第50話 大炎上
「なんっだぁあこれはあああ――――――ッッッ!!!!」
俺は絶叫した。
いやマジでなんだこれ!
学校に登校してたらやけにみんなが俺を見る。今までの比ではなく。
好奇、奇異、尊敬、侮蔑、嫌悪、驚愕――そんな様々な視線と声。
友人の小鳥遊が、「そっかあ……ついにやっちまったんだな……」と言って動画を見せてきた。
何だろうと思ってみて見たら……
「何だよこれ! 俺はこんなことしてねえよ!!」
俺が昨日、東京のダンジョンで有名美少女探索者を救出し、全裸を見せつけ、眼前で尻子玉を抜いて食べさせた動画だった。ふざけんな!
ちなみに配信のアーカイブはすぐに消されたが、切り抜き動画がモザイク処理されて出回っている。ひどい! というかそもそもどうしてこんなことになったのか?
俺が教室に入るなり、クラス中がざわついた。そして、クラスの奴らが一斉にこっちを見たのだ。まるで珍獣でも見るかのように。
「おい……あれって」
「うん……まさか、な」
「でも本人っぽいよな?」
「やっぱそうだよな?」
「本物?」
「だとしたらやばくない?」
「やばいよな」
「キチク……」
……という感じのヒソヒソ話である。
「……」
俺が彼らを見ると、一斉に顔を背ける。
傷つく。
「俺じゃねえよ! マジで俺じゃねえ!」
「やった奴はな、みんなそう言うんだ」
小鳥遊が言う。
「いやよく考えろよお前ら! これ昨日の夜の話ってあるけど、今! 遠野にいる俺が! なんで昨日の夜に東京にいるんだよ! 夜に新幹線とか動いてねえしどうやっても戻ってこれねえだろ!」
俺は叫んだ。
「お前なら一晩で歩いて戻ってこれるだろ」
「出来るかよ! 俺は人間だから無理だ!」
「説得力って知ってるかー。もう何言っても無駄だろこれ。いやお前は俺を信じたいよ?」
「そこは信じたいじゃなくて信じるって言えよ! ああああなんだよこれ!」
俺は頭を抱えた。
「どうすんだよこれから……」
「まあ、なるようになるんじゃね?」
「他人ごとだと思いやがって……」
「実際他人事だしなあ……」
「ぐっ……」
反論できない。
「まあいいじゃん、ただでさえお前ってもう有名人だったんだし。ますます有名になっただけだと思えば」
「思えるか! 俺がやりたかったのは、みんなに勇気と元気を与える楽しい配信だよ!」
東京で俺が友人も無く、孤独に暮らしていた時、そんな俺を救ってくれたのは配信者の動画だった。反応をくれて、配信者とリスナー、リスナー同士で交流してわいわいやる一体感。それに俺は癒され救われた。
だから俺も配信を始めたのに……
「なんでこんなことになったんだよ!」
「脱ぐからだろ」
「脱いでねえっつってんだろ!!」
俺は叫んだ。
◇
昼休みは職員室に呼び出された。
俺はやってないと必死に弁明した。
「きっと妖怪の仕業です」
「まあ……妖怪ならそれくらいするかもしれんが……」
先生たちは納得してくれた。
妖怪の仕業ってだけなら無理だっただろうが、昨日の夜に東京のダンジョンにいて今朝学校の登校してくるのはやはりおかしいという言葉に賛同してくれた。
そもそも昨日も俺は普通に学校に来ていた。学校を終わってから電車で向かっても、新幹線使っても最短で九時到着だ。時間的におかしいのだ。
妖怪の仕業としか考えられない。
そういうことで先生たちからは解放されたが、しかし生徒たちの視線は明らかに俺に対して冷たいものになっていた。
この空気はまずいぞ……。どうにかしないと……。
そう思いながら午後の授業を受けるが、授業に集中しようにもクラスメイトたちの視線が気になって仕方がない。
結局、居心地の悪さを感じながら一日を過ごす羽目になったのであった。
帰宅した俺はそのままマヨイガへと向かう。
そして千百合たちに事情を話した。
大爆笑された。
「笑いごとじゃねえよ!!」
「い、いやごめん、確かにそうだけど……うーわ、これひっど」
「ふ、ふひひ……なんか登録者数昨日何もしてないのに増えてると思ったら……これだったんだぁ……うひひ」
「……ものすごいメッセージ来てますよ……」
SNSも凄い事になっていた。エロアカウントからも凄い量のメールが来ていた。ふざけんな。
「とにかく雑談配信で釈明だ。俺はやってないとしっかりと宣言しないと」
そして俺は配信を開始した。
『キチクキタ――――――!!』
『変態だーーーーーーーーー』
『なんだあれ昨日の』
『見損なったぞキチク』
『いつかやると思ってたぞ』
『キチク乱心』
『やべぇ…やべぇよ…やべぇ…』
『夕菜ちゃんのチャンネルから来ました。ふざけんなボケカス』
『何してくれてんだ変態』
『警察に通報したからな』
『えぇ…キチクついにおかしくなってしまわれたか』
『キチク吹っ切ったか』
『なんなのだこれは、どうしたらいいのだ』
『お巡りさん、あの人です。ガチで捕まえて下さい』
『ついにキチクの真の実力が世界に明らかになったのか!』
『何があった?予想が立てられない』
『家に行ってぶっ〇してやるぞ覚悟しとけ』
『震えて眠れ』
『↑おっマヨイガ攻略宣言?』
『キチク討伐隊結成!』
……といったコメントが怒涛のように流れる。
「え、えーと。昨日の話は俺も今朝知りました。はっきり言いますが、ありゃあ俺じゃないです」
『は?』
『嘘乙』
『あんなことした奴が自分じゃないわけないだろ』
「本当だって! 俺にもさっぱりわからんのですよ!」
俺は必死に訴えかけた。
『そもそもS級モンスターを一撃で倒せる奴がどんだけいるんだ』
『あんなん出来る奴限られてるぞ』
『キチクなら出来るだろうしキチクしか考えられない』
「そりゃあデーモントロールなら倒したこと何回もありますけど、あんなことするためだけに学校終わってすぐ新幹線で東京のダンジョンまで行って倒して脱いで踊ってその後でまた遠野に戻るってやらないでしょ普通!」
『普通はやらないな確かに』
『でもキチクだしなあ……』
「俺だからなあ……で片付けないでくださいよ! 俺は無実だ! マジで違うんです! 誰かが俺のふりをして配信をしたんですよ!」
俺は力説する。
『じゃあ誰がやったんだよ』
『なんでそんなことを』
『誰かが俺の振りをした……常套句すぎるww』
『キモすぎワロタwwwww』
『そこまでするか……』
『キチクはどこまで堕ちていくんだろうな……』
『こないだ街中で刀振り回して包帯の患者斬り殺して警察沙汰になってたしな』
『いつかやると思ってました』
『あれ? これ本当にキチクなのか? ただのそっくりさんでは?』
『キチクって自分で自分の事を人気者って言ってたらしいしな、なりすましとかもあり得るんじゃね?』
「ちょ、ちょっと待って! 俺そんなこと言ってませんよ!?」
俺は慌てた。身に覚えのない誹謗中傷に戸惑う。
「だいたい、あの動画には決定的、かつ致命的なミスがあるんです」
俺は言う。これは断言できる。
『何?』
『何の話?』
『ご立派様のサイズが違うとか』
「尻子玉は食べて使うものじゃない!!」
……。
コメントが静かになる。納得してくれたのだろうか。
俺は続ける。
「そもそも尻子玉とは、河童が人間を襲って抜き取る生命力の塊なんです。
尻子玉を抜かれた人間は生命力を失い衰弱死する。
だから人間の友達であるタガメが尻子玉を抜くわけがないし、抜かれたら俺だって死にます。
そして尻子玉を食べるのは妖怪たちだし、人間がそれを食べても傷が治る事はないんですよ。
そもそも河童の妙薬の製法は別です。詳しくは俺も知らないけど、薬草や小動物なんかを使って調合するらしいですし」
『そうなの?』
『知らなかった』
『キチクが言ってるだけだろ』
「俺が言ってるのは確かな筋の情報です。河童淵のタガメから昔聞きましたから。
とにかく俺はやってません。今まで頑張ってダンジョン攻略やらゲーム配信やらで少しずつやってきてみんなから認知されてこれからって時に、あんな迷惑系みたいな方向転換するわけないでしょう!
仮にそっちの方向でいくとしたらあんなことしでかした上でここで否定して謝罪したりしませんよ!」
『まあそれはそう』
『キチクはやるといったらやるし』
『反響のでかさにビビってるだけ』
『へたれが怖くなって方向転換』
「違います! マジでやってない! 信じてください!」
俺は必死に訴えた。
『じゃあ誰だよやったやつは。お前がやってないって言うなら他に誰が出来るんだよ』
「い、いや……その」
俺は口ごもった。
『はい犯人確定』
『やっぱりな』
『やったやつが出てこない時点でお察し』
「……妖怪の仕業です」
『んなわけねえだろwwwwww』
『それ法廷で言ってみろ精神病院行きだぞ』
『お粗末すぎる弁明』
『はいキチクの負け』
『言い訳乙』
『誰も信じてくれない悲しい事件だったね(笑)』
『この流れでまだ白を切るのかよ』
『いい加減にしろよ』
「ぐっ……」
反論できない。遠野の人々や、俺のリスナーたちは妖怪を知っているし信じてくれている。テレビで水虎テクノロジーの事件も報道されていて少しずつ妖怪の噂は広まっている。
しかし、世間では妖怪はあくまでも……ダンジョンモンスターの一種であり、知性がある個体もいるらしい?という程度だ。
世間は信じてくれない。
そしてコメントは、俺を信じてくれる味方と、信じてくれない人たちの間で口論になり荒れ始める。
このままではやばいな……。
「とにかく! みなさん力を貸してください、真相究明のために。俺も全力で犯人を探し出し、この騒動に決着をつけます!
それでは今回の配信はここまでにします!それじゃあまた明日!」
俺は強引に配信を終了した。
「ふう……」
配信を終えて一息つく。
状況はかなり悪いと言える。
バズることはいい事だけではないとはよく言われるけど……それを思い知った。
しかし、それでも……
「信じてくれる人たちは、いた」
コメントで俺の味方をしてくれる人。信じてるといってくれる人。
そういう人たちが……確かにいた。
「修吾様……元気出してください」
鈴珠が言ってくる。
「ああ、そうだな」
俺は彼女の頭を撫でる。ふわふわした髪が心地よい。
「俺は……今は一人じゃない。だから頑張れる」
「はい、私たちも手伝います!」
「ありがとう」
俺は、絶対に犯人を見つけ出すと決意した。
負けてなるものか。
何の妖怪か知らないが……遠野の人間を舐めるんじゃねえぞ。
遠野人は妖怪に舐められたら負けなんだ。
絶対に頭カチ割ってやる。
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