件があります」
「何ですか?」
「さっきから優斗の事は名前だけど私は苗字ですよね、それって格差あるようでどうにも気に入らないんですよ」
「……いや、それは……すでに東雲さんって姉のほうそう呼んでるんでややこしくて。じゃあ満月さんって呼ばせてもらいます」
「お願いしますね、修吾くん」
西……いや満月さんが笑う。
「はいはーい、じゃあ私もちゃんと優奈って」
「それは断る」
「えー!」
俺はね、命が惜しいの。200万人のファンを敵に回す気は無いんだよ。わかれよ。
今もモニター越しに憎悪の念をめちゃくちゃ感じる。怖いわ。
「……来る!」
デュラハンが剣を振るう。俺はそれを回避する。
かすった俺の髪の毛が舞う。かなり早い!
デュラハンはそのまま連撃を繰り出してくる。くそ、あんな重そうな鎧のくせになんて早さだ!
優斗さんと満月さんのように二人がかりでなら……いやしかし、千百合や日狭女に戦力を期待するわけにはいかない。
藤見沢? そりゃA級だし強いんだろうけど、ここで一緒に戦ったら俺がいろんな意味で死ぬので絶対にありえない。
となると……。
「カムパネルラ! 協力してくれ!」
探索者のふりをしてダンジョンを渡り歩いてた人だ、戦力になるだろう。
それに……。
「私ですか?」
「ああ。敵を知り己を知れば百戦危うからず。相手は首なし騎士、だったらあんたと戦うのが一番いい!」
「それはどういう――」
「こういうことだ!」
俺はカムパネルラを掴む。
「えっ?」
そして跳躍する。相手は素早いが、この狭い車両だ、動きは制限されるしパターンはつかめた。
俺は壁や椅子を跳躍し、デュラハンに迫り――
「首なし騎士には、首しか無しだ!!」
カムパネルラは飛頭蛮だ。首だけの存在。
その首を――デュラハンの首にシュート!!
「えっ」
「えっ」
「えっ」
『えっ』
『えっ』
『えっ』
『えっ』
皆の声とコメントがハモった。
しかし気にしてはいられない。
「――!?」
デュラハンは慌てている。それはそうだ、今まで首がなかったのに急に首が出来たのだ、混乱するだろう。
それが狙いだ!
「ぬおおおおおっ!!」
そして俺はもう一度、座席を引っこ抜く。
今度は投げるのではなく、鈍器として……
「ぜああああああああっ!!」
全力で、デュラハンにたたき込んだ。
「――――!!!!」
デュラハンが声無き声をあげ、そしてその胴体が潰れ、血が吹き出す。
そしてデュラハンはその場に倒れ――動かなくなった。
「……ありがとうカムパネルラ。見事な連携だった」
『れん……けい?』
『連携とは一体』
『仲間を何だとおもってんだコイツ』
『カムパネルラ必要だった?』
『最初からそうやって殴り潰してればよかったのでは』
『やっぱこいつに頭脳プレー無理だろ』
『デュラハンに飛頭蛮を乗せる意味とは』
『草も生えねえ』
『なんだこれ』
『キチクさあ……』
不評だった。
なんでだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます