第69話 四両目の死神
「さあ、まずはこの車両を突破だ!」
優斗さんが剣を担いで言う。
その言葉に呼応したわけではないだろうが、再び座席の隙間、影から亡霊たちが湧いて出た。
「行くぞ!」
優斗さんは言う。俺達は武器を構え、影から出てくる亡霊たちを迎え撃つ!
「前衛は俺と菊池、あとは後ろだ!」
優斗さんが号令を放つ。俺達はその指示に従い、隊列を組む。
前衛の俺と優斗さんが前に立ち、後ろから藤見沢と西園さんがバックアップする。
こうすることで亡霊たちに襲われるリスクを分散し、戦力的に優位な状態を保てるのだ。
なお千百合たちは戦力外とする。
というか千百合たちは普段はカメラマンやってもらっているが、今回は藤見沢のドローンカメラがあるからマジで出番無いな。
「ぉああああ……!」
亡霊たちが襲い掛かってくる。しかし、俺達はそれを迎え撃つ。
優斗さんは剣を振り下ろし、俺は拳で殴りつける。
亡霊たちは悲鳴を上げて消滅するが……それを上回る速度で湧き出てくる!
「キリがないな!」
そして俺達が撃ち漏らした亡霊を、西園さんが銃で撃つ。
「まあ、スタンピードに比べたらまだマシですよ!」
西園さんが言う。
「そっすね!」
俺は走り、飛び掛かってきた亡霊に回し蹴りを放つ。いやこれマジで回らないと倒せねえな!
俺の回し蹴りで吹き飛ばされた亡霊が、さらに他の亡霊を巻き込んで消える。
優斗さんは剣を振るい、周囲に群がる影の亡者どもを切り払う。
「おらよ!」
俺達はひたすら襲い掛かってくる敵を倒し続け、少しずつ進んでいく。
そう、少しずつである。
そしてこの車両、なんか異様に長い。
いくらダンジョン化してるとはいえ、ひとつの車両で数百メートルはありそうな長さの車両ってどうよと思う。
「しっかし、この車両ってどこまで続いてるんだろうな?」
優斗さんが走りながら言う。
「さあ、どこなんでしょうね」
西園さんも走りながら答える。というか銃を撃ちつつ走っている。動きに一切無駄がない。
「私の知っている銀河鉄道はここまで長くなかったのですが……」
カムパネルラが言う。まあダンジョン化で変貌しているわけだしな。
「……あ、なんか見えてきましたよ?」
「ほんとか!?」
「ええ」
そう言って藤見沢は指をさす。
俺達はそちらを見る。するとそこには、次の客室に通じる扉が見えてきた。
「ようやくか……」
扉そのものに変哲は無い。
しかし……。
「……なにやら嫌な雰囲気ですね」
西園さんが言う。確かにそうだ。
気付けば、さっきまで鬱陶しいほど沸いていた亡霊たちの姿が無い。
それはなんというか、嵐の前の静けさのような……不気味な静謐さだ。
「ふ、ふふふ……嫌~な感じ、するよ……」
日狭女が言う。
「し、死の気配……すっごい濃厚な……死の気配がある」
「それはどういうことだ?」
俺の質問に、日狭女は笑う。
「……さ、さあ。わ、私の知ってる、連中とは違うタイプだけど……ま、間違いなく、冥府の者が、い、いる……」
その言葉に、みんなが周囲を警戒する。
「ボスがいるってことかよ」
「いわゆる階層ボス、というやつですね」
そして、俺たちが注視する中、それは現れた。
冷気が、瘴気が、闇がゆっくりと凝縮していく。
それは黒い穴のようになり、そしてそこから……ぬっ、と青白い腕が生えた。
それは、長く強大な鎌を持っていた。
ばさり、とボロ布のようなマントがはためく。
その姿は、まさしく……。
「死神……」
そうとしか形容できないものだった。
「へっ、コテコテのステレオタイプだな」
優斗さんが呟いた。
「……」
死神は無言で俺たちを見つめている。
俺たちもまた無言で見つめ返す。
お互いの出方を伺うような沈黙。
「……菊池、お前は下がってお嬢たちを守ってろ。コイツは、俺と西園でやる」
そして、最初に動いたのは優斗さんだった。
「おおっ!」
気合いと共に優斗さんは駆け出し、死神に向かっていく! それを見てか、死神は鎌を大きく振りかぶった。
「はぁ!」
優斗さんは剣を横薙ぎに振る。剣から放たれた衝撃波が死神を襲う。
だが、それを死神は大鎌で受け止める。
「ちぃ!」
優斗さんは舌打ちし、さらに剣を振り続ける。
その攻撃全てを、死神は大鎌で受け流す。
そして、一瞬の隙を突いて、優斗さんの懐に入り込んだ。
「ぐぅ!」
優斗さんはその一撃を剣で受けるも、衝撃を殺しきれず吹き飛ばされる。
「優斗さん!」
俺は叫ぶ。しかし優斗さんはすぐに立ち上がり、体勢を整える。
「優斗、大丈夫ですか!?」
「問題ない! それよりも……」
「ああ、わかっています!」
二人は互いに声を掛け合うと、再び構える。
「……なるほど、強いな」
「ええ、そうみたいですね」
優斗さんが呟き、西園さんが答える。
「だけど、前の時のような無様はしねぇ」
「ええ、あれからあまり時間はたっていませんが……屈辱をバネに、特訓しましたからね」
彼らが言っているのは、東京のダンジョンでデーモントロールと戦った時の事だろう。
「行くぞ!」
「行きますよ!」
二人は同時に動き出す。
そして、激突した。
「はあああ!」
激しい剣戟が繰り広げられていく。
剣と鎌がぶつかり合い火花が散っていく。
「ふっ!」
優斗さんが剣を横に振る。死神はそれを後ろに飛んで避ける。
「そこ!」
そして、そこに西園さんが銃撃を放つ。
弾丸は一直線に死神に向かう。しかし、死神はそれを躱す。
さらに、右手に持つ鎌で斬りかかる。
「させっかよぉ!」
そこへ優斗さんが割り込み剣で防いだ。
さらに二人の攻防が続く。
優斗さんが剣を振るえば、西園さんが銃弾を放つ。
西園さんが銃を構えれば、優斗さんが死神に切り掛かる。
どちらも一歩も引かない互角の戦いを繰り広げていた。
「……凄いな」
思わず声が漏れてしまう。
「うん、す、すごい……」
日狭女も呟く。
「でも……」
千百合も呟いた。
「……このままじゃ」
藤見沢が言う。
「長くは続かなそうね」
「……ああ」
俺は彼女の言葉にうなずく。
二人とも、徐々に動きが悪くなっているからだ。
「はあ、はあ……」
「くっ……」
二人の息が上がり始めている。それはつまり、スタミナ切れが近いということだ。
「優斗、もう限界です! 一度引きましょう!」
「くそっ、もう少しだけ粘らせてくれ……!」
西園さんの言葉に優斗さんは首を振る。
しかし。
死神の優勢は変わらない。
攻防の末、優斗さんは壁に叩きつけられ、膝をつく。剣が床に落ちる。
「優斗!」
「……っ」
そして、死神が髑髏の顔を歪ませ、笑った――気がした。
勝利を確信した死神は、鎌を振りかぶり――
「――隙ありぃ!」
優斗さんは、膝を付いたまま――立てた膝に、肘を振り下ろし、膝と肘で鎌の刃を受け止めた!
無茶な体制だが……なんというか、彼らしい。
「……っ、捕まえ……たぜえっ!!」
そしてそのまま――もう片方の手の手刀で、鎌を叩き割った!!
すごいな、まるで空手家だ。
そして、その隙を――西園さんは見逃さなかった。
「【魔弾】――破邪三式!!」
西園さんの銃口が火を噴き、強力な魔力弾が放たれる。
三発放たれたそれは、弧を描いて死神の脳天、首、胴体を貫き――砕いた。
「ギアアアアアアアアッッッ!!!!」
初めて死に神が声を上げる。それは断末魔の悲鳴。
鎌を残して、死神は――消滅した。
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