第46話 おまわりさんこっちです
轢いてしまった。
千百合が戻ってこないので、みんなで手分けして探していたわけだが……自転車で遠野の町を走り回っていると、白い服の男たちが千百合と鈴珠を襲っているのを見た。
慌てて突っ込んだわけたが……勢い余って、自転車で顔面を轢いてしまった。
というか、いい音がした。
砕けて折れる衝撃を感じた。
……殺してしまったか!? そんな、なんてことを――。
いや待て落ち着け。
しかし刀で人を襲っている奴らだ、これは緊急避難って奴だろう。
日本の法律は俺の味方だ。
「千百合、大丈夫か……!」
そして俺は気づく。光景の異様さに。
遠目から見たら白い服を着た変質者程度だったが、実際には日本刀を持った全身包帯のママチャリ軍団だった。
なんだこれ。異様すぎるだろう。
いや、聞いた事がある。東京にいた頃にだ。
たしか、トンカラトンの都市伝説。
かつてと怪談系のテレビアニメで描かれ爆発的に流布され、全国で存在が確認されるようになった――伝承と口伝が形作る怪異。
その伝承とは、自転車に乗って現れる包帯の怪人。彼に出会った時、「トンカラトンと言え」と言われる。言う通りにすれば殺されないが、言わなかったら刀で斬り殺され、そして被害者はトンカラトンになってしまう……というものだ。
だとすると……!
「……と、トンカラトン!」
俺はその言葉を言う。
都市伝説にはルールがある。都市伝説とは理不尽な恐怖が大半だが、それに対抗する打開策がある事が多い。
20歳までとある言葉を覚えていたら死ぬ、という都市伝説には、この言葉も覚えていれば助かるというものがある。
他にも、口裂け女という怪物には、ポマードという呪文を唱えればよい。
トイレの花子さんや怪人赤マントなどの「赤か青か」の二択には黄色と答える。
そういったものがこのトンカラトンにもあり、「トンカラトン」と言えば助かる、というものだ。
だが……
「トンカラトンと言えぇええ!!」
トンカラトンは刀を振ってくる。
「言っただろうが! くそ、厄介なパターンか!」
トンカラトンと言っても襲われ殺される、という伝承もある。
そうなればもう、あとは……。
「ふんっ!」
俺は刀を両掌で挟む。真剣白刃取り、というやつだ。
そしてそのまま、胴体を蹴り飛ばす。
「トンンンンンッ!」
トンカラトンの身体は吹き飛び、壁に叩きつけられる。
……刀を掴んだ腕を残して。
刀は俺が掴んだままだ。トンカラトンの腕が千切れたのだ。
しかしこれは別に、俺の攻撃力がおかしいというわけではない。
「……やっぱりか」
腕の千切れた断面は腐っていた。
いわゆるゾンビみたいなものか。
なるほど、トンカラトンに殺された者はトンカラトンになるというが……ゾンビの感染というやつか。
怖いな。
だけど……だったら話は簡単だ。ゾンビ系モンスターなら東京のダンジョンで狩ったことはあるし問題ない。
「全部、潰せばいいだけだ。うちの相棒をよくも可愛がってくれたなあ、ミイラ野郎」
俺は剣呑な雰囲気で呟いた。
「……鈴珠」
彼らの足元には鈴珠が倒れていた。千百合が彼女を抱きかかえている。
背中から大量の出血をしている。呼吸が荒いのを見ると、危険な状態かもしれない。
「……不味いな」
俺は舌打ちする。
鈴珠の傷はかなり深い。このままでは命にかかわるんもしれない。
だが、どうすれば良い? そもそも俺はスキルが使えないし、たとえ使えたとしても――ここはダンジョン外の、遠野の町だ。意味がない。ダンジョン産のアイテムも、俺は持っていない。
俺が呪術師なんかだったらダンジョンでなくても力が使えたんだが……いや、無いものねだりはやめておこう。
今は……
「時間がないんだ、手加減なしでいく」
トンカラトンの持っていた刀を手にし、俺は言う。
「かかってこいよ、包帯男ども」
「トンカラト「トンカラト「トンカラトンと「トンと」言えええええええ!!!」
トンカラトンたちは一斉に斬りかかってきた。
「本当にそれしか言えないのな! ダンジョンのモンスターかよ!!」
それを全て切り払う。
トンカラトンの身体が切り裂かれ、腐った血を吹き出しながら倒れる。
俺はその死体を踏みつけ、次のトンカラトンへと走る。
「――っ!」
背後から殺気を感じ、咄嵯に身を翻すと――
「トンカラトォオオッ!」
トンカラトンが刀を振り下ろしてきた。
「ちぃっ!」
刀を弾く。
俺は体勢を崩したトンカラトンを袈裟懸けに切り裂き、返す刀で別の包帯男を斬る。
血飛沫が上がり、トンカラトンは倒れていく。
だがまだだ。
囲まれている。まだまだいる。
「邪魔だぁああっ!」
俺は叫び、一心不乱に刀を振るう。
汚い返り血がかかるが、気にしてはいられない。
俺はトンカラトンを斬り続けた。
しばらくしたら、トンカラトンはいなくなっていた。
そこには血の痕と包帯、そして――刀。
そして、血まみれで倒れている鈴珠と、それを抱きかかえている千百合だ。
……ん?
この状況、客観的に見たらヤバくない?
そう思った時――
「警察だ!」
ライトが照らされる。自転車に乗ったお巡りさんが駆けつけた。
……。
俺、もしかして終わっちゃいましたか?
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