第65話 幽霊って普通に殴れるよ

「っ!」


 俺達は最後尾の客車に飛び乗った。


「っつつつ……みんな無事か?」

「ああ、なんとか無事です……」


 優斗さんと西園さんが言う。千百合たちも無事なようだ。


「運転手さんは離れててください! 何かあったら連絡します!」


 俺が叫んだ言葉に、運転手さんは頷き、線路から降りていった。


「さあ、こっからどうする?」


 優斗さんが言う。その質問には、藤見沢が答えた。


「当然、探検!」


 ですよね。まあわざわざ乗り込んだんだしな。


「ま、さすがに調べないとな、こういうのは。これ、深夜だけならいいけど、もし昼間とか……普通の電車が動いてる時間に勝手に走ったりしたら、大惨事だからな。原因は突き止めないと」


 俺は言う。


 この汽車が本物である以上、狐や狸の偽汽車のように、化けてる妖怪がぺちゃんこになりましたおしまい、ではすまされない。


 下手をしたら大量の死者が出る大事故になりかねないのだ。

 妖怪は夜に動く……しかしこの現代社会では、夜は妖怪たちだけの時間ではない。

 不幸な大事故が起きてしまう前に、なんとかする必要がある。


「菊池……お前、真面目なこと言えるんだな」

「俺をなんだと思ってやがるんです!?」


 優斗さんがめちゃくちゃ失礼なこと言ってきた。


「いやだってよ、お前ネットでキチクキチク言われてるし、普通に鬼畜なのかなーって」

「泣くぞちくしょう」

「ははっ、わりーわりー冗談だよ。何にせよ俺も全く同意見だ。

 こういった事件を未然に防ぐのもダンジョン探索者の使命だからな!」


 優斗さんが言う。さすが頼もしいな。


「そうはいいますけどね、私たちが力を発揮できるのは、ダンジョンだけだというのを忘れないでくださいねそこの脳筋二人」


 西園さんが言ってきた。いや一緒にされても困るんですが。


「あっ……」


 そして藤見沢が言う。こいつもか。


「脳筋が三人でしたね、失礼」

「はっ。スキルとかなくったってよ、気合いと根性とやる気がありゃなんとかなるっつーの!」

「そうだそうだー!」


 優斗さんと藤見沢が言う。

 まあ、それについては賛成だけど。俺だってスキルなしでずっとやってこれたわけだし。


 さて……。


 俺たちは改めて客車を見る。

 普通の、レトロな感じの客車だ。いかにも昭和の機関車というかんじである。


「おお、雰囲気あるなー」

「なかなかのものですね……」

「うーん、こういう感じ私は好きだなー」


 そう言いながら俺たちは進む。


「……あっ、あそこ」


 藤見沢が指さす先には、座席に座っている乗客の姿。


 客、いるのか。


「もしもーし! 私たち、今配信ているんですけどお話いいですかー?」


 そして藤見沢が話しかけていてた。

 危機感とか無いのかお前は!?


『いきなり話しかけたwwww』

『俺もインタビュー受けたい』

『相手人間?』

『さすが優奈ちゃん躊躇ない』

『グイグイいくなあ』


 コメント欄も盛り上がる。平常運転なのか。


 そして……。


「……」


 話しかけられたお客さんは、藤見沢を無視した。

 いや、無視なのか?


 これは……。


「気づいてないんじゃない……でしょうか」


 俺の頭の上で、子狐モードの鈴珠が言う。

 確かにそんな感じだ。


 それなんというか……


『ん? その人なんかおかしい』

『確かに……』

『なんか薄くね』

『髪が?』

『いや……』


 コメントでも気づいた人がいるようだ。むしろカメラ映像を通しているからだろうか。

 俺も見たことある、あれはおそらく……。


「し、死者……だね」


 日狭女が言う。やはりそうか。


「え……?」


 藤見沢がきょとんとしている。


「ああ、水タバコって奴!」

「それはシーシャですよ」


 西園さんが注釈した。


「……銀河鉄道の夜では、銀河鉄道は……」


 死者の魂を運ぶ列車だった。

 ということは、これも……。


 そう思った時だった。


「……来るよ!」


 千百合が言う。


 何がだ、と言う前に……「それら」は現れた。


 壁、床、天井から。


「う、うわっ!?」


 それは、そこの乗客と同じでいて、しかし明らかに違う存在。

 半透明の透けた身体、苦悶に歪んだ顔。


 ――亡霊だ。


 亡霊たちが這い出てきている。しかも明らかに敵意がある!


「う、うわわわわわあっ、お化けえっ!?」

「くそっ、マジかよ!」

「ここはダンジョンじゃないんですよ、死霊系モンスターの相手なんて……」


 三人が慌てる。確かにダンジョン探索をメインでやってる人たちには、ダンジョン外で亡霊と会うのはなれてないんだろう。


 だけど……。


「どっせえいっ!」


 俺は彼らの前で、亡霊をぶん殴る。ちなみに襲ってきた亡霊の方だ。


 殴られた亡霊は、そのまま顔をひしゃげさせて消える。


「殴ったあ!?」

「菊池君、霊感があるんですか? 霊能者だったんですか!」

「いや、違う!」


 俺は説明する。

 幽霊は触れない、殴れないと多くの人が思ってるけど違うんだよ、実は。


「幽霊ってそもそもなんでしょうか、はい藤見沢!」


 俺は指を指して言う。


「えっ!? ええと、死んだ人間……だよね」

「はい半分正解半分不正解。優斗さん!」

「お、俺か!? えっと……なら、死んだ人間の霊……だよな」

「はい、そうですね! 死んだ人間の霊は、死体から抜け出して亡霊……幽霊や怨霊になります!

 では続いて第二問!」


 俺は亡霊を蹴飛ばしながら言う。


「死んだ人間から霊体が抜けて幽霊になります、では生きてる人間には霊体はないのでしょうか? 西園さんお答えください!」

「そりゃあ、あるでしょう。生き霊という言葉や、幽体離脱という話も……あっ」


 西園さんは気づいたようだ。

 そう、そういうことだ。


「……もしかして菊池君。あなた、「肉体に霊体が入ってるんだから肉体でも触れる」と言ってるんですか?」

「そうですよ!」


 自明の理だ。むしろ触れない理由がないと思う。

 それに生きてるってことは肉体のエネルギーもある。

 計算式にしてみると、肉体+霊体>霊体のみ、だ。


 生きてる人間の方が普通に強くないか?


「あ、あなたは馬鹿ですか、そんな理屈がなんで通じるんです!?」

 ……西園さんは納得いっていないようだった。


『何言ってんだコイツ』

『頭おかしくなった?』

『夕菜ちゃんにいい所見せようとしてテンパってる』

『馬鹿じゃねーの』

『もういいから黙れ』

『でも殴れてるぞこいつ』

『夕菜ちゃんファンへ。これがキチクですまともに考えたら駄目』


 コメントでもさんざんな言われようだった。


「怖がってるから、霊には触れないっていう認識……思いこみがあるから無理なんですよ!」


 俺は言う。実際、昔の俺もそうだった。触れないものとばかり思ってたからな。


「そんな理屈が通じるなら、世に霊能者なんて必要……」

「マジだ、そう思ったら殴れるわこいつら!!」


 優斗さんもしっかり殴ってた。


「……そうでした、脳筋でしたねえ!!」


 西園さんが嘆いていた。

 まあ、パラダイムシフトって奴か。


「わっ、私には無理だよおっ!」


 藤見沢が叫ぶ。まあ仕方ないか。


「んじゃ、お嬢は歌でも景気よく歌っといてくれや、いつものように!」


 優斗さんの言葉に、藤見沢しうなずいた。


「う、うん。いつものように……って、ん? あれ?」

「どうした!?」

「ち、ちょっと待って……まさか、ううん、やってみる!」


 そして藤見沢は歌い出す。


 次の瞬間。

 不思議なことが起きた。


 光だ。


 藤見沢の歌と同時に周囲が淡く清浄な光に包まれる。

 そして、それに触れた亡霊たちが……消滅していったのだ。


「こ、これは……鎮魂歌!? まさか、【聖歌】のスキルですか!? しかしここは……いや」


 西園さんは、懐から拳銃を取り出した。


 そして……撃つ。

 魔力が込められた弾丸は弧を描き、亡霊を貫き、消滅させた。


「……私の【魔弾】も発動した……亡霊が出たし、もしやと思いましたが……」


 西園さんが確信をもってつぶやく。


 そう、ダンジョンスキルは……【テイミング】などのダンジョン外でも効果が持続するタイプをのぞき、ダンジョンでしか使えない。


 それが使えるということは……。


「この蒸気機関車は……ダンジョン化している……!」


 動くダンジョン。


 それが、このSL銀河だった。

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